たとえばひとつの問題として、刑事司法において、性暴力はおよそ「性欲という本能の過剰(あるいは抑圧)によって発生する、自然現象」のように扱われていることが指摘されている。その固定観念によって捜査や裁判は進められ、なんの疑問も差し込まれない。「性欲の過剰/抑圧によって発生した暴力」というわかりやすい物語の強さは、取調室や裁判所の外側にも影響していく。そして、こうした物語が暴力が発生した、本当の理由を隠蔽してしまう。著者が指摘するように、刑事司法は「犯罪の原因究明」を目的としているわけではない。そこで動機や原因が問われるのは、それが量刑に影響を与えるからである。それゆえ「それらしい物語」が「真の原因」に代替することはとくに問題とされない。原因究明の作業は、刑事司法が独占的に担っているにも関わらず、である。
真の原因には触れられないまま作動し続ける刑事司法のシステムの空虚さは端的に恐ろしいし、加害者を矯正する/更生させる手だてもまるで見当違いにしてしまうリスクを高めている。そうしたシステムの改善のためにも、本書がバカ売れして、たくさん読まれると良いと思った。ちょうど、新しく就任した法務大臣の発言でも、性犯罪に対する処罰が注目されていることだし……。
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