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ジークフリート・クラカウアー 『天国と地獄: ジャック・オッフェンバックと同時代のパリ』

ヴァルター・ベンヤミンの『パサージュ論』 で言及されていた本。オッフェンバックの生涯と当時の音楽文化と政治、そして19世紀末のパリ(を中心としたヨーロッパの都市)の都市の様相を扱った多面的な文化史。時代的には、7月王政、2月革命、第2帝政、第3共和制の頃の話なんだけれども、わりと退屈な本、と思ってしまった(ベンヤミンにどの部分を引用されていたのかも覚えていないのだが、引用で触れたときのほうが面白そう! って思う)。まだ駆け出しの頃のオッフェンバックが、パリのあちこちで開かれてた金持ちのサロン・パーティーにチェロをもって顔を売りに行っていた、だとか、革命で金持ちがパリから逃げてしまって商売がなりたたなくなった、だとかの小ネタ的な部分や、ベンヤミンに通じる当時のパリの消費文化についての記述は面白いのだが。

ミーシャ・アスター 『第三帝国のオーケストラ: ベルリン・フィルとナチスの影』

ナチス・ドイツ時代のベルリン・フィルがなにをやっていたか、を資料をもとにまとめた本(クラシック音楽に明るくない人向けに補足するならば、ベルリン・フィルは世界、いや地球最高峰の演奏家を集めたクラシック界の銀河系軍団みたいなオーケストラ)。「困難な時代にフルトヴェングラーは何を追い求めていたのか」と帯にはある。この手の本て、強権的な政治権力に芸術家が自由を求めてどんなふうに戦ったのか、的なストーリーを思い浮かべてしまうんだけれど、本書はさにあらず。 フルトヴェングラーはナチス政権と時折対立して、ベルリン・フィルの監督的立ち位置を降りたりするものの、決別、というまでには至らず、結構持ちつ持たれつみたいな関係性を維持していたことが書かれている。芸術家が清廉潔白でさ、悪には反抗する、みたいな、今でいうと原発には反対しなきゃいけねぇ、みたいな、そういうアティテュードがあるじゃん、芸術家、それとは違う、言ってしまえば、彼らも仕事でやってたんだな、と思わなくもない部分がある。っていうか、芸術家の働く環境がどんどん悪くなって、自由も制限されてるのに、権力闘争とかしてたりして、なんかダーティーな感じ。大御所すぎて困ったちゃんになっていたフルトヴェングラーの影響力をなんとかしようとカラヤンが呼ばれた、とか、さ。 まぁ、ぶっちゃけ、そんなに面白い本ではない。ナチスがベルリン・フィルを利用して国のイキフンを盛り上げたり、ユダヤ人の演奏家を排斥したりした、という事実は広く知られているし、そこまで目新しいような驚きがあるわけではないと思う。新ウィーン楽派を黙殺していた、みたいな話は、ほとんど当たり前すぎるのか、本書の中では触れられもしない。 個人的に面白かったのは、フルトヴェングラーが「もう俺、ベルリン・フィルの指揮者やらねぇ!」と啖呵を切ったあとに、ナチス政権におもねって、今ではほとんど名前が知られてない三流指揮者みたいなヤツがでてきて、ポスト・フルトヴェングラーの座に居座るんだけれども、あまりに実力が足らなすぎて、一瞬で追い出される……、みたいな記述であった。 あと、アーベントロートや、ヨッフム、ベーム、シューリヒト(そしてカラヤンも)といった著名な指揮者が、ナチスによるユダヤ人指揮者の排斥によって、ドイツで仕事が増えた、という記述も面白い。言ってしまえば、ナチスがクレンペ...

3枚のアルバムについて

すっかり音楽ブログとしては休眠している当ブログだが、最近発表された3枚のアルバムについて言及しておきたい。まずは松尾潔をして 「降参です!」 と言わしめた Bruno Mars の新譜「24 K Magic」について。新譜はもう Apple Music で良いや、と思っていたけれど、これはアナログで買った。先行で公開された表題作のPVがまず最高で。 冒頭、響き渡る Roger Troutman の亡霊的に響き渡るロボ声から名作の予感がビンビンし、昨年のメガヒット曲 「Uptown Funk」 の路線上にあるキャッチーなシングル曲という感じなのだが、歌詞の空っぽさ、どチャラさがまた最高。最近、Apple Music で手軽に歌詞が表示できるようになったため、こうして「なにを歌っているのか」をチェックしているのだが、Bruno Mars にはなんというか、空っぽ、という中身しかない。 表題作なんか「俺は金持ってるゼ、おチンチンがおっ立つようなチャンネーが群がってくるんだゼ」とか歌ってるし。こんなに空っぽで良いのかな、と。表題作だけではない。「マンハッタンにマンションを買ったんだ」で始まったり、ヴェルサーチのドレスを脱がして……みたいな「背中まで45分」(井上陽水)かよ、みたいな歌詞が満載で、はっきり言って、この軽さ、にみんなあきれ返ってしまうのではないか、と思う。 ただ、悔しいながら、Bruno Mars の歌唱力、そしてこのプロデュース力には脱帽で、知能ゼロに近い軽さでありながら、極度に陽性のサウンドの魔力に屈服してしまう。80年代・90年代のブラック・コンテポラリー・ミュージックを収奪している、だけ、とも言えるのだけれど、そこに一切のダサさ、カッコ悪さがないのが異常。アルバム後半に収録された「Finesse」など、今が本当に21世紀なのかを疑わせるほど、正真正銘のニュー・ジャック・スウィングであるのに、まったく古さを感じさせずカッコ良い。その印象には、モダンな分厚い音圧のサウンド作りも一役買っている。 内省を一切感じさせないような Bruno Mars に対して、The Weekend はメソメソとしているのが対照的であった。サウンドは流行りのテクニカル・ターム「アンビエントR&B」というか、EDM化されたR&B路線を前作から...

レコードプレイヤーを部屋において

Masatake Konnoさん(@mk_sekibang)が投稿した写真 - 2016 11月 25 7:07午後 PST ちょっと前に父親から44年前に発売されたSL-1200の初代モデルを譲り受けて、レコードで音楽を聴くようになった。これが結構楽しくて。Apple Music以降すっかり大人しくなっていた「音楽に金を使う」欲望が爆発してしまっている。タイミングを見つけて中古レコード屋に足を運び「これ、CDで持ってなかったな」とか「これはちょっとレコードで聴いてみたいな」とか「よくわかんないけど面白そうだな、100円だし買うか」みたいなレコードを選ぶ。気がつくと持って帰るのに苦労するほどのレコードの山を抱えていることになるのだが、レジでお金を払うと、とてもスッキリする自分がいる。ああ、これだ、音楽に金を使う、消費する楽しさってこれだよ、と思う。 レコードだと音楽の聴き方も変わって。なんか前よりも真面目に音楽を聴くようになった気がする。アナログレコードは、片面が終わったらひっくり返さなきゃいけないし、ホコリはくっつくし、いろいろ面倒なことも多いのだが「聴き流す」みたいなことがない。めんどくささが、音楽への集中を生むような感じなのかな。「レコードを再生する準備」という儀式(ちなみにSL-1200の初代はクォーツ・シンセサイザーがついてないので、勝手に回転数があったりしない。また、44年も前の機械なので回転数がユレたり、安定しなかったりする)によって、集中的聴取の態度が導かれる、というか。 レコードが再生されると、CDのときだってほとんど読まなかったライナーノーツを読んだりして。レコードのあの大きさが、そういう気持ちにさせている部分も多いと思う。 あと、音質なんですけども。レコードのほうがCDよりも記録できる周波数帯が広い(から、レコードのほうが音が良い)という話のは知ってはいたもののの「ホントかな、最近のデジタルリマスターでやたらと音が太くなってる音源の方が、レコードより良いんじゃないの?」とか思ってたんです。で、やっぱり、細かい音とか小さい音とかは、CDのほうがはっきり聴こえるんだよね。アナログだとそういう細部は、ひとつの「音のまとまり」のなかに収まっている感じして。でも、それが自然な感じだし、まとまってるからこそ、音が迫力あるよ...

西寺郷太 『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』

昨年の 『プリンス論』 とあわせて西寺郷太の単著を読むのは2冊目(『プリンス論』が出た頃は、プリンスも生きていたんだなぁ……)。著者のマイケル・ジャクソン研究をまとめた大傑作。ミュージシャン視点の評価であり、出生から亡くなるまでの50年間をMJ愛盛りだくさんな感じで語りまくっている。Jackson 5(Jacksons)時代のプレ「King of Pop」期でも言うべき時期にかなりページを割いていて、世間の大部分の人がイメージする「マイケル・ジャクソン」にどうやってなったのかのプロセスがわかる。もはや語り尽くされた業績、たとえば、MTV時代の口火を切った、とか、黒人音楽と白人音楽の融合を……とかがいかにすごかったのか、みたいなところに焦点が当たってるんじゃなくて、マイケルが置かれた環境や人間関係の星座のなかで、中心にいるマイケルがより輝くような作り。ホントになんかショウビズの世界でボロボロになりながら、素晴らしい作品を作っていったんだな、と思うと感動するし、晩年の記述はかなり泣けた。 しかし、文庫版のジャケットダサいな……。 単行本のほうがずっと良い。

田島貴男 『ポップスの作り方』

オリジナル・ラブ、田島貴男による初の著作。音楽、ギターとの出会いから中学・高校時代、そして上京以降現在に至るまで、自らがどんな音楽遍歴をたどり、どんなことを考えながら音楽を作ってきたのかを語り尽くした一冊。表紙の写真は、すっかりライク藤岡弘、になっている濃ゆい著者自身のイメージにぴったりだが、中身も濃かった。とにかく探究心があって、努力をして、どんどん先に進んでいくミュージシャンなんだな、という思いを新たにする。「天才」と呼ばれることが嫌いだ、と著者は語っている。天才、と呼ばれてしまうと、自分がしてきた努力をなんだか無視されてしまうようだから。でも、著者の、努力を続けられる点、これはやっぱり才能としか言いようがない。努力の天才、探求の天才。好きこそ物の上手なれ、という言葉があるけれど、ここまで普通の人はこだわれない、と思う。語り口の軽妙さも素晴らしくて。著者が相当な読書家であることはよく知られているが、本書にもあまり説明もなく、 スティーヴ・エリクソンの『Xのアーチ』 の話が出てくる。くどくど説明せずに、エリクソンがでてくるから余計に言葉が真に迫ってくる、気がする。90年代のタイアップ文化での苦労、そして、音楽不況下での苦労など、業界話も面白く読んだ。「“ふつう”が一番凄いんだぞっていうことは、10代の頃から思っていた」。こういう点はこないだ読んだ 土井先生の本 にも通ずるかな。

『現代思想』2016年8月臨時増刊号 総特集◎プリンス1958-2016

現代思想 2016年8月臨時増刊号 総特集◎プリンス1958-2016 posted with amazlet at 16.07.26 松浦理英子 向井秀徳 西寺郷太 及川光博 萩原健太 高橋健太郎 ピーター・バラカン 大谷能生 湯浅学 吉岡正晴 佐々木敦 青土社 (2016-07-22) 売り上げランキング: 117 Amazon.co.jpで詳細を見る こないだ読んだ 『ミュージックマガジン』の別冊 とは、西寺郷太、萩原健太、高橋健太郎という書き手が重複。しかし、読み物としてのヴォリューム感、情報量は『現代思想』のほうがはるかに上回っている。基本的にはどの書き手も、プリンスを語るうえでのいくつかのキーワード(セックス、気持ち悪さ、そして、それと相矛盾、あるいは共和する、プラトニックさ、カッコ良さ)をなぞっていて、紋切り型的、といえば、紋切り型の評論と言えるものもあるのだが、切り口の良さや視点の鋭さを感じさせるものが多く含まれている。 たとえば、北丸雄二によるプリンスと「エホヴァの証人」の関係を考察した文章は、ひとりのアーティストに及んだある宗教の影響、という「点」だけを見る評論で止まらず、アメリカの宗教カルチャーという「面」に視点を広げてくれる(これは「プリンスと人種をめぐる諸相」と題された出田圭による文章にも同じことが言える)。読みながら、ある種の特別なアーティストとは、このように別な世界への窓になってくれるのかもしれない、という感想を持った。 ほかに面白かったのは宇野維正による「踊れなくなったプリンス」。「杖がないと歩けないぐらい下半身の状態が悪いのだが、宗教的な理由により手術を拒否していた」という話はプリンス・ファンには有名な話なのだが、そんな報道が出た後も、スーパーボールのハーフタイムで派手なパフォーマンスを披露したりしてたから「手術の話とかなんだったのよ……」とみんな思ってたハズなのである。そこで、この文章はプリンスの身体、そして健康問題に着目し、本当はやはりプリンスはボロボロだったのだ、という現実をファンに気づかせる。思うに、これは逆方向の「神格化」を進めている。ボロボロだったのに、だれもそのボロボロさに気づかなかった、だから、プリンスはスゴい、と。 あと、及川光博へのインタヴュー記事も良...

『プリンス: 星になった王子様』

プリンス 星になった王子様 posted with amazlet at 16.07.23 ミュージックマガジン (2016-07-14) Amazon.co.jpで詳細を見る 『ミュージックマガジン』のプリンス追悼特集ムック本。まず副題の「星になった王子様」というクッソダサい副題が最悪で、『ミュージックマガジン』という雑誌を読んでる人の品格を下げそうな感じ。中身も、日本の音楽ライター特有の(?)主観と個人の思い出語りみたいな文章が多くて、本当にげんなりさせられたのだが(日本の音楽ライターが書く、「ユーモラスな」文章の文体は、性風俗体験レポートのそれと近似する、という気づきがあった)、再録されている今野雄二が過去に記したプリンス論の妄想爆発感は最高だし(文体芸がスゴい)、西寺郷太によるミネアポリス訪問録は生前のプリンスがオフステージでどんな感じだったを伝える貴重なものだと思う。あと、堂本かおるさんの文章がとても良かった。この方のお名前は、本書で初めて知ったのだけれども、アメリカの黒人コミュニティでどのようにプリンスが聴かれたのか(聴かれているのか)を伝えている。本書のなかでもっとも価値ある文章は、この一本だと思う。

長谷川町蔵 大和田俊之 『文化系のためのヒップホップ入門』

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002) posted with amazlet at 16.05.29 長谷川町蔵 大和田俊之 アルテスパブリッシング 売り上げランキング: 6,814 Amazon.co.jpで詳細を見る カルチャー系のライターと、アメリカ文学の研究者が対談方式でヒップホップについて語った本。「ヒップホップは音楽のジャンルではなく、ゲームの形式」という視点から、ラップでなにが歌われているのかがわからないからヒップホップが聴けない、みたいなリスナーに向けて、それを楽しむための予備知識をあたえてくれる。これはいわば、ヒップホップをテクストとして読み、解読するための指南本とも言える。同種の本に 石野卓球と野田努がテクノについて語った名著『テクノボン』 がある。あと、ブラックミュージックについて語った本、という雑なジャンル分けをしたら、松尾潔による著作 『メロウな季節』 や 『メロウな日々』 と重なる部分も少なくない(もっとも、松尾による著作は、音楽 = テクストとして読むための指南書ではなく、音楽をストーリーとして享受するためのスタイルについて書かれたものだと思う。とてもメロウなやり方で)。 『文化系のための……』も良い本なのだが、個人的にハマらない部分があって、それはわたしが音楽をテクストとして捉えて、なにかを理解しようという態度から離れてしまっているからなのかもしれない。

Nona Reeves / Blackberry Jam

BLACKBERRY JAM posted with amazlet at 16.04.25 NONA REEVES BILLBOARD RECORDS / 株式会社阪神コンテンツリンク (2016-03-23) 売り上げランキング: 903 Amazon.co.jpで詳細を見る プリンスの急逝より打ちひしがられていたけれど、インターネットでプリンスに関する記事をいろいろと読んでいて、 Nona Reeves の新譜がプリンスに捧げられたものだと知る(プリンスの死に関しては続々と新しいニュースがでてきている。さっき驚いたのは、 死の直前彼が6徹してた 、というニュース。この記事では死の直前に彼が購入したレコードについても言及されている。故人のプライベートな情報ではあるけれど、スティーヴィー・ワンダーにサンタナにジョニ・ミッチェルなどを購入した、とあり、グッときた)。 西寺郷太の仕事は、昨年の 『プリンス論』 であったり、Negiccoへの楽曲提供で触れていたが、Nona Reevesはちゃんと聴いたことがなかった(たぶん、デビューして間もない頃にFMで流れていたと思うが、楽曲の記憶はない)。ジャケットのプリンス・カラーに思わず、購入する指が動いたけれど、とんでもなく良い出会いで。プリンスの初期のアルバムとこのアルバムを交互に聴いている。 プリンスそのままのサウンドではない。けれども、プリンスをひとつの源流とした音楽のエッセンス、2016年の日本にたどり着いて、成熟しましたよ、ということがハッキリと感じられる楽曲ばかり。歌詞もすごいグッとくるし(1曲目「Harmony」から「一昔前までの俺たちは、Mr. Maniacと呼ばれたけど、いまじゃ、それぞれのスキルだけを、武器にして平和な音楽をつないでる」とかパンチラインが連発する)、骨太なポップ・ソングが並んでいる。なんでもっと早くから、このバンドの音楽に気づいていなかったのか、と反省した。

最近買った音源など(Luz de Agua、ユーミン、Negicco)

Luz de agua : Poemas de Juan L. Ortiz - Canciones posted with amazlet at 16.04.19 Sebastián Macchi - Claudio Bolzani - Fernando Silva bar buenos aires (2016-01-31) 売り上げランキング: 70,196 Amazon.co.jpで詳細を見る Luz de agua : Otras canciones posted with amazlet at 16.04.19 Sebastián Macchi Claudio Bolzani Fernando Silva bar buenos aires (2015-06-28) 売り上げランキング: 93,832 Amazon.co.jpで詳細を見る しばらくApple Musicで音楽的な消費を済ませてきたが、こないだApple Musicで聴けなくて、とっても聴きたい気持ちが抑えられずCDを2枚買った。セバスティアン・マッキ(ピアニスト)、クラウディオ・ボルサーニ(ギター)、フェルナンド・シルヴァ(ベース)によるアルバム「Luz de Agua」のシリーズ。 1枚目「Poemas de Juan L. Ortiz」は、アルゼンチンの詩人、フアン・L・オルティスの詩と音楽のコラボレーション、とでも言うべき作品で、淡く陰りを感じるアコースティックな音像が素晴らしい。日本盤には詩の訳がついているんだけれども、読むと自然の風景を見て「これ、良いな、良い景色だな」と思わず、写真でも撮りたくなってしまう瞬間(それで行って、撮った写真を見返すと、そのとき良いな、と思った感じがまったくに失われてしまっている)について書かれている。その儚い、けれども、とても印象的な言葉と、この音楽はすごく合っている。2枚目は、1枚目から10年後に録られたもの。1枚目よりも少し色が多くなっている。 松任谷由実40周年記念ベストアルバム 日本の恋と、ユーミンと。 (通常盤) posted with amazlet at 16.04.19 松任谷由実 EMI Records Japan ...

近田春夫 『考えるヒット』

考えるヒット (文春文庫) posted with amazlet at 15.10.24 近田 春夫 文藝春秋 売り上げランキング: 402,033 Amazon.co.jpで詳細を見る 夜にお酒を飲んでいると難しい本が読めなくなってしまうので、酔っていても読めるような毒にも薬にもならない本を読むことにしている。で、近田春夫の『考えるヒット』(これ、小林秀雄の『考えるヒント』のもじりだったのか……)を開いた。著者の音楽についてはこれっぽっちも聞いたことがなく『タモリ倶楽部』への出演(空耳アワード)や、雑誌で文章を読んだことがあるぐらいだったのだが、97年のヒット曲に対して、あれこれ言っていて、ちょうどその頃(たぶんわたしは中学1年生ぐらい)ってJ-Popなるものを大真面目に聴いていた頃でもあるから、懐かしい気持ちにもなる。とりあげられてる曲がイチイチ知っている曲なんである。書いてある内容も「坂本龍一には歌モノの才能が足りない」を筆頭に、反町隆史について「岩城滉一かと思いきや中谷彰宏、所ジョージから故尾崎豊、となにしろ瞬間瞬間で違う顔になる」とか、森高千里は音楽をバカみたいに聴かせる才能がある、だとか今なお的を射てるな、と思わせられるものがある。ビーイング系の虚無さなどもちゃんと指摘してる。

Prince / HITnRUN Phase One

Hitnrun Phase One posted with amazlet at 15.09.23 Prince Npg (2015-09-14) 売り上げランキング: 46 Amazon.co.jpで詳細を見る 『プリンス論』 は、ほぼ同時のタイミングで発表されたプリンスの新譜を聴きながら読んでいた。 前作 は冒頭の小室サウンドみたいなシンセと、モダナイズされた音圧に驚かされたが、前作でのモダナイズを本作も踏襲しているのだが「今、このシンセはヤバいだろ……」というイタさがなく、痛快なアルバム仕上がっている。最初、ちょっと地味かと思ったが、聴きこむごとに38分弱のコンパクトさが馴染んできて「む、これはなかなか素晴らしいぞ……」と思った。『プリンス論』で語られていた「エホバの証人からの脱却」説の信憑性が高まるような一枚。

EZTV / Calling Out

コーリング・アウト[ボーナス・トラック収録・解説付き / 国内盤] posted with amazlet at 15.09.03 EZTV Tugboat Records Inc. (2015-07-15) 売り上げランキング: 117,269 Amazon.co.jpで詳細を見る Apple Musicへのリンクはこちら。 そう、Apple Musicの導入後、新譜を聴く量は以前の3倍近くになっているのだが、あまりに聴きまくっているため、ブログに記録する気がおろそかになっていたのだった。このEZTVはいつものように tdさんのブログ で知ったニューヨークの3人組バンド。昨年聴いた Real Estate がまず思い出される、マジカルなギターが全編にわたって展開されるギター・ポップであり、最高であった。この手のバンドにありがちなヴォーカルのヘロッとした弱さがあるんだが、このギターには抗えないし、ドリーミィって言うんですかい、ハッキリとしない音像で迫ってくるんだが、ベースとドラムのリズム隊は異様にタイトに聴こえ、しまる所がしまっている感じが素晴らしい……。来日したら現代日本最強のギタポ・バンドである、Homecomingsと対バンしてくれねぇかなぁ……と思っている。

Dornik / Dornik

Dornik posted with amazlet at 15.08.20 Dornik Caroline (2015-08-06) 売り上げランキング: 256,318 Amazon.co.jpで詳細を見る Dornikの初ソロ・アルバムについては、 盟友tdさんのブログ で知った( Apple Musicへのリンク )。どういうミュージシャンかはtdさんの記事に詳しくすでに書かれているけれど、ほとんどすべての楽器を自分で演奏する若干24歳のマルチ・プレイヤーらしい。いや、これはすごいですね。ファレル・ウィリアムズが作り出す今風の音作りでモダナイズされた、プリンス(そして、マイケル・ジャクソン)みたいな世界が展開されていて「これ、好きじゃないわけないだろう……!」という感じだった。Apple Music導入以降、新譜を聴く枚数がこれまで以上に増えているのだが、これは何度も繰り返して聴いている。中毒性が高くてとても新鮮。なにが新鮮かというと、プリンスやマイケル・ジャクソンを彷彿とさせるような楽曲(1局目の打ち込みなんか、めちゃくちゃ『Dirty Mind』っぽい)で、ファレルみたいな音作り、なのにエグみが全然なくて、サラッとしている。そこに恐ろしいまでのスタイリッシュさと完成度を感じるのだった。

Zé Manoel / Canção e Silêncio

歌、そして静けさ posted with amazlet at 15.08.20 ゼ・マノエウ コアポート (2015-09-16) Amazon.co.jpで詳細を見る ブラジル北東部出身のピアニスト / SSW、ゼ・マノエウの2015年新譜を聴く( Apple Musicへのリンク )。本作にはカエターノ・ヴェローゾの息子世代の超売れっ子ミュージシャン、カシンも全面的に参加しているということだが、彼やモレーノ・ヴェローゾらが打ち出しているニューウェーヴを咀嚼したMPBや、アート・リンゼイが再解釈したブラジル音楽のテクスチュアを全面的に取り入れているわけではなく、アコースティックなジャズ・サンバの基調となっている。ストリングスとゼ・マノエウの流麗なピアノ、そして、彼自身の素朴な感じのヴォーカルによって彩られた室内楽的な響きは、ミナス新世代の作り出すそれとも共鳴していて「なるほど、こういう人もいるのか」と感心した。カシンが参加、モレーノ・ヴェローゾが参加、と言われるとどれも似たような音がでてきてしまって「たしかに良いんだけどさぁ……」と食傷気味になってしまうときがあるんだが、これはすごく新鮮。

Negicco / ねぇバーディア

ねぇバーディア 初回限定盤B posted with amazlet at 15.08.13 Negicco T-Palette Records (2015-08-11) 売り上げランキング: 1,178 Amazon.co.jpで詳細を見る 新潟在住3人組アイドル、Negiccoの新譜を聴く。Apple Music導入後、もう音楽はこれ一本でいく、と思っていたのだが、これは配信で買った。買わざるを得なかった。まずはPVを見て欲しい。 最高でしょうがッ、と思った。毎回著名アーティストとのコラボレーションが定番化しているNegiccoだが今回はA面曲のプロデュースをレキシがおこなっているとのこと。といってもわたし、レキシという人たちを「アフロの人が、歴史をテーマにした歌を歌うグループ」という認識しかなく、全然わからないのだったが曲は最強に夏まっているし、イントロ終わりからはじまるバッキング・ギターの音色とベースラインで死んだ。タイトルの「バーディア」についてググッたら、 これは、EW&Fのオマージュであるらしい。 B面曲は歌詞をMEGが担当。これは正直、イマイチピンとこなかった(ジェーン・スーの歌詞を体験してしまったあとでは、もはや相当にハードルがあがっていると言って良いのかもしれない。曲は悪くない)。毎回楽しみな過去曲のリミックスですが「フェスティバルで会いましょう」のbo enによるリミックスが、大変に面白かった。イギリス在住のアーティストなのだが、このハズし具合は、言語の違い、文化の違いのようなものを如実に感じさせる。

佐野元春 & The Coyote Band / Blood Moon

BLOOD MOON(通常盤) posted with amazlet at 15.08.05 佐野元春&THE COYOTE BAND DaisyMusic (2015-07-22) 売り上げランキング: 406 Amazon.co.jpで詳細を見る これもまた先日の北海道旅行で運転していたレンタカーの車内で知った。佐野元春ってわたしは全然聴いたことないミュージシャンだったんだけれども、なんか凄まじくハマっている。「この人の歌詞はなんかスゴいな」というところで、まずハマってしまった。その言葉は、松本隆のような情景や、山下達郎のような内面の描写ではなく、とても日常的な言葉で語りかけるようにあり、ときに恥ずかしくなるほどシンプルで、アニメソングのように力強いのだが、メロディのうえにその語りかけるような言葉が、流れるように乗っている奇跡に驚いてしまうのだった。こういう日本語はどういうところから来ているのかな、言葉のリズムはディランみたいだけれど……とWikipediaを読んでみると、そうか、やっぱりディランの影響下からこういうのが生まれて来るんだ、と納得したが、決して真似事ではないし、わたしの世代の音楽に「98年の世代」という新しい日本語ロックの金字塔的なグループ群がいるけれど、全然、佐野元春のほうがすげーじゃん、とめちゃくちゃに感激している。音も貧乏くさくないし、まるでトム・ペティのThe Heartbreakersがジョニー・キャッシュの晩年のアルバムに参加しているときのようなソリッドなロックンロール・サウンドがとても気持ちよい。 ジャケット写真はヒプノシスっぽいが、やはりヒプノシスの流れを組むデザイナーが担当しているとのこと。

土岐麻子 / Bittersweet

Bittersweet(CD+DVD) posted with amazlet at 15.08.05 土岐麻子 rhythm zone (2015-07-29) 売り上げランキング: 146 Amazon.co.jpで詳細を見る 先日、北海道旅行にでかけていてレンタカーを運転しながら聴いたFMラジオで土岐麻子の新譜がでることを知った。なんでも「都会で暮らす不惑の女性のサウンドトラック」というコンセプトだそうで、なんだその浮ついた感じの文字面は……と思ったが、最高だった。思うに『乱反射ガール』と同等、それ以上の名盤。 土岐麻子自身もまたアラフォー女性なのだが、ジャケットのとてもキュートなお姿はとてもアラフォーには思えず、なんっつーか「エヴァーグリーンな可愛さの権化」みたいである。もちろん、エイジングはあるんだけど、でも可愛い。良い。この良さを的確に表現する言葉をわたしはいまだ持たない。 本作でコンセプトプロデューサーをつとめているのが、ジェーン・スー。作詞でもリードトラックである「セ・ラ・ヴィ ~女は愛に忙しい〜」に関わっているのだが、これも凄まじく良い仕事をしており、この人の書く詞は、つんく♂と同じレベルの強烈なフックを放っているときがあるな、と震撼した(Negiccoの歌詞でも死ぬほど良い歌詞を書いているのだ……)。

Apple Musicで聴くブラジル音楽の魔境(3)

Ademilde Fonseca / Série Super Divas アデミルヂ・フォンセカ(1921 - 2012)は「ショーロの女王」と呼ばれた伝説的な歌手。器楽音楽だったショーロに歌を持ち込んだパイオニア的な存在であったらしい。こちらは「スーパー・ディーヴァ・シリーズ」というコンピレーションのひとつみたい。彼女が歌った名曲が堪能できる(一部、聴けない曲もある)。名コンピレーション 『Cafe Brasil』 に収録されている音源も入っていて「お、この人が、アデミルヂ・フォンセカだったのか」と思った。こういうところからサンバも発生してきているのだなあ。 Chiquinha Gonzaga / Pronde Tu Vai, Luiz? シキーニャ・ゴンザーガというと「ブラジル大衆音楽の母」と呼ばれる作曲家がいるのだが、こちらは同姓同名のミュージシャン「ファホーの王」ルイス・ゴンザーガの妹である。ファホーは、ブラジル北東部から始まった「サンバではないブラジル音楽」。なぜかナポレオンを真似て作った牛皮の帽子をかぶり、アコーディオンをもった歌手、トライアングル、ザブンバ(スネアドラムみたいなパーカッション)の伴奏で歌うスタイルが特徴的。このアルバムは兄のルイス・ゴンザーガへのトリビュート・アルバムだったみたい。ジルベルト・ジルも参加していて、底抜けに楽しい。 Alberto Continentino / Ao Som dos Planetas こちらは2015年新作。アルベルト・コンチネンチーノはアドリアーノ・カルカニョットなどの作品に参加してきたベーシストでこれがソロ第1作目らしい。人脈的にはモレーノ・ヴェローゾやドメニコ、カシンらとも近く本作にもドメニコ、カシンが参加している。それゆえに音の質感は、彼らのソロ・アルバムに近いポスト・ロックやニューウェーヴを上手く消化した新世代MPBという感じなのだが、まず楽曲がとんでもなく素晴らしい。凝りまくったコード進行は「これは、ブラジルのキリンジか!?」と思わせる瞬間があり、最高である。 Leonardo Marques / Curvas, Lados, Linhas Tortas, Sujas e Discretas こちらも2015年新作。ミナス・ジェライス出身のSSW、レオナルド・マルケス...