Hal Foster / The Return of the Real: The Avant-Garde at the End of the Century

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The Return of the Real: Art and Theory at the End of the Century (October Books)
Hal Foster
The MIT Press
売り上げランキング: 79,080
アメリカの美術批評家、ハル・フォスターの『The Return of the Real: The Avant-Garde at the End of the Century(リアルなものの回帰)』を読んだ。この本はTwitterでアダム高橋さんに教えてもらったのだった。ラカンだのベンヤミンだのクリステヴァだのドゥルーズだのフロイトだのバルトだの、現代思想を使いながら現代アートと芸術理論を切りまくる美術批評の本である。なので、当然現代アートが好きな人とかそこそこ知っている人、見たことはあるがよくわからなかったけど気になる! みたいな人向けの本なのだと思う。で、わたしは全然現代アートのことを知らないんで、そうした読者層からまるっきり外れる。

けども、挿入されてる作品の写真なんかで「ほう、こういう人がいるんですね。それで、そういう意味があるんですか」と辛うじてついていくことができた。知らないけども、それは知らない現代アートの作家名前を知るきっかけとなったし、現代アートのカタログ的なものとしても読めるのだと思う。そういう意味では良い本。言ってることはそんなに難しくない。が、主に精神分析の言葉をいちいち調べるのはめんどくさいし、ただ、ラカンだ、ベンヤミンだ、と日本語でもよくわかってないものをバンバン出してくるので怯む。翻訳が出ても良いのにね、と思う(原著は1996年にでている)。

第1章の冒頭部分なんか、いきなりフーコーの『作者とは何か』の話から始まる。フーコーはこの著作で、マルクスとかフロイトみたいな人は「散漫なおけいこをはじめた人」でしかなくて、その後に読み手によって彼らのテクストが読まれ、解釈されることによって、その思想や言説が構築されるんだよ、というようなことを書いているらしい。で、著者は、ここでフーコーはアルチュセール(マルクスを読み直した人)とラカン(フロイトを読み直した人)のことを念頭においていたんである云々……と、いきなり現代アートとかどこに行ってしまったのか、みたいな感じになるんだが、そこから1930年代のアヴァンギャルドと、1960年代のネオ・アヴァンギャルドの話に突入していく。

……こういう語り口、まだ好きな人いるでしょう。現代アートが芸術的な枠組みに対してどういう挑戦をおこなったのか、あるいは、現代アートがなにを言っているのか、っていうのが、こうした調子で語られる面白さ(と、なんとなくカッコ良い感じ)は、まだ売り物になると思うんだけれども……いや、もっとわかりやすい現代アート入門とか普通にあるんだろうな、今は。

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ハーマン・メルヴィル 『白鯨』

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白鯨 上 (岩波文庫)
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ハーマン・メルヴィル
岩波書店
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白鯨 中 (岩波文庫)
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ハーマン・メルヴィル
岩波書店
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白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)
ハーマン・メルヴィル
岩波書店
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ホメロスに引き続き、読んだことなかったクラシックに触れるシリーズで『白鯨』を読んだ(書影は岩波文庫の新訳版ですが、読んだのは古い方の阿部知二訳)。この本については読む前から「モビィ・ディックがなかなかでてこない」「クジラに関する博物学的な記述に溢れてる」「すげえ脱線しまくる」という情報は知っていた。もはや「エイハブ船長とモビィ・ディックの死闘のイメージを持たれがちだが、実はそうじゃない」ということが周知されているから「エイハブ船長とモビィ・ディックの死闘のイメージを持つ人」が少なくなっているんじゃないだろうか。で、読むのがキツそうだな、と思って読み始めたんですよ。でもさ、意外に(?)面白くてビックリしちゃったね。いや、普通に面白いじゃんか、『白鯨』、なんだよ、ビビらせないでよ、と思っちゃったわたしである。

特に序盤、語り手がイシュメイルが捕鯨船に乗るまでの話。イシュメイルが刺青だらけの南方土人と偶然出会って義兄弟的な契りを結ぶあたりのエピソードは、セルバンテスやラブレーの作品で語られるバカ話のような朗らかさがあって笑ってしまった。そりゃあ、延々とクジラの分類だとか、船の上での振る舞いとか、クジラの生態に関する学術的な考察が続くところはたしかにキツいんだけれど、その記述自体が面白い。アリストテレスに、プリニウス、アルドロヴァンディやキュヴィエといった名前が登場してくるところには、特別興味を惹かれた。メルヴィルは19世紀の人だけれども、この当時にアルドロヴァンディを参照する(しかも『白鯨』を発表した時はメルヴィルは32歳だ)って、普通のことなのか、それとも珍しいことなのかが気になってくる。経済的に恵まれた環境で執筆していたわけではないのに、よくこういうものが書けたな……(しかもインターネットも当然ない)という単純な関心も起こる。

あと、エイハブが壊れた羅針盤を直すくだり。エイハブは狂ったテンションで鉄を叩いて、磁性を与え、新しい羅針盤を作り出すんだけど「え、そんなことって当時から知られてたの!?(この現象について、わたしは、でんじろう?とかゲンゴロウ?とかそういう名前の先生がでてるテレビ番組で知っていた)」と驚いてしまった。調べてみたら、磁石の会社のホームページに「磁石の歴史」というコーナーが見つかる。このサイトによると1600年にイギリスのウィリアム・ギルバートが『磁石論』という本をだしていて、鉄をハンマーで叩くことで磁石を作る方法が紹介されているらしい(そういえば、アタナシウス・キルヒャーもデビュー作は磁石に関する本(1631年)だし、なんか色々繋がってしまうな……)。こういうところを拾い上げていくと『白鯨』ってSFじゃんか、と言えなくもない。

小説のテクストのなかに、異質なものが混入している、それどころか異質なテクストのなかに小説が混じっているような本だと思うんだけれど、セルバンテスやラブレーとか読んでいると、それほど特異なものとも思わない(こういうものを書いていたら、そりゃあ生前には評価されないわな、ということはわかる)。これってすごくルネサンス的な小説なんですよね。今回読んでみて、それがピンチョンにも受け継がれていることを肌で感じ取ることができた。

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Dornik / Dornik

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Dornik
Dornik
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Dornik
Caroline (2015-08-06)
売り上げランキング: 256,318
Dornikの初ソロ・アルバムについては、盟友tdさんのブログで知った(Apple Musicへのリンク)。どういうミュージシャンかはtdさんの記事に詳しくすでに書かれているけれど、ほとんどすべての楽器を自分で演奏する若干24歳のマルチ・プレイヤーらしい。いや、これはすごいですね。ファレル・ウィリアムズが作り出す今風の音作りでモダナイズされた、プリンス(そして、マイケル・ジャクソン)みたいな世界が展開されていて「これ、好きじゃないわけないだろう……!」という感じだった。Apple Music導入以降、新譜を聴く枚数がこれまで以上に増えているのだが、これは何度も繰り返して聴いている。中毒性が高くてとても新鮮。なにが新鮮かというと、プリンスやマイケル・ジャクソンを彷彿とさせるような楽曲(1局目の打ち込みなんか、めちゃくちゃ『Dirty Mind』っぽい)で、ファレルみたいな音作り、なのにエグみが全然なくて、サラッとしている。そこに恐ろしいまでのスタイリッシュさと完成度を感じるのだった。

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Zé Manoel / Canção e Silêncio

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歌、そして静けさ(仮)
歌、そして静けさ
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ゼ・マノエウ
コアポート (2015-09-16)
ブラジル北東部出身のピアニスト / SSW、ゼ・マノエウの2015年新譜を聴く(Apple Musicへのリンク)。本作にはカエターノ・ヴェローゾの息子世代の超売れっ子ミュージシャン、カシンも全面的に参加しているということだが、彼やモレーノ・ヴェローゾらが打ち出しているニューウェーヴを咀嚼したMPBや、アート・リンゼイが再解釈したブラジル音楽のテクスチュアを全面的に取り入れているわけではなく、アコースティックなジャズ・サンバの基調となっている。ストリングスとゼ・マノエウの流麗なピアノ、そして、彼自身の素朴な感じのヴォーカルによって彩られた室内楽的な響きは、ミナス新世代の作り出すそれとも共鳴していて「なるほど、こういう人もいるのか」と感心した。カシンが参加、モレーノ・ヴェローゾが参加、と言われるとどれも似たような音がでてきてしまって「たしかに良いんだけどさぁ……」と食傷気味になってしまうときがあるんだが、これはすごく新鮮。

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Negicco / ねぇバーディア

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ねぇバーディア 初回限定盤B
Negicco
T-Palette Records (2015-08-11)
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新潟在住3人組アイドル、Negiccoの新譜を聴く。Apple Music導入後、もう音楽はこれ一本でいく、と思っていたのだが、これは配信で買った。買わざるを得なかった。まずはPVを見て欲しい。

最高でしょうがッ、と思った。毎回著名アーティストとのコラボレーションが定番化しているNegiccoだが今回はA面曲のプロデュースをレキシがおこなっているとのこと。といってもわたし、レキシという人たちを「アフロの人が、歴史をテーマにした歌を歌うグループ」という認識しかなく、全然わからないのだったが曲は最強に夏まっているし、イントロ終わりからはじまるバッキング・ギターの音色とベースラインで死んだ。タイトルの「バーディア」についてググッたら、これは、EW&Fのオマージュであるらしい。

B面曲は歌詞をMEGが担当。これは正直、イマイチピンとこなかった(ジェーン・スーの歌詞を体験してしまったあとでは、もはや相当にハードルがあがっていると言って良いのかもしれない。曲は悪くない)。毎回楽しみな過去曲のリミックスですが「フェスティバルで会いましょう」のbo enによるリミックスが、大変に面白かった。イギリス在住のアーティストなのだが、このハズし具合は、言語の違い、文化の違いのようなものを如実に感じさせる。

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ホメロス 『イリアス』

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イリアス〈上〉 (岩波文庫)
ホメロス
岩波書店
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イリアス〈下〉 (岩波文庫)
ホメロス
岩波書店
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クラシック中のクラシック、ホメロスの『イリアス』を読み終える。まだ読んだことがない人のためにいくつか書いておくと、この『イリアス』はトロイア戦争がはじまってから10年目のところからはじまっているので事情を知らない人には「えっ? えっ?? なんでこの人たち戦争してんの??」という疑問が当然浮かぶ物語のなかに投げ込まれることになる。なので、読む前にWikipediaのトロイア戦争のページを読んでおくと状況把握には役立つだろう(なお、トロイア戦争のはじまりについて語ったホメロスのテクストは、現代にほとんど伝っていない)。

ただ、雑な読み方をしていても充分楽しめるので、そういうのを真面目に捉えなくても良い気もする。登場人物もかなり多いけれど、一生懸命覚えて読む必要はない。重要人物以外は結構バンバン死んでいくので。まあ、とんでもない話なんですよね。人間が一生懸命戦争をしているのだが、それはオリュンポスの神々の代理戦争であり、神のなかの最強の存在であるゼウス(刃牙でいったら範馬勇次郎)は人間たちが殺し合いをしているのをゲラゲラ笑いながら見ていたりする。そこに「なんなの? ひどくない?」と思うのだが、アカイア勢(ギリシア)とトロイア勢は、男のプライドをかけて一生懸命殺し合いをする。人間たちにはそのへんの神々の事情とかよくわかってない。

神々の戦い(これもゼウスとその妻ヘレの夫婦喧嘩みたいなしょうもない争いがあるんだが)は、人間のレヴェルでは女を取った取られたとか、戦友を殺されたとか、そういう話になっていて、ちょっとヤクザ映画みたいなのでとても楽しい。また、神々はアカイア勢、トロイア勢どちらかの味方にはついているのだが、直接人間に手を下すわけではなく、あくまで人間を助ける立場であり、神は神同士でしか戦わない、というルールが見えてくる。そういうルールがわかってきたあたりで、アカイア勢の総大将アガメムノンに女を取られて不貞腐れ、戦闘に参加しなかったアキレウスのもとにその戦友パトロクロスが「なんとかこらえてつかぁさい」的な感じで宥めにくるあたりから、物語がどんどん加速していって最高。アキレウスが動くようになってからはRPGっぽさも全開になり全く退屈しなかった。戦っている人間も、半分は神様(神々の子供たち)であったりして、失われた武器をなんとかするために母親の神様が息子のために「伝説の最強の武器」みたいなのを授けたりするんです。『ロトの紋章』をなぜか思い出す。殺し合いのルールで言えば、倒した敵の武器は剥がして(あとで部下に配ったりする)、死体は晒し者にする、というルールもあるみたいだった。

殺し合いの描写はなかなかゴア表現に富んでいる。たとえば、槍で腹を突かれて内臓が飛び出るのを手で必死に受け止めようとしている、とか、槍で突かれて地面に倒れたところを戦車で轢かれて頭がグシャグシャ、とか。とても映像で観てみたくなった。アキレウスが本格的に動き出すまではわたしもややツラい読書だったのだが、前半は戦の前とか後に、牛を屠ってみんなでバーベキューをして食べる、といった牧歌的な情景も描かれ、その様子がワイルドで美味そうだったのが良かったな。古典を読むときって大抵「退屈なんだろうなあ……」とかなり期待薄に読み始めるのだが、面白かったです。良い意味で裏切られた感じ。

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佐野元春 & The Coyote Band / Blood Moon

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BLOOD MOON(通常盤)
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佐野元春&THE COYOTE BAND
DaisyMusic (2015-07-22)
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これもまた先日の北海道旅行で運転していたレンタカーの車内で知った。佐野元春ってわたしは全然聴いたことないミュージシャンだったんだけれども、なんか凄まじくハマっている。「この人の歌詞はなんかスゴいな」というところで、まずハマってしまった。その言葉は、松本隆のような情景や、山下達郎のような内面の描写ではなく、とても日常的な言葉で語りかけるようにあり、ときに恥ずかしくなるほどシンプルで、アニメソングのように力強いのだが、メロディのうえにその語りかけるような言葉が、流れるように乗っている奇跡に驚いてしまうのだった。こういう日本語はどういうところから来ているのかな、言葉のリズムはディランみたいだけれど……とWikipediaを読んでみると、そうか、やっぱりディランの影響下からこういうのが生まれて来るんだ、と納得したが、決して真似事ではないし、わたしの世代の音楽に「98年の世代」という新しい日本語ロックの金字塔的なグループ群がいるけれど、全然、佐野元春のほうがすげーじゃん、とめちゃくちゃに感激している。音も貧乏くさくないし、まるでトム・ペティのThe Heartbreakersがジョニー・キャッシュの晩年のアルバムに参加しているときのようなソリッドなロックンロール・サウンドがとても気持ちよい。

ジャケット写真はヒプノシスっぽいが、やはりヒプノシスの流れを組むデザイナーが担当しているとのこと。

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土岐麻子 / Bittersweet

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Bittersweet(CD+DVD)
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土岐麻子
rhythm zone (2015-07-29)
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先日、北海道旅行にでかけていてレンタカーを運転しながら聴いたFMラジオで土岐麻子の新譜がでることを知った。なんでも「都会で暮らす不惑の女性のサウンドトラック」というコンセプトだそうで、なんだその浮ついた感じの文字面は……と思ったが、最高だった。思うに『乱反射ガール』と同等、それ以上の名盤。

土岐麻子自身もまたアラフォー女性なのだが、ジャケットのとてもキュートなお姿はとてもアラフォーには思えず、なんっつーか「エヴァーグリーンな可愛さの権化」みたいである。もちろん、エイジングはあるんだけど、でも可愛い。良い。この良さを的確に表現する言葉をわたしはいまだ持たない。

本作でコンセプトプロデューサーをつとめているのが、ジェーン・スー。作詞でもリードトラックである「セ・ラ・ヴィ ~女は愛に忙しい〜」に関わっているのだが、これも凄まじく良い仕事をしており、この人の書く詞は、つんく♂と同じレベルの強烈なフックを放っているときがあるな、と震撼した(Negiccoの歌詞でも死ぬほど良い歌詞を書いているのだ……)。

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