石版!

栄和人 『”最強”の結果を生み出す「負けない心」の作り方: これで「レスリング女子」を世界一に導いた』

“最強
栄和人
KADOKAWA (2016-06-09)
売り上げランキング: 14,741
リオ・オリンピックが終幕した。それほど熱心に中継を見ていたわけではないけれど、大好きな音楽の国での開催でもあり、開会式には感動したし、時差の関係で、女子レスリングなんかは、ちょうど起床時間に決勝戦が行われていて、起きてテレビをつけたら伊調馨が劇的な逆転勝利で金メダル、4連覇を成し遂げるのを目撃したりした。いろいろ快挙、が続いた大会だったけれど、女子レスリングが特別印象に残った人は、わたしだけじゃないだろう。

吉田沙保里も立派だったし、自分よりもひとまわり近く年下の「女の子」が次々に金メダルを取っている。みんな、かわいい。かわいいのに強い。で、彼女たちと一緒に喜んでる、あのスキンヘッドのコーチっぽい人、こと、栄和人氏のことも気になったのだった。これだけ選手を成功させ(続け)るには、よっぽど良いマネジメント能力があるにちがいない、と。本書には、日本レスリング協会の強化本部長である栄氏が明かす、成功の秘訣が収められている。

「指導者にとって不可欠なことは?」という問いに対して筆者は、次の3点をあげている。
一つ目は、選手一人一人について、強くなるために何が必要かが見えていること。
二つ目は、具体的な言葉で励ましながら、「勝つこと」の意識づけをすること。
三つ目は、自分のやり方に固執せず、変化・進化し続けていくこと。
このうち、わたしが「おお……」と思ったのが、3点目の指導者も変化・進化を続けていくこと。「オレ流の指導」を貫き通すのではなく、 時代や選手に合わせて、ベターな指導方法があったら、そっちに方向性を変えていくのを厭わない。選手が変化していくのは、まぁ、よく聞く話だけれども、指導者がどんどんスタイルを変えていく、っていうのは意外で。

だって、大変じゃないですか。指導者、と言えば、人間としてもキャリアを積んできて、つまり、そこそこ年をとっているわけで、そういう人が自分を変える、って選手が変わる以上に大変なんじゃないのか、と。でも、選手を強くするには、著者は変化を厭わない。むしろ、強くすることだけを考えていれば、自ずと、自分も変わっていくのだ、という。これが、素晴らしいな、と思いました。なんというか、現在のレスリング女子日本代表の成功は、才能ある選手の存在と、この指導者のゴールデン・タイムがうまく噛み合った結果なのかな、と思う。

あと、「勝つこと」の意識づけの部分。本書を読むと、筆者がいかに選手のコンディション・コントロールに労力を割いているかが理解出来る。身体的なコンディションだけでなく、メンタルのコンディションまで実によく見てケアしている。試合に集中させるように環境を作り、雰囲気をよく保つためにチームを作らせる。テレビで結果だけを見ているとレスリング女子日本代表はまるで「常勝軍団」のようだけれど、実はそうではない。世界のトップ選手のレベルはギリギリの闘いだ、ということが本書から伝わってくる。「霊長類最強女子」と言われた吉田選手もギリギリ。

だからこそ、最後は「気持ち」や「意識」なのだ、という。なんか、こうして書いてしまうと、陳腐な教えに思えてしまうのだが、すごく説得力あるんだよね、この本の書きぶりだと。ポイントポイントで吉田選手の語りも挿入されていて、選手として、そうしたコントロールをされて、どういう良い結果につながったか、が明らかにされているのも良かった。

フィルドゥスィー 『王書(シャー・ナーメ): ペルシア英雄叙事詩』

王書(シャー・ナーメ)―ペルシア英雄叙事詩 (東洋文庫 (150))
フィルドゥスィー
平凡社
売り上げランキング: 337,400
10世紀末から11世紀初頭に書かれたペルシャの大長編英雄叙事詩……の抄訳を読む。古代から語り伝えられてきた神話や伝説を集大成したもので、なんか屈強な勇者たちが戦争ばっかりしている。ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』も、そんな感じの男臭い話だったけれど、ホメロスのほうが策略めいていて知性を感じさせる部分が多いのに対して『シャー・ナーメ』はホントにマッチョな肉体系の戦いが多い。強いものが強く勝つ! って感じ。それもまた面白い。この抄訳では、ロスタムという英雄のエピソードを中心に編まれている。彼の描かれ方が、またスゴいんだよね。ロスタムの父親もすごいハチャメチャにすごい英雄なんだけど、その血を引き継いで、槍で象を倒すし、背丈も「星に届くぐらい」とか形容される(このスケールの大きい比喩は、本書の読みどころのひとつ)。なんかものスゴい馬にも乗ってるし、ほとんど『北斗の拳』のラオウみたい。で、そのロスタムが自分の息子と(自分の息子とは知らずに)死闘を繰り広げたり、自分の息子のように育て上げた王子を殺されたり、なんだか息子つながりで恵まれない。最強なのに、息子つながりでひどい悲しみを背負って生きているのが、渋くて良かった。君主からパワハラをされたりしてさ。こういうの読むと、やっぱりクラシックなものって良いよね、と思う。

『ドライバー 飛んで曲がらない確実な打ち方』

ドライバー 飛んで曲がらない確実な打ち方 (KAWADE夢文庫)

河出書房新社
売り上げランキング: 297,351
同じシリーズの『パターが面白いようにはいる本』が効果的だったので、ドライバーの本も読んでみた。が、パターよりもドライバーのほうが内容が全然難しくて。その難しさとは本の内容を自分のスイングに反映させることの難しさ。書いてあることは、それはそうだろうな、と思うのだが……。

松尾潔 『学食巡礼: 未来を担う若者が集うユルい空間』

学食巡礼―未来を担う若者が集うユルい空間 (SPA! books)
松尾 潔
扶桑社
売り上げランキング: 916,617
音楽プロデューサー、松尾潔による2002年の著作。先日紹介した名著『東京ロンリーウォーカー』に引き続き、週刊誌に掲載されていた連載コラムをまとめた一冊である。タイトル通り、著者が東京を中心とした大学(一部専門学校も含む)の学食に足を運び、校舎の雰囲気や、学生を観察した結果を好き勝手に綴っている。当時の著者は30代前半。掲載誌(『週刊SPA!』)の読者層に合わせているのか、オジサン2歩手前の目線、しかし、文体は軽妙洒脱で楽しい本だ。ここでも著者の慧眼ぶりは発揮されていて、たとえば現在の我が国のプライム・ミニスターを輩出した某大学においては、こんなことを書いている。「育ちのよさそうな学生というのは、バカには見えない。どちらかというと賢そうに見える。がしかし、切れ味が鋭そうには見えないものだ。」けだし、名言である。しかし、その次に続くのは「理由はわからぬ」、こうして印象だけ書いて、特段考察はなく投げおく、だが、読ませる文章のスタイルは「《作家》ではなく《ライター》的」という印象を受けた。

蓮實重彦 『伯爵夫人』

伯爵夫人
伯爵夫人
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蓮實 重彦
新潮社
売り上げランキング: 1,053
映画評論で有名な偉い先生(後期高齢者)が久しぶりに書いた本作が、三島由紀夫賞を受賞したときにいろいろ話題になっていたのはまだ記憶に新しい、が、話題作りだけじゃなくて、ホントに普通に面白かったから、さすが、蓮實先生と思った。舞台は太平洋戦争開戦前夜の日本、主人公は育ちの良い童貞の青年。蓮實先生のあの流れるような文体で紡がれるドエロいポルノグラフィー。いや、ホントに童貞の淫らな白昼夢みたいな小説なんだけれども、ロシアのソローキンに向こうを張るようで、サイコー、と思った。

五十嵐太郎 『日本建築入門: 近代と伝統』

日本建築入門 (ちくま新書)
五十嵐 太郎
筑摩書房
売り上げランキング: 45,563

名著『新編 新宗教と巨大建築』の著者、五十嵐太郎による新たな名著。本書では、日本に「Archtecture」という概念が西洋からもたらされて以降、日本の建築家がどのように「日本的なもの」と向き合ってきたかが振り返られる。近年、この「日本的なもの」をやたらと称賛するTVプログラムが目に入るたびに、なにか居心地の悪さを感じていたのだが、それは年々貧乏になりゆく我々日本人が「貧乏だけれど、日本は素晴らしい!」と強がるような、現実逃避のためのナショナリズム高揚がいかがわしいから、というだけでなく、そもそも「日本的なもの」ってなんなのかが、よくわからないからなのだった。本書はそうした「日本的なもの」の曖昧さへも鋭くメスをいれている。

本書における日本の建築史は、通史ではなく、オリンピックや万博といったイベントや、皇居や国会議事堂といったシンボルなど大きなテーマごとに読み解きがおこなわれている。丹下健三や、前川國男、坂倉準三といった著名な建築家がイベントのなかでどのような役割を果たしたのか、そして、イデオロギーや思想がどのように建築と結びついたのか。本書が優れているのは、そうした建築の背景を説明するだけでなく、建築の「見方」についても平易に教えてくれる点だろう。たとえば、第3章のテーマになっている「屋根」。「屋根は雨や日照などの環境、固有の素材などにより、地域性があらわれやすい」。なるほど。さらには、屋根には、シンボリックな意味がよく投影される、という。丹下による代々木国立屋内総合競技場の屋根が、実は神社の意匠を取り込んでいる、とか読んでいて普通にビックリしてしまった。

村上春樹 『中国行きのスロウ・ボート』

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)
村上 春樹
中央公論社
売り上げランキング: 66,559
村上春樹の小説は大方読んでいたつもりだったけれど、最初の短編集は読み逃していた。収録されている80年から82年に書かれた作品は、いまこの作家が書く短編よりも、ずっと、なんというか、パワー、というかテクニックがなくて(雑誌掲載順に並べられているので、読んでいるうちにだんだん巧くなってきている感じはする)、とくに冒頭の表題作「中国行きのスロウ・ボート」なんか、デビュー作『風の歌を聴け』にあるような、あの、かつて感じていたのに、時が経って失われてしまったサムシング、でも、そのサムシングがなんなのかよくわからなくて、でもなんとなく「おセンチ」になってしまう感じが書き残されている、と思った。異名同曲、って感じである。

ただ、そのおセンチを感じさせる作品に、この歳になって初めて(似たようなものをすでに読んでいたわけだから再び、でもある)触れた喜び、みたいなものもある。なんですかね、作家がこの作品を書いた歳の頃に、読み手であるわたしが近づいたからかもしれないけれど、18歳か19歳頃に、村上春樹の初期作品に初めて出会ったときとは、理解の深度が異なる、というか、ああ、なんか、なにかわからないけれど、わかるよ、という感じが強くある。同世代の人が(かつて)書いたもの、なのだ。

とはいえ、これは80年代の初期に書かれたものであって、読んでいて、ああ、これは昔なんだな、つまりは書かれた当時の「同時代の小説(いまからみたら過去の小説)」なんだな、と思う部分も多々ある。ガール・フレンドが乗った電車を駅のホームで見送ったあとに煙草に火をつけたり、FMがキレイにはいるラジオを買ってみたり、車で仕事に来ているのにビールを飲んだりする。いまでは見られない「風景」だ。しかし、わたしもその風景を知っているし、ちょうど、わたしがもっと若くて幼かった頃からどんどんそれらが消えていった、とも思う。これもまた、失われたサムシング。そして、それがより一層メロウな感覚を煽る。

アレハンドロ・ホドロフスキー(原作) メビウス(画) 『アンカル』

アンカル
アンカル
posted with amazlet at 16.08.07
アレハンドロ・ホドロフスキー
パイインターナショナル (2015-12-18)
売り上げランキング: 47,863
ホドロフスキーとメビウスのコラボレーション作品、傑作バンド・デシネとして名高い作品として名高い『アンカル』を読む(昨年末に復刊されたみたい、ずっと読みたかったのでありがたかった)。なんかAKIRA、ガンダム、宇宙戦艦ヤマト、スターウォーズ、孔子暗黒伝(あるいは暗黒神話)、ナウシカ……と様々なものが全部この一冊に入ってるサイケデリック・スペース・オペラって感じでスゴかった。愛すべきダメ探偵が主人公、というのは、ピンチョンの『LAヴァイス』みたいだし……。