スキップしてメイン コンテンツに移動

ジェントル・ジャイアントはどこに消えた











 「プログレなんて悪趣味で……」と何年も前に決別宣言をした私ですが、それ以降もズルズルと聴き続けております。まったく恥ずかしい限りのお話で、家のCD棚にはロジャー・ディーン*1のイラストのアルバムが今でも少しずつ増えていっている…といった次第です。あぁ、私はいつになったらしたり顔でおしゃれな音楽を聴けるようになるのでしょうか。プログレ喫茶ではなく、ジョビン&ゲッツなどが流れるカッフェーへと自発的に足を運びたいものです。





 前置きが長くなってしまいましたが、本日もプログレのお話。冒頭に挙げました動画はYoutubeで見つけた謎のサイレント動画。映っているのはイギリスで活躍していたジェントル・ジャイアントというバンドのトレード・マークとなっていた「変なおじさん」のマスクです。誰が作ったんだろう、こんなもの。精巧な作りが不気味さをより印象強くしており、バンドの音楽を聴く前からちょっと避けて通りたいような気がします。





http://www.youtube.com/watch?v=CmqLXYa26os

 イエスやキング・クリムゾン、ジェネシス、EL&Pといった大御所と比べると知名度もインパクトも薄いバンドですが、演奏力は「プログレ四天王」*2に勝るとも劣らず。変拍子でハードロック、かつトラッド風のギター、そして変なコーラス・ワーク……っていうものすごいキメラぶり。それらの諸要素が混合しながら「音楽としては地味にまとまっちゃっている」という渋さがこのバンドの魅力なのでしょう。上のURLは1974年のBBCライヴの模様。いやぁ、演奏上手いなぁ。





http://www.youtube.com/watch?v=wPN7okQwdRk


 さっきの動画の続き。この曲では途中、リコーダー・アンサンブルが挿入されています。メンバーのほとんどがマルチ・プレイヤーという器用さは、やっぱり地味な感じに結実しちゃっていて「器用貧乏」という言葉がぴったり。元々レイ、フィル、デレクのシャルマン3兄弟によって結成されていたバンドなんですが、途中でフィル・シャルマンは脱退してしまい、その後のこの曲のリコーダー・アンサンブル部分はメロディを担当する人がかけたまま演奏されていました。3人揃ってリコーダー吹いている映像は結構貴重かも。





http://www.youtube.com/watch?v=nM1-fDL76p0


 これも楽器の持ち替えが激しい曲。冒頭でヴァイオリンを弾いていた人は、途中でヴォーカルをとりつつ、さらにトランペットを吹いてしまうし、チェロだった人はオルガン、そしてヴィブラフォンへと移動しています。一体、何種類の楽器ができるのでしょうか。このレベルで多彩な人ってプリンスか谷啓ぐらいしかいないのでは、と思ってしまいます。





 とても面白いバンドでしたがセールス的には全く奮わず、70年代後半からフゥージョン色を強めていくなどして迷走。バンドは自然消滅……という悲しい道を辿ります。イタリアなどで評価が高かったらしく、イタリアのバンドの多くに影響を与えていたそうです。



Octopus
Octopus
posted with amazlet on 06.09.02
Gentle Giant
Vertigo (1990/08/20)
売り上げランキング: 23,823


ジャケットも気持ち悪い。でも良いアルバム。




Playing the Fool
Playing the Fool
posted with amazlet on 06.09.02
Gentle Giant
RT Entertainment (2005/08/23)
売り上げランキング: 3,174


ライヴ盤はさらに演奏が激しく、ファンキー。





*1:よくプログレ・バンドのジャケット絵を描いていた人


*2:だっさいネーミング!





コメント

このブログの人気の投稿

石野卓球・野田努 『テクノボン』

テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけた本ですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古い本ではあるが未だに読む価値を感じる本だった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。 本書はこうした疑問にも応えてくれるものだし、また、テクノとテクノ・ポップの距離についても教えてくれる。そもそも、テクノという言葉が広く流通する以前からリアルタイムでこの音楽を聴いてきた2人の語りに魅力がある。テクノ史もやや複雑で、電子音楽の流れを組むものや、パンクやニューウェーヴといったムーヴメントのなかから生まれたもの、あるいはデトロイトのように特殊な社会状況から生まれたものもある。こうした複数の流れの見通しが立つのはリスナーとしてありがたい。 それに今日ではYoutubeという《サブテクスト》がある。『テクノボン』を片手に検索をかけていくと、どんどん世界が広がっていくのが楽しかった。なかでも衝撃的だったのはDAF。リエゾン・ダンジュルースが大好きな私であるから、これがハマるのは当然な気もするけれど、今すぐ中古盤屋とかに駆け込みたくなる衝動に駆られる音。私の耳は、最近の音楽にはまったくハマれない可哀想な耳になってしまったようなので、こうした方面に新たなステップを踏み出して行きたくなる。 あと、カール・クレイグって名前だけは聞いたことあったけど、超カッコ良い~、と思った。学生時代、ニューウェーヴ大好きなヤツは周りにいたけれど、こういうのを聴いている人はいなかった。そういう友人と出会ってたら、今とは随分聴いている音楽が違っただろうなぁ、というほどに、カール・クレイグの音は自分のツ...

2011年7月17日に開催されるクラブイベント「現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」のフライヤーができました

フライヤーは ナナタさん に依頼しました。来月、都内の現代音楽関連のイベントで配ったりすると思います。もらってあげてください。 イベント詳細「夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン」

リヒテル――間違いだらけの天才

 スヴャトスラフ・リヒテルは不思議なピアニストだ。初めて彼のピアノを友達の家で聴いたとき、スタインウェイの頑丈なピアノですらもブッ壊してしまうんじゃないかと心配になるぐらい強烈なタッチとメトロノームの数字を間違えてしまったような速いテンポで曲を弾ききってしまう演奏に「荒野を時速150キロメートルで疾走するブルドーザーみたいだな」と率直な感想を持った。そういう暴力的とさえ言える面があるかと思えば、深呼吸するみたいに音と音の間をたっぷりとり、深く瞑想的な世界を作りあげるときもある。そのときのリヒテルの演奏には、ピンと張り詰めた緊張感があり、なんとなくスピーカーの前で正座したくなるような感覚におそわれる。  「荒々しさと静謐さがパラノイアックに共存している」とでも言うんだろうか。彼が弾くブラームスの《インテルメッツォ》も「間奏曲」というには速すぎるテンポで弾いているけれど、雑さが一切ない不思議な演奏。テンポは速いのに緊張感があるせいかとても長く感じられ、時間感覚をねじまげられてしまったみたいに思えてくる。かなり「個性的」な演奏。でも「ああ、こんな風に演奏しても良いのか……」と説得されてしまう。リヒテルの強烈な個性の前に、他のピアニストの印象なんて吹き飛んでしまいそうになる。  気がついたら好きなピアニストの一番にリヒテルあげるようになってしまっていた。個性的な人に惹かれてしまう。こういうのは健康的な趣味だと思うけど、自分でピアノを弾いている人の前で「リヒテル好きなんだよね」というと「あーあ、なるほどね」と妙に納得されるような、変な顔をされることがあるので注意。 スクリャービン&プロコフィエフ posted with amazlet on 06.09.13 リヒテル(スビャトスラフ) スクリャービン プロコフィエフ ユニバーサルクラシック (1994/05/25) 売り上げランキング: 5,192 Amazon.co.jp で詳細を見る  リヒテルという人は、ピアニストとしてだけ語るには勿体無いぐらいおかしな逸話にまみれている。ピアノ演奏もさることながら、人間としても「分裂的」っていうか、ほとんど病気みたいな人なのだ(それが天才の証なのかもしれないけれど)。「ピアノを弾くとき以外はロブスターの模型をかたときも手放さない」だとか「飛行機が嫌いすぎて、ロシア全...