ウラジーミル・ソローキン
国書刊行会
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とにかく「ロシア文学」というジャンルに対しては、重い、暗い、登場人物の名前が覚えられない……などツラいイメージがありますから(それらの多くはドストエフスキーによるものと思われますが)、このウラジミール・ソローキンという現代ロシア文学の注目株が書いた『愛』という短編小説集には、どれほど重く、切ない愛模様が描かれているのだろう……と期待したくもなります。が、その期待はすぐさま裏切られることでしょう。ヴィクトル・ペレーヴィンといい、ソローキンといい、現代ロシアの作家にはマトモな人はいないのか!? 「ソローキンはヒドい(良い意味で)」という前評判は聞いていましたが、いやあ……ちょっと、ここまでとは。これまで色んなテキストを読んできましたけれど、これまでに読んだどんなものよりも衝撃の作品でした。
『愛』に収録された多くの作品は、ごく日常的なプロットによって開始されます。そこには当時のソヴィエト連邦という社会体制特有の描写、社会の仕組みの現れもあり、とても面白い。老人たちが語る昔話のなかに、独ソ戦の記憶も浮かび上がる。このあたりは社会派、にも見えてしまい、現代的な作家だ、という感じがする。しかし、ソローキンのヒドさとは、そうした物語的なものを、スカトロ、死体愛好、人体破壊……などなど、説明しきれないほどスキャンダラスな要素によって、突如ブチ壊し「な、なにが起こったの、いま……」と読み手を呆然とさせるパワフルなところにあります。さすが「モンスター」と称されるだけある。マイルドな脱臼によって、ブラックな笑いへと着地している作品もありますが、大概が破壊的に終わっています。突然ウンコ食べ始めたり、突然おじいちゃんがヤギになったりするんだよ!
ソローキンのご尊顔。Youtubeにはインタビュー動画もありました。 |
中原昌也と読み味は似ているかもしれないし、カフカのような不条理小説のようにも読めてしまう。けれども、この衝撃は、それらとは全然違っている。もっと不気味で、放送事故的というか……。まず、こんなヒドいものを書いている人が、ちょっとブラット・ピットみたいな顔をしている、というのが謎ですし。書いているあいだに気がつきましたが『愛』の衝撃に一番近いモノは野性爆弾のコントかもしれないですね……。
読んでいるうちにその「破壊的な形式」に慣れてしまいそうな気もするのですが、全然慣れないのもスゴいな、と思いました。普通こういうのって、あ、もう大体良いかな、となりがちなのですが、毎回違うヒドさで楽しませてくれる。あと、そもそもの文章や、テキストが面白い。これは翻訳(亀山郁夫)の良さなのかもしれません。句読点なしで一気呵成に卑猥な言葉が連なっていくところは、リズムといい、速さといい、レイアウトといい、現代詩的にも読めてなんかスゴい。スゴいし、ヒドい。
あと「紺野さんなら、好きだと思いますよ〜」と薦めてくださった方は、私をどういう人だと思っているのか、と複雑な気持ちにもなりました。
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