尺八:田嶋直士 リコーダー:鈴木俊哉 ソプラノ:平松英子
ハープ:吉野直子 笙:宮田まゆみ ピアノ:児玉 桃 ヴァイオリン:亀井庸州
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(クラリネット:上田 希、ヴァイオリン:辺見康孝 ヴィオラ:般若佳子、チェロ:多井智紀)
【講演】東京オペラシティが主催する現代音楽コンサート・シリーズ「コンポージアム」、2012年のテーマ作曲家は細川俊夫。このシリーズのテーマ作曲家は同年の武満徹作曲賞の審査員となるが、日本人作曲家が選ばれたのは湯浅譲二、西村朗に次いで3人目である。関連企画である「細川俊夫ポートレート」では、彼の講演と室内楽作品が披露された。
細川俊夫「自作を語る」
演奏:田嶋直士(尺八)
【コンサート1】
細川俊夫:
線 I b(1984) 鈴木俊哉(リコーダー)
うつろひ(1986) 宮田まゆみ(笙)、吉野直子(ハープ)
恋歌 I(1986) 平松英子(ソプラノ)、吉野直子(ハープ)
鳥たちへの断章 III b(1990) 鈴木俊哉(リコーダー)、宮田まゆみ(笙)
【コンサート2】
細川俊夫:
ピエール・ブーレーズのための俳句(2000) 児玉 桃(ピアノ)
沈黙の花(1998) 辺見康孝(ヴァイオリン)、亀井庸州(ヴァイオリン)、般若佳子(ヴィオラ)、多井智紀(チェロ)
ランドスケープ V(1993) 宮田まゆみ(笙)、辺見康孝(ヴァイオリン)、亀井庸州(ヴァイオリン)、般若佳子(ヴィオラ)、多井智紀(チェロ)
ゲジーネ(2009) 吉野直子(ハープ)
時の花(2008) 上田 希(クラリネット)、辺見康孝(ヴァイオリン)、多井智紀(チェロ)、児玉 桃(ピアノ)
昨年の2月にベルリン・フィルからの委嘱新作が初演されたのは、テレビのニュースでも取り上げられるほど注目されていた。近年、国際的に活躍する日本人作曲家として藤倉大の名前が脚光を浴びているが《ポスト武満》の作曲家と見做され、ヨーロッパを主戦場にして活躍していたのは細川俊夫のほうがずっと先だ。彼の講演内容は、そうしたヨーロッパでの活動のなかで見てきたものと日本の音楽の状況、そしてヨーロッパで活動する日本人作曲家として書こうとしたものについてがメインだった。
乱暴に彼の言葉の一部をまとめるならば「日本の音楽文化なり、現代音楽はヨーロッパと比べたらまだまだ表層的で浅い。ヨーロッパの深さには全然かなわない」というものであり、それは「東洋人のクラシックなんて、ニセモノざんす!」というイヤミ式の態度表明にも聞こえなくもない。ヘルムート・ラッヘンマンのクラシックに対する造詣の深さが言及されていたが、それは、ヨーロッパの思想家たちが哲学史を一通り押さえて《現代思想》をやっている、日本の現代思想は……という話とも通ずる。
個人的には、ニセモノ、であるがゆえに、ヨーロッパにはないモノが生まれる可能性もあるし、もはや《日本の状況》が現実として存在し、一定の価値観をもって動いている以上、ヨーロッパ基準で状況を評価しなくても良いんじゃ? とも思う。結局のところ、細川が書きたかった音楽はヨーロッパで評価され、そっちの環境のほうが居心地が良かった。それだけの話では? という。
西洋の音楽手法を使いながら、日本古来の時間感覚や美の感覚を表現することによって、西洋音楽の伝統の深さに対抗しよう、というコンセプト自体、浅はかなもの、と言えようし、確かに細川の音楽で抽象的に提示される「日本的なもの」は、抽象的であるがゆえに「深そう」に聞こえる、けれども、ホントに深いの? 作曲家の説明によって、これは日本の○○という感覚を表現しようとした作品です、と言われ、なるほど、と納得してしまうような感覚って、実は全然浅いのでは? 例えば、笙と弦楽四重奏の作品で、弦楽四重奏をもう一本の笙と見立てた、と細川によって紹介された《ランドスケープV》の発想は、ピアノをギロに見立てるなどの「器楽によるミュージック・コンクレート(ラッヘンマン)」を想起させる、けれども、近衛秀麿による管弦楽版《越天楽》のごとき、表層的なものなのでは……?
……などとブツブツ言いたくなるが、作品、演奏ともに素晴らしい演奏会だった。笙とハープによる《うつろひ》の、時間がはっきりとした刻みを持たずに漸次的な変容を示し、笙(天体)とハープ(人間)が関連し万物照応を示す様は、小さな編成ながらとても雄大な音楽として聴こえ、また、《鳥たちへの断章 III b》では笙のハーモニーを背景に、リコーダーの音色が鋭く置かれていく様子は、たしかに、和紙のうえに墨の斑点が素早く飛び散る様子をイメージしてしまう。これが深いか、浅いか、の判断はさておき、細川俊夫という作曲家が日本人でありながら、日本を発見する作曲家である、ということは充分に感じられた。
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