大江健三郎 『万延元年のフットボール』

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万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)
大江 健三郎
講談社
売り上げランキング: 18,523
戦後文学の最高峰、と言われる大江健三郎の小説を読む。大江の小説は、去年自選の短編集を読んだのが初めてだったのだが、そのとき、憲法9条を守れ! とかノーベル文学賞とったりとか、立派な、聖人みたいな(こういう書き方は揶揄を込めているように受け取られるかもしれないが……)活動からは想像がつかなかった、グロテスクな内容に驚いたのだった。が、本作も同じ、感想を抱いた。これから大江健三郎の作品に触れようとする若い人は、同じようにびっくりするんじゃないかな、とか思う。「戦後文学の最高峰」という謳い文句で読むじゃないですか、おお、これが、あの大江健三郎の作品ですか、と。坂本龍一と政治的なスタンスがだいたい一緒だから、ああいう小説か(共通点はメガネと白髪ぐらいしかないし、「ああいう」がなにかはわからない)、みたいな人もいるかもしれないじゃん。で、ページを開いたら、肛門にキュウリを突っ込んで自殺する人とか出てくるし、NTRだし、で、なんだこれ、と思うのではないか。

立派な小説だな、とは思うけれども、わたしは全然好きではない。というか、よくこんなことが書けるな、と思ってしまった。障害がある子供が生まれる、という作者の経験が本作にも投影されている。それで、主人公夫婦のあいだには、修復しがたい問題が生じちゃってるわけ。「愛は地球を救う」とか考えちゃっているようなテレビ番組制作者目線で言ったら、こういうのって「生まれてきた子供には障害があったけど、夫婦は、ファミリーは幸せです」みたいな物語として処理されるじゃないですか。でも、そうじゃないの。すっごいダメージを負っちゃて、とんでもないことになっちゃうの。それは、まぁ、正直だな、という気がする。どこまでが作者の個人的な経験かは知らないですよ、でも、当然、投影されてるんだろう、と読者は思うじゃない。でも、それは作者の個人的な経験、でありながら、その妻の経験でもあるわけ。もちろん、息子自身の経験でもあって。そういう自分だけのものでないものを、お話にしてしまうところって、どうなのよ、って思ってしまう。わたしがそんな作家だったら、妻はきっと辛い思いをするんじゃないか。

さまざまな痛みが書かれている小説だよなぁ、とは思う。政治的な闘争で挫折して傷ついてる、とかさ(その挫折には一切共感できないけども)。

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Nona Reeves / Blackberry Jam

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BLACKBERRY JAM
BLACKBERRY JAM
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NONA REEVES
BILLBOARD RECORDS / 株式会社阪神コンテンツリンク (2016-03-23)
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プリンスの急逝より打ちひしがられていたけれど、インターネットでプリンスに関する記事をいろいろと読んでいて、 Nona Reeves の新譜がプリンスに捧げられたものだと知る(プリンスの死に関しては続々と新しいニュースがでてきている。さっき驚いたのは、死の直前彼が6徹してた、というニュース。この記事では死の直前に彼が購入したレコードについても言及されている。故人のプライベートな情報ではあるけれど、スティーヴィー・ワンダーにサンタナにジョニ・ミッチェルなどを購入した、とあり、グッときた)。

西寺郷太の仕事は、昨年の『プリンス論』であったり、Negiccoへの楽曲提供で触れていたが、Nona Reevesはちゃんと聴いたことがなかった(たぶん、デビューして間もない頃にFMで流れていたと思うが、楽曲の記憶はない)。ジャケットのプリンス・カラーに思わず、購入する指が動いたけれど、とんでもなく良い出会いで。プリンスの初期のアルバムとこのアルバムを交互に聴いている。

プリンスそのままのサウンドではない。けれども、プリンスをひとつの源流とした音楽のエッセンス、2016年の日本にたどり着いて、成熟しましたよ、ということがハッキリと感じられる楽曲ばかり。歌詞もすごいグッとくるし(1曲目「Harmony」から「一昔前までの俺たちは、Mr. Maniacと呼ばれたけど、いまじゃ、それぞれのスキルだけを、武器にして平和な音楽をつないでる」とかパンチラインが連発する)、骨太なポップ・ソングが並んでいる。なんでもっと早くから、このバンドの音楽に気づいていなかったのか、と反省した。


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最近買った音源など(Luz de Agua、ユーミン、Negicco)

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Luz de agua : Poemas de Juan L. Ortiz - Canciones
Sebastián Macchi - Claudio Bolzani - Fernando Silva
bar buenos aires (2016-01-31)
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Luz de agua : Otras canciones
Luz de agua : Otras canciones
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Sebastián Macchi Claudio Bolzani Fernando Silva
bar buenos aires (2015-06-28)
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しばらくApple Musicで音楽的な消費を済ませてきたが、こないだApple Musicで聴けなくて、とっても聴きたい気持ちが抑えられずCDを2枚買った。セバスティアン・マッキ(ピアニスト)、クラウディオ・ボルサーニ(ギター)、フェルナンド・シルヴァ(ベース)によるアルバム「Luz de Agua」のシリーズ。

1枚目「Poemas de Juan L. Ortiz」は、アルゼンチンの詩人、フアン・L・オルティスの詩と音楽のコラボレーション、とでも言うべき作品で、淡く陰りを感じるアコースティックな音像が素晴らしい。日本盤には詩の訳がついているんだけれども、読むと自然の風景を見て「これ、良いな、良い景色だな」と思わず、写真でも撮りたくなってしまう瞬間(それで行って、撮った写真を見返すと、そのとき良いな、と思った感じがまったくに失われてしまっている)について書かれている。その儚い、けれども、とても印象的な言葉と、この音楽はすごく合っている。2枚目は、1枚目から10年後に録られたもの。1枚目よりも少し色が多くなっている。

松任谷由実40周年記念ベストアルバム 日本の恋と、ユーミンと。 (通常盤)
松任谷由実
EMI Records Japan (2012-11-20)
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友達が聴いて〜、というので買った。ユーミンってまともに聴いたことがなかったんだが、すげぇね。知ってる、知ってる〜、と思った。

矛盾、はじめました。(2CD)(初回限定盤B)
Negicco
T-Palette Records (2016-03-29)
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あと、Negiccoの新譜も買ってた。土岐麻子が詞を書いている「矛盾、はじめました」がすごく良いし、「おやすみ」の宮内優里によるリミックスも良かった。

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なぎら健壱 『東京酒場漂流記』

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東京酒場漂流記 (ちくま文庫)
なぎら 健壱
筑摩書房
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フォーク歌手、なぎら健壱による酒場めぐりのエッセイ、というか、これはフィールドワークの本、と言っていいのかもしれない。東京のあちこちにある「酒場」、「飲み屋」という言葉に相応しいお店に顔を出して、思い出なりなんなりを綴っている。初めて書籍化されたのが1983年なので、書かれているお店も相当に閉店しちゃっているハズだし、「神谷バー」とか「いせや」とか有名な老舗についても近年になって改装してしまっているから、本書に書かれている様子とはまったく違った現在があるハズだ。ガイドとして使おうとすると、役に立たないであろう。

しかし、逆に考えると、その現在と過去との差分にこそ、本書のフィールドワーク本としての価値がある、とも言える。要するに、過去の東京(の酒場)にはこんな店があったのね、とか、こんな酒の飲み方があったのね、という記録である。筆者が書き残している街の風景も「昔は、この街ってこんなだったのか」と思わせられた。たとえば「神田の街はとにかくキャバレーが多い」とか。昔の東京って今よりずっと猥雑だったんだな〜、と思う。

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土井善晴 『土井善晴さんちの「名もないおかず」の手帖』

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土井善晴さんちの「名もないおかず」の手帖 (講談社+α文庫)
土井 善晴
講談社
売り上げランキング: 204,070
いま、わたしが最も動向を注目している日本人こと料理研究家の土井善晴先生のレシピ本が昨年文庫化されていた。写真でリッチに見せるレシピ本が多いなかで、土井先生の本は、少ない言葉でエッセンスを教えているので、文庫でも価値が落ちない本だと思う。やはりタイトルが哲学的というか、思想を感じる。日本人の日常食は、洋食のように料理名がついていない。「たとえば、小松菜と油揚げの煮びたしとか、玉ねぎと豚肉の炒めたのとか」。食材と調理法の組み合わせによる「名もないおかず」たち。そして、白いご飯。うまい。そこで、ご飯プラスおかず、という食事の様式について改めて考えさせられることになる。「素材から始まるおかず作りの本、どうぞキッチンに置いて活用なさってください」。

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ジョン・マンデヴィル 『東方旅行記』

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東方旅行記 (東洋文庫 (19))
J・マンデヴィル
平凡社
売り上げランキング: 578,070
ジョン・マンデヴィルの『東方旅行記』は、物好きには大変有名な本。14世紀の正体不明、実在したかも怪しいイングランドの人物が書いた東方旅行記である。イングランドから現在の中国までにどういう土地があって、どんな風習があり、どんな人たちが住んでいるのか……がつらつらと書かれているのだが、他人の旅行記からの剽窃から構成されており、筆者のマンデヴィルがホントに旅行したかどうかも相当に怪しい、という相当なシロモノである。「アフリカには一本足の人間が住んでいて、すごく早く走る」とか「インドには犬の頭を持っている人間が住んでる」とかプリニウスの時代から伝わっている話なんかも収められている。たまに「これは、わたし、マンデヴィルが実際に見たから間違いない、嘘じゃない!」とか書いていて、余計に嘘っぽかったりして楽しい。

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シモーヌ・ヴェイユ 『重力と恩寵: シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄』

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重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)
シモーヌ ヴェイユ
筑摩書房
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シモーヌ・ヴェイユが生前にノートに書きためていた文章を編集した本。

編者であるギュスターヴ・ティボンが寄せているヴェイユの生涯に関する文章を読むと、ものすごいハチャメチャな人だったことがわかる。若くして先生の資格を取る才女、でありながら、左翼活動に激しく参加したり、病弱なのに労働者の気持ちがわかりたい! と言って自動車工場で働いて体を壊してみたり、正義に燃えてスペイン戦争に従軍しすぐに炊事場で大やけどを負って帰国したり、第二次世界大戦中は食料が手にはいる環境でも制限がある人々と同じ量の食事しか取らず、無理がたたって34歳で亡くなってしまう。

周りにいたら間違いなく「あの人、悪い人じゃ無いんだけれど、現実見えてないよね。ちょっと迷惑だよね……」と思うであろう。ヒドい言い草だけれども、超空回り人間だし、5kgのダンベルも持ち上げられないのに、ベンチプレス120kgに挑戦して大骨折……みたいな人生だったのではないか……。ものすごくよい言葉を使えば、聖人めいている。

体系だってなにかが語られている本ではない。というか、なにひとつ意味がはっきりとわからないのだが、なにかあるような気がするし、なにか引っ掻かれたような気分になるテクストの断片、という感じである。「矛盾すること。今日、人々は、全体主義を渇望しながら、全体主義に嫌悪をおぼえている」。ぼやーっと読み過ごしてしまうのだけれども、時折、ハッとするような断片に出会う。

きっと何かがある。でも、なにが書かれているのか、読み込む時間も、気力もないのだった。

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阿古真里 『小林カツ代と栗原はるみ: 料理研究家とその時代』

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小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代 (新潮新書)
阿古 真理
新潮社
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昨年刊行されたときから面白そうだな〜、と思っていた本だったのだが、読んでみたらちょっと期待ハズレ……。高度成長期から今日までの料理研究家を振り返りながら、料理研究家の登場には社会の変化の反映があることを論じた「歴史の本」として書かれているらしいのだけれど、少し考えたら、社会の変化とともに流行りの(注目されている)料理研究家が変わる、って当たり前のことだろう……。もう一歩踏み込んだ分析・視点が欲しいし、社会の変化と料理研究家のキャラクターのつながりを指摘したのちに展開されるのは、料理研究家の生い立ち・プロフィールが語られ「こういう出自だからこういう料理が生まれた」というペラペラな分析が続く。料理に興味が無いおっさんが読んだら「ほっ、ほう〜」とフムフム感を覚えながら読めるかもしれないし、本書をもとに卒論を書く社会学系女子がたくさん誕生するんでは、とも思うんだけれども、これ、「歴史の本」を名乗るにはちょっとエヴィデンスが貧弱だし(Twitterで、エヴィデンスを積み上げた本、として評価している人がいたんだけども……)、ぶっちゃけ料理研究家ヒョーロンに過ぎない。

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田口卓臣 『怪物的思考: 近代思想の転覆者ディドロ』

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怪物的思考 近代思想の転覆者ディドロ (講談社選書メチエ)
田口 卓臣
講談社
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ドニ・ディドロといえばフランス啓蒙主義思想の代表的思想家のひとりであり、その思想は近代性の模範例のひとつ、と考えられてきた。ディドロの最も有名な業績であろう『百科全書』は、世界をある体系によって秩序づけるようなプロジェクトだ。啓蒙は、理性によって自然を支配するような近代的な欲望のあらわれだ……というイメージをディドロの初期代表作である『自然の解明に関する断想』を精緻に読み直すことによって、ひっくり返そう、という本。

この初期の断想を読むと、ディドロは、自分の哲学のシステム、知的な秩序を構築する思想家ではなく、むしろ、全然システムから離れた思想家だったことがわかる、と著者は言う。システマティックにものごとを記述をする部分はあるけれど、そこで採用されているシステムはひとつではなく、Aシステムに準拠したかと思えば、Bシステムに乗り換えて……ということをやっており、異なるシステムを越境したり、接続したりすることによって、ひとつのシステムから世界を見る限界を乗り越えようとしていたのであーる、と。

著者はこうしたディドロの思考法を、怪物的思考と名付ける(たぶん、キメラ的なイメージでこういう言葉を使っているのであろう)。本書を読むまでは、わたしもディドロのことをザ・近代の人(つまり、単一のシステムによって世界を記述しようとする)の典型だと思っていたから、へぇ、そうなの、ディドロ、ってホントはそういう人なの、と勉強になった。

が、そういう怪物的思考の持ち主だから、なんなの、と思わなくもないのだった。読みやすい本だと思うし、言おうとしていることがすごくよく分かる。けれども、ディドロをダツコーチク的に読み直した本、みたいに読めてしまったりして、イマイチ楽しめなかったっす。

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ギュスターヴ・フローベール 『ボヴァリー夫人』

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ボヴァリー夫人 (河出文庫)
ギュスターヴ・フローベール
河出書房新社
売り上げランキング: 252,285
さすがの名作。素晴らしい小説でこれは歴史に残るに決まってるだろ、とか思う。フローベールを読むのは『紋切型辞典』以来だが、一気にわたしのなかでプレゼンスが高まった。人間の性格を描写するのに、「○○しては××し、さらには△△し……」と例がズラズラと並ぶのがとても面白い。これが写実主義ですか、と思うのだが、その描写はきっと写実的なものではなくて、過剰な感じ、というか、文学上のシーツ・オブ・サウンドみたいだった。すごい。終盤の破綻に向かっていくところをじっくりじっくりと描き上げていくところも、めちゃめちゃ嫌な感じで、ああ、こういう嫌さ、綿矢りさにもあるな……とも思った。「これはスケベな感じになるぞ〜」と予想がつくところで、期待を裏切らずにスケベでゲスいおっさんがでてきたりするのも最高。

宮本彩子さんのこの書評が素晴らしいんだけれども「自分の人生はもっと小説みたいにドラマティックであるに決まっている……!」という夢で身を滅ぼすエンマの気持ちにも共感できる一方で、31歳のわたしは、エンマが忌み嫌う夫、シャルルの気持ちもわかってしまって、苦しくなるのだった。悪い人間じゃないけども、とにかく凡庸で退屈な夫が散々にdisられるのね。ツラい。だってさ、多くの人間が凡庸で退屈な人間じゃないですか。そういうことをシャルルの描写は気づかせてくれる、というか……。

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