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大滝詠一 / Best Always

Best Always(初回生産限定盤)
大滝 詠一
SMR (2014-12-03)
売り上げランキング: 8
大滝詠一が亡くなってもうすぐ1年経つところでリリースされたベスト盤を聴く。キャリアが長くて、かつノヴェルティソングだったりCMソングだったりというところで趣味的な職業作家というすごく得意な立ち位置でも活躍していた人だから、このアルバムでキャリア総決算になっている、というわけにはいかないだろう。ガチガチの職業作家というイメージでは、大滝と一緒に仕事をしていた山下達郎ではピッタリくる。どちらかと言えば、大滝詠一の分散的というか、拡散的な仕事をしているように思われ、でも、実にいろんなことをやっていた(長嶋茂雄研究だったり、落語研究だったり、映画研究だった)ことは付属のブックレットを読んでもわかる。ただ、その分散具合、拡散具合は、分裂的になっているわけではなく、すごく大滝詠一のコスモスっていうのがあるな、と思わされたのが今回のベスト盤だった。

また、大滝詠一のコスモスを構成している要素を辿っていくと、また別なコスモスにつながっていく、そういう別世界への案内役的な性格もとても強く持っているように思うのですね。オールディーズのアレンジを露骨に引用していても、単にパクりっていうわけじゃなくて、その引用元へとすごく導いてくれる、そういう引力がある。享年65歳ですか。このベスト盤を聴いて、もっともっと氏が抱えている世界を見せて欲しかったなあ、と残念な気持ちがとても高まった。「大滝詠一のジュークボックス」という企画盤も、実に案内人としての大滝詠一の性格を伝えているもののようで、興味が高まります。こっちもチェックしなきゃ、と思う。

大瀧詠一のジュークボックス~ユニバーサル ミュージック編
オムニバス コニー・フランシス ニール・セダカ ジョニー・シンバル パット・ブーン ガス・バッカス トミー・ロウ ロイ・オービソン ダイアン・リネイ ザ・ヴェルヴェッツ ジェイとアメリカンズ
ユニバーサル ミュージック (2014-12-03)
売り上げランキング: 188

大瀧詠一のジュークボックス~ワーナーミュージック編
ヴァリアス・アーティスツ
ワーナーミュージック・ジャパン (2014-12-03)
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大瀧詠一のジュークボックス~エルヴィス・プレスリー編
エルヴィス・プレスリー
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