ソフトウェアアーキテクトが知るべき97のこと
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日頃、思想史、哲学だの音楽だのについてこのブログでは書いているけれど、私の本業はシステムエンジニアであって、いわゆるIT業界に勤める人間なのだ。この仕事をはじめてもう6年目になる。Web系のお仕事をしている人たちは日夜華々しい活躍をして、毎日新しいサービスを開発し、素敵なソリューションを提供しているかもしれないけれども、私は日本の金融・保険業界の企業のシステム子会社(ユーザー系SIer)で仕事をしているので、仕事ぶりは結構地味。ブログでどこそこを退社した、とか、入社した、とか報告をしたり、一日中TwitterのTLに張り付いてたり、ろくろを回すことばかりがIT業界の人間の仕事ではない。メインフレームを相手に、COBOLという邪悪な古代語扱いされているプログラム言語を使って、都心を離れたところにあるシステム・センターみたいなところで働く私のような人もいるのだ。
他の会社の人との交流はほぼないに等しい。職場には、パートナー会社といって外部の会社から来て一緒に仕事をする人はいるけれど、それは同じ現場の人なので、目線は自分とかなり近いものになる。これは自分の仕事を外からの目線で考える機会を持ちにくい環境にある、と言っても過言ではないだろう。大手ベンダーが主催している勉強会に参加すれば、辛うじてつながりを持てることもあるんだけれど。ともあれ、親会社からくる仕事にこもりっきりの状況にいると「自分の仕事の仕方はこれで良いんだろうか?』と思ったときに、迷いが生じたり、不安になったりもする。たまたま、本屋でこの『ソフトウェアアーキテクトが知るべき97のこと』という本を見つけたのは、そういうタイミングだったわけ。
何に注意をしながら仕事を進めれば良いの? 良いチームの作り方は? 技術のことがまったく分からない顧客とどんな風に話せば良いの? 本書に収録された海外の錚々たる経歴をもつ技術者(+日本の技術者)によるエッセイは、経験者が語るリアリティが満載だ。悩みを解決してくれるような、魔法のようにありがたいお言葉が書かれているわけではない。「シンプルなほうが後々使い勝手が良いこともある」、「顧客がホントは何がしたいか考えろ」、「ミスは必ずある」、「後で苦労するより、今苦労したほうが良い(そのほうが長い目でみたら楽)」だとか、はっきり言って、とても当たり前のことしか書かれてない。だからこそ、リアルだ、正しいんだ、という直感がある。
本書を読んで得ることのできる正しさを、自分の仕事ぶりや、仕事しているときに感じることと対比することで、普段足りていない外からの目線を補うこともできるんじゃないかな、とか思った。そもそも、書いてあることが正しいと思えることは、自分のなかに「そういうものが正しい姿である」という内なる声が存在していなければ不可能だとは思うのだけれど、それは読書、というコミュニケーション行為の本質でもあるのかな。他者の声を通して、自分の声を聴く、みたいなね。
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