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ヤン・コボウ クリスティアン・ベズイデンホウト/美しき水車小屋の娘

Schubert: Die schöne Müllerin posted with amazlet at 09.10.31 Atma Classique (2005-03-01) 売り上げランキング: 52743 Amazon.co.jp で詳細を見る  口を開くたびに「金がない、金がない」と言いがちな今日この頃ですが、当ブログのアフィリエイト・リンクからCDや本などを買ってくださっているお客様のおかげで、ヤン・コボウが歌うシューベルトの≪美しき水車小屋の娘≫のCDを買うことができました。本当にありがとうございます。このヤン・コボウというテノール歌手については先日、村治佳織と共演したのを聴いて *1 、こんなに素晴らしい歌い手がいたのか! と驚かされたのですが、録音も大変良かったです。  一音節、一音節に感情がこもっているような歌にすごく心を打たれてしまいました。これがどういった歌なのかは、各々ウィキペディアなどを参照していただきたいのですが *2 、すごくロマンというか、若さを感じる歌詞なんですよね。コボウの声質はこの内容にとてもあっている気がします。  それからクリスティアン・ベズイデンホウトによるフォルテピアノ伴奏も素晴らしい! モダン・ピアノとはまったく違った、柔らかく、室内にこもるような音色はシューベルトの音楽とよくマッチしているように思います。シューベルトの音楽は、ベートーヴェンのように外へと広がっていく音楽ではなく、もっと身近に感じられる、親密な音楽だと思うのです。ベズイデンホウトが弾くフォルテピアノはこの親密な音楽のイメージに近い。  このコボウ/ベズイデンホウト盤は、もしかしたらディースカウのとても立派な演奏よりも素晴らしいかもしれません。音楽の瑞々しさとか、肌に迫ってくる感じが他にない録音だと思われます。 *1 : 村治佳織が奏でるドイツ・ロマン派の夕べ@麻生市民館大ホール - 「石版!」 *2 : 美しき水車小屋の娘 - Wikipedia

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール/ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ

ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ posted with amazlet at 09.10.29 菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール ewe records (2009-10-28) 売り上げランキング: 235 Amazon.co.jp で詳細を見る  菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールの新譜を聴きました。MySpaceで楽曲が公開されていたこともあり *1 、発売前からかなり期待していたのですが、これはちょっと感心しない……というか、結構スッと聞き流せてしまいました。もちろん嫌いなワケではないのですが、特別な感動が湧き上がらず、これなら前作『記憶喪失学』 *2 の方がスゴかった気がします。  冒頭のマサカーのカバーで、小躍りしてしまいそうなスタートを切りつつも、オリジナルの演奏を二.五倍ほど延長したカバーは途中で失速する印象があります。この失速を菊地成孔がまさに『Killing Time』の何度目かの再発盤のライナー・ノーツに寄せた言葉を借りて表現するならば「この音楽の構造に於ける輪郭線の鋭さと速度」の前に挫折した結果なのかもしれません。もちろん、カバーという行為において、オリジナルを超えなくてはならないだとか、オリジナルを完全再現しなくてはならないだとか言う拘束などはないのですけれども。  全体的に「現代音楽とジャズとラテン音楽のブリコラージュ」とか(言葉の意味もよくわかっていないながらに)言って適当に有難がっておけば、とりあえず批評っぽく収まるであろう展開で、一言で言えば「凡庸さ」、さらに言えば「退屈さ」に襲われてしまいました。もうちょっと良いように言えば、この凡庸さはある意味で「甘さ」の裏返しなのかもしれない。ここまでハマれない理由はおそらく、前作まで作曲で参加していた中島ノブユキの不在なのではないか……とか自己分析しています。 *1 : Naruyoshi Kikuchi 菊地成孔 | ミュージック(無料)、ツアー日程、写真、動画 *2 : 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『記憶喪失学』 - 「石版!」

ルーキアーノス『遊女の対話』

遊女の対話 他三篇 (岩波文庫 赤 111-2) posted with amazlet at 09.10.29 ルーキアーノス 岩波書店 売り上げランキング: 229260 Amazon.co.jp で詳細を見る  二世紀に活躍した風刺作家、ルーキアーノスの本を読みました。なんの目的もなく、なんの前情報もなく読んだのですが、この本の表題作ともなっている『遊女の対話』という作品がかなり良い感じで面白く読みました。この作品は、タイトルどおり、遊女(まぁ、売春婦ですね)が「アイツに男を取られた」だの「あんな男はイヤだ」だのベラベラしゃべっている様子がまとめられた短い対話集、と言う感じ。なので特にストーリーらしきものはないのだけれど「二世紀の男も女も、今とあんまり変わらないんだなぁ……」と大変感心しました。とくに最高なのは、遊女にカッコ良く思われたくて「俺、すげーんだよ。この前の戦争でもいっぱい敵を殺しまくったんだZE!」と *1 嘘を並べたててみたら「そんな野蛮な男に抱かれたくない!」と逃げられてしまい「イヤ……実は今の話嘘なんだよね……だからさ、ネ……?」と言いに行く、という話。  あと『ペレグリーノスの昇天』という作品も良かったですね。解説によれば、二世紀ごろっていうのは、ニュー・エイジの比じゃないぐらい宗教だの魔術だのが大流行していたらしくて、もうカルトだらけだったらしーのですが、この作品で語られているペレグリーノスという人も、そういうカルトの親玉のひとりだったみたいです(実在の人物)。この人はいろいろあった挙句「お祭りの日に、火の中に飛び込んで死ぬ!」と自殺予告をして、引っ込みがつかなくなり、ホントに焼身自殺をしたんだって。語り手は、それをゲラゲラ笑いながら眺めてたんだけど、暇つぶしにペレグリーノスの取り巻き連中たちに「彼は火の中で死んだあと、鳥になって飛んでったんだよ! 俺、この目で見たもん!」とか言って嘘をついてたら、そのうち「そうそう、俺も見た!」とか言う人が出てきちゃう。嘘がホントっぽく語られちゃったよ! ホント、カルトの人ってさぁ……みたいな話でした。 *1 :まるで id:Delete_All のように

アドルノ『楽興の時』全解説(3) ツェルリーナへのオマージュ

  *1 一九五二/五三年に発表された「ツェルリーナへのオマージュ」は、アドルノによるモーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》論。出典のデータをみると「フランクフルト市立劇場プログラム」とあり、予想ですが、おそらくこの劇場で《ドン・ジョヴァンニ》を上演した際のプログラムに寄稿したものなのでしょう。そういった性格で書かれたせいか、文章は非常に短く、翻訳されたものはわずか三ページしかありません。ひとりごとをつぶやくような文体が『ミニマ・モラリア』に集約されたアドルノの短いエッセイを彷彿とさせ、大変意味が掴み取りにくいのですが≪ドン・ジョヴァンニ≫のストーリーを把握しているのであれば「はぁ……? 何言ってんの?」と受け流せるような内容。正直言って、スベっているとしか言いようがありませんが≪ドン・ジョヴァンニ≫のストーリーをしらない人にとってはなんだか有難そうに読めてしまうのかも。  タイトルにあるツェルリーナとは、≪ドン・ジョヴァンニ≫第一幕の登場人物です。彼女はイモっぽいけど可憐な田舎娘で、今宵、恋人のイモ男、マゼットと結婚式をあげます! と騒いでたところに、ヨーロッパを漫遊し一八〇〇人の女と寝た男、ドン・ジョヴァンニ *2 がやってくる。で、ツェルリーナはイモ女なので、簡単にドン・ジョヴァンニに誘惑されてしまうんですね。「えー、単なる田舎娘のオラが騎士様に口説かれるなんて……。強引だけどなんか素敵……」みたいな感じ。ドン・ジョヴァンニは「一人でも『今まで俺が寝た女リスト』に載ってる女が増えれば良い」って言う最高で最低な人なので、早速コイツもいただうちゃうぜ! って言う感じでギンギンなのですが、昔捨ててきた女、ドンナ・エルヴィーラが邪魔に入って上手くいかない。ツェルリーナはマゼットのところに戻ります。  しかし、マゼットのほうではフィアンセの自分を置いて、ほいほい得体の知れない男についていくツェルリーナにブチ切れ(当たり前)。「いまさら、なんなんだよ!」とツンツンしてしまうのですが、ツェルリーナは涙を流しながら「反省してるわ……、ホントは私はアンタだけのモノよ……」とか言って、なんとかご機嫌を取ろうとする。この後、二人がいるところにドン・ジョヴァンニが再登場し「幸福な二人のために、私がパーティーを開いてあげましょう(そのドサクサに紛れてヤっちまおう作戦)」とか言います。その...

最近、やっぱりこれはすごいなぁ、と思ったCDについて

Explorations posted with amazlet at 09.10.26 Bill Evans Trio Scott LaFaro Riverside/OJC (1991-07-01) 売り上げランキング: 1468 Amazon.co.jp で詳細を見る  二ヶ月ぐらい仕事が暇で、ほぼ毎日定時に帰っているため(残業代がつかず)大変苦しい生活をしております――と別に報告する必要がまったくない事柄から書き出しましたが、そういうわけで欲しいCDなどがあっても血尿が出るぐらいまで思慮を重ねたあげく「これは今買っておかなきゃダメだ!」というものしか買っていません。新しいCDを買わなくなった代わりに家にある、いわゆる「名盤」を聴きかえしたりして過ごしています。これはこれで新しい発見があって良い。ビル・エヴァンスの「リバーサイド四部作」なんか聴き直しちゃったりして『Explorations』すげー、とか一人で騒いでいます。  このアルバムって「四部作」のほかの三枚 *1 と比べると、ずっとケレン味がない。だからこそ、四枚のなかで最も地味な位置づけになっているんだと思うんですが。じっくり腰を据えて、神経すり減らすぐらい集中して聴かないと、すっと通り過ぎて終わってしまいそうなぐらい。「枯葉」とか「いつか王子様が」とか超有名なスタンダードを演奏してるわけじゃないし。でも、逆に集中して聴くと、この演奏の鋭さみたいなのが、グサッとくる。やべぇ、ポール・モチアン、超クール、みたいな。 サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番/第5番 posted with amazlet at 09.10.26 チョン・キョンファ ユニバーサル ミュージック クラシック (2001-04-25) 売り上げランキング: 29896 Amazon.co.jp で詳細を見る  あと、チョン・キョンファが二〇代後半のときに録音したカミーユ・サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第三番もすごかったです(これは買ってから二、三回しか聴いてなかった)。魂に火がつきそうなぐらい温度が高い演奏、っつーか、このボウイングの擦過音を聴いてると弓の毛からホントに火がでててもおかしくないんじゃねーか、と思わなくもない。カッコ良いです。  あと、曲も良い。円熟期のサン=サーンスの巧みさに唸らされる、というか。この人は...

秋の食卓

 引っ越したら俺、グリルがある家に住むんだ……。

ロード・ダンセイニ『夢見る人の物語』

夢見る人の物語 (河出文庫) posted with amazlet at 09.10.25 ロード・ダンセイニ 河出書房新社 売り上げランキング: 241888 Amazon.co.jp で詳細を見る  二ヶ月半ぐらい小説を読んでませんでした。久しぶりに読んだのは、ダンセイニの短編集でこれはとても面白かったです。表紙がなんかプログレみたい。この『夢見る人の物語』は、同じく河出から出ている『世界の涯の物語』 *1 と同様に初期の短編集二本を収録しているのですが、『世界の……』よりも一層、文章の幻惑感が高い気がしました。とくに短編集『ウェレランの剣』に収録された表題作「ウェレランの剣」と、「サクノスを除いては破るあたわざる堅砦」という英雄譚が素晴らしかったです。どちらも剣と魔法が登場するような典型的ファンタジーなのですが、そこでは夢が現実と魔法の世界をつなぐ橋として描かれている。この点がとても面白かったです。あと、ダンセイニの前に「あんた、前に小説で○○って書いてたけど、ホントは違うんだぜ」とダンセイニの創作にケチをつける大麻中毒の男が出てくる話とかも良かった。 *1 : ロード・ダンセイニ『世界の涯の物語』 - 「石版!」