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NYジャズの現在形




Live at Tonic
Live at Tonic
posted with amazlet on 06.07.06
Christian McBride
Ropeadope (2006/05/02)



 HMVで試聴して衝動買い。「ジャズは常にクールな音楽だ」という神話を信じさせてくれるすごくカッコ良いアルバム。ヒップホップだとかクラヴ・ミュージックの要素を上手く消化して、ジャズに沈着させた現代系フゥージョンとも言うべき音楽ですね。




 バンドリーダー、クリスチャン・マクブライドに関してはなんも知らなかったんだけれど、最近ではチック・コリアとも一緒に演奏をしているスゴ腕のベーシストだそう。「バカテクのベーシストがバンドを組むとロクなことにならない」とどこかで思っていたフシがある私ですが*1、これは良い。適度にテクニックを披露していて、バンドからはみ出さない仕事っぷりがとても好感が持てます。あと、弓弾きもカッコ良いのだね。惚れました。ほぼ現代のジャズには触れていなかったけれど、今はこういうタイプの演奏者もいるのか…と驚きます。っつーか、みんな有名な音大出てたりするんだろうなぁ。マクブライドさんもジュリアード卒業らしいし、そりゃあ上手いですよ。まぁ、そんなテクニシャンばっかりでもつまんないんだけど。「自分のスタイルを持ってる人」っていうのが「良い演奏者」の条件だと思うので、下手でも良いんです。




 三枚組。一枚目はバンドのライヴ演奏、二枚目以降はゲストを加えてのセッションの演奏が収録されたディスク。セッションの方はカッコ良い演奏だけれど、30分とかやられるとさすがに聴きつかれる。「Bitches Brew」を演奏しているのは楽しいんだけれど。でもこれで、2500円は「安い…」という充実した内容です。試聴は公式サイト*2にアクセスすると勝手に流れてくる他は、アマゾンで全曲が少しずつ試聴できます。





 雑感としては、客層がちゃんと「ジャズ的な《聴取の慣習》」(ソロが取り終わったら自然と拍手が飛ぶ、など)がちゃんと染み渡っているのだな、というのがちょっとした感動でありました。場所がジョン・ゾーン主催のライヴハウスだったせいもあるかもしれないけど。ここが一昨日観たDCPRGのフロントアクト、万波麻希さんのバンドの演奏中の「フロアの冷め方」に触れていたため、「本場は違うなぁ(?)」などと思ってしまった。非常に中2病的な提言かもしれないけれど、万波さんでは超冷めてるのにDCPRGでは超アガる、という現象を目にしてしまうと、固有名による物神化みたいなものを感じてしまう。どうでも良いんだけどさ。それはそれで楽しいし、こういうこと言うのもくだらねー差異化発言に過ぎないし。だったら云うなよ、って感じなんだけど、云いたいんだよ。




*1:ジャコのソロもあんまり好きではない


*2http://www.christianmcbride.com/home.html





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