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11月, 2010の投稿を表示しています

最近聴いたワールドミュージック サムルノリとかガムランとか

 相変わらずテレビは朝のNHKぐらいしか観ていないの *1 で、どういったポップ・ミュージックが流行っているのかよくわかっていないのですが、なんでも韓国発のアイドル・グループが流行っているそうで、遅ればせながら私も少女時代をチェックしてみたんですけれど、そこで私が目にしたのは完璧にアメリカナイズされた楽曲と大陸的な身体の強靭さでして、まさに魂消た、というか「日本の音楽は、この国の音楽に勝てるのか……」と母国の将来が心配になったのでありました。  どうしてこのような強靭な音楽が可能なのか、そこにはもしかしたら、そもそものところ韓国と日本とでは音楽的な資質が違うのでは、といったところにも意識が向かいます。なにせ韓国といえば、サムルノリが生まれた国ですから――サムルノリ(Samul-Nori)とは韓国の伝統音楽である農楽を、キム・ドクスという演奏家が発展させた「新-伝統音楽」とも呼ぶべき音楽のこと。チン(ゴング)、プク(太鼓)、ケンガリ(鉦)、チャング(杖鼓)という四つの楽器はそれぞれ、太陽、月、星、人間を象徴すると言われ、音楽のなかに万物照応が布置される壮大な音楽でございます。この躍動。凄まじい。 《韓国》サムルノリ posted with amazlet at 10.11.30 キム・ドクス Warner Music Japan =music= (2008-08-06) 売り上げランキング: 26967 Amazon.co.jp で詳細を見る  躍動と言えば、最近買ったバリガムランのCDもすごかったです。ガムランについては、Nonesuchから出ているデヴィッド・ルイストンの採録のものを一枚もっていたのですが、先日買ったのは「JVC WORLD SOUNDS」シリーズの一枚(↓)。 バリ島の音楽 posted with amazlet at 10.11.30 オムニバス スマラ・マドヤ スカクティ村のワヤン一座 ビクターエンタテインメント (2005-03-09) 売り上げランキング: 95839 Amazon.co.jp で詳細を見る  よく知らなかったのですが、ガムランにもいろいろジャンルがあるそうで。私が衝撃を受けたのは「ゴン・クビャール」というもの。これは1920年ころに生まれた比較的新しい舞踏伴奏用の音楽なんだって。このなかでもヤマ・サリというグ

読売日本交響楽団第498回定期演奏会 @サントリーホール 大ホール

指揮:シルヴァン・カンブルラン ヴァイオリン:ヴィヴィアン・ハーグナー 《3つの〈ペレアスとメリザンド〉》 ドビュッシー(コンスタン編曲)/〈ペレアスとメリザンド〉交響曲 コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲 《マーラー・イヤー・プログラム》 マーラー(ブリテン編曲)/野の花々が私に語ること(原曲:交響曲第3番 第2楽章) シューマン/交響曲第4番(第1稿)  11月の読響定期は常任指揮者、シルヴァン・カンブルランが3度目の登場。「3つの《ペレアスとメリザンド》」シリーズの最後を飾るドビュッシーや、マーラーがフューチャーされたプログラム。シーズン後半に入ってからパッとした演奏がなく「来年の定期会員はどうしようかなぁ」と悩んでいたのですが、今日はとても良い演奏会で「また来年も会員になろう!」と思いました。良い演奏に触れると、また明日から仕事を頑張ろう! と気分がリフレッシュします。とはいえ、そう思えたのは後半のプログラムが良かったからなのですが。  プログラム順に振り返ってみますと、ドビュッシー。これは今季の前プロでは前回の《未完成》に次いで良い演奏だと思いました。管楽器のアンサンブルの難しげなところが雑だったのが少し残念でしたが、弦楽器の柔らかい音色が気持ち良く、まろ~い感じ。で、その次のコルンゴルト。これは端的に言ってヒドかった。今季で一番酷い演奏だった気がします。この作品は、ソリストの超絶技巧が要求される協奏曲として名高いもので、そういった曲を任されるソリストなのだから、さぞすごいテクニシャンなのであろ~、と期待していたのですが、もう全然ダメ。音が全部並んでないし、音は飛んでないし……。伴奏のオケもゴチャゴチャしてて聴くに耐えませんでした。演奏後、ソリストにアンコールを求めるような拍手が長々と続きましたが、こういう演奏にアンコールを求めちゃいけないと思います。  このコルンゴルトのあとの休憩で「来年の定期会員はどうしようかなあ」という悩みは最高潮に達し、知らない人(隣の席に座っている定期会員の紳士)に「今の演奏、どう思いますぅ?」と絡みたくなるほどだったんですが、後半のマーラーからどんどんオーケストラが良くなっていきました。カンブルランという指揮者がどういう人なのか、つかみきれているとは言えないのですが、マーラーの交響曲第3番からの抜粋は聴衆が「オッ」と思うポイント

松澤喜好『英語耳 発音ができるとリスニングができる』

英語耳 発音ができるとリスニングができる(CD付き) posted with amazlet at 10.11.28 松澤 喜好 アスキー 売り上げランキング: 2189 Amazon.co.jp で詳細を見る  『DUO3.0』が3周目に突入したと同時に、アダム高橋さん( id:la-danse )からおすすめしていただいた教材をはじめてみました。とりあえず一度通読しただけなのですが、とても面白かったので紹介させていただきます。  本書のコンセプトは「発音ができるとリスニングができる=発音できない音は聞き取れない」というもの。これはもっと噛み砕いて言えば「知らないものは、認識できない」と理解することができるでしょうか。ここでは日本語と英語は発音においてまったく違った体系をもつ言語である、という前提にたち、英語の子音と母音を分解して解説、読者に身につけさせることによって英語の音を認識できる状態=「英語耳」を作る試みがなされます。これを読んでいたとき、しばらく前に読んだ以下の記事を思い出しました。 外国語に母音を挿入して聞く「日本語耳」は生後14カ月から獲得|2010年 プレスリリース|理化学研究所  例えば「text」という単語、これは本来「tekst」と発音され、「kst」の部分はすべて子音のみの連続で発音されなければなりません(そして、英語耳の人はそういう音を認識している)。しかし、日本人の耳(=日本語耳)においては「tekusuto」と脳内で勝手に母音を挿入して認識してしまう。子音の連続が認識できない……という現象については、本書でも記述されます。この現象自体とても面白いのですが、それはさておき、英語耳を手に入れるためには「連続した子音」を認識できるようにならないといけない、ということでしょう。  本書にはそのための発音トレーニングの方法がとても詳しく書かれていました。これを実践しながら読んでいるととても楽しかったです。「アとウの中間のような」という曖昧な説明が、後から出てくるのも良かった(こういう記述が先に書かれてしまうと、発音が日本語化されてしまいそうなので)。まずは音声学的なメカニズムの説明があって、その通りやるとちゃんとそれっぽい音が出るのが驚きでした。  この発音練習は「発音バイエル」として体系化されています。このトレーニングを100回以上やれ、と

俺がイタリアで飲んだ酒

 いろんなところで報告はしているのですが、先日、とある女性と入籍しましてハネムーンに行っていたわけでございます。旅行先はイタリア。今年は私のなかでルネサンス思想がきていたのと、あとワインがたくさん飲みたかったから、という理由で初の海外旅行となりました。イタリアはワインとパンが異様に安くて、日本で飲んだら結構ふんだくられそうなワインや、都心のしゃちほこばったブーランジェリエ(笑)で500円ぐらいで売っていそうなパンが1ユーロぐらいだったりして、楽しかったです。あとオレンジ・ジュースも安くて美味しくて、コーヒーもお酒もあんまり飲めないお嫁さんは、毎日フレッシュなオレンジ・ジュースを飲んでいました。飲んだお酒はいくつか記録に残していましたので、ここで紹介させていただきます。  これはイタリアのビール「Moretti」(高速道路のドライヴインみたいなお店で2.5ユーロだったはず)。ツアー旅行だったのですがそのバス移動中に見渡す限りのぶどう畑を眺めながら飲みました。甘くてフルーティな風味で美味しかったです。でも毎日飲んでいたら飲みあきそうな味。たぶんイタリア人にとってもそうらしく、街を歩いているとハイネケンのジョッキを飲んでる人が結構いっぱいいました。  これも高速道路のドライヴインみたいなお店で2.5ユーロだったドイツのビール「Warfteiner」。これも甘くてフルーティな風味のビール。ヨーロッパのビールってそういうのが多いんですかね。  ヴェネツィアのオステリア(大衆食堂みたいなレストラン)で頼んだワイン。お店で飲んだら18ユーロでしたが、あとで6.5ユーロで売っているのを見つけてちょっと凹んだ。でもとても美味しかったです。ごくごく飲んでしまえるような、そういう勢いがある。たしかトスカーナ州のワイン。この地方のワインが安くて美味しい、という話は村上春樹のエッセイで読んで、ずーっと飲んでみたかったのです。お店には自分たち以外に日本人はいなくて、しかも地元の人がどんどん入ってきて不安だったけれど「間違えて、地元の人たちがいっぱいいるところに迷い込んじゃったよ」という場違いな感じも楽しかった。 遠い太鼓 (講談社文庫) posted with amazlet at 10.11.27 村上 春樹 講談社 売り上げランキング: 6065 Amazon.co.jp で詳細を見る

黒田硫黄『あたらしい朝』(2)

あたらしい朝(2)<完> (アフタヌーンKC) posted with amazlet at 10.11.25 黒田 硫黄 講談社 (2010-11-22) Amazon.co.jp で詳細を見る  黒田硫黄最新刊。『あたらしい朝』は第1巻から2年ちょっとで第2巻、そして完結……とこんなにあっさり終わるとは思わなかったが、ダイナミックな絵柄、コマの動きが炸裂しながらも、しんみり、あるいは諸行無常……という素敵な作品だった。第1巻は「あたらしい朝なんかこなけりゃいい」と不安な感じで終わったのだが、この終幕は、それでも地球は回っている、というか、地球の裏側にいてもどこにいても新しい朝はやってき続ける、というか、日常のなかから大きな哲学めいたテーマが読み手の心に染み込んでくるかのよう。良い漫画でした。 あたらしい朝(1) (アフタヌーンKC) posted with amazlet at 10.11.25 黒田 硫黄 講談社 Amazon.co.jp で詳細を見る

Kimonos/Kimonos

Kimonos posted with amazlet at 10.11.23 KIMONOS EMIミュージックジャパン (2010-11-17) 売り上げランキング: 251 Amazon.co.jp で詳細を見る  新譜。向井秀徳とLEO今井によるユニット、Kimonosのファースト・アルバムを聴く。LEO今井についてはまったく知らなかったのだが(レオ・スピードワゴン関係の方かと思っていたのだが、そちらのほうはREOなのであった)先行でYoutubeにアップロードされていた2曲のPVにはガッチリ心を掴まれたものである。  というわけで相当に期待値が相当高かったわけだけれども、アルバムをフルで聴いてみたら「半分ぐらいは楽しめたかなあ」という感じだった。ちょっと肩透かしを喰らった感じ。その理由は、 id:mthdrsfgckr さんが書かれているレビューですでに指摘されている。 ヴォーカルはお2人とも両極端に位置するようなヴォーカル具合なので、そのヴォーカルの調和しなさ具合を楽しめるか否かでこのアルバムの印象も大分違うかも知れない。 2010-11-23 - 日々の散歩の折りに  mthdrsfgckrさんがこの「調和しなさ具合」を「楽しめた」と好意的に受け止めたのに対して、私はあまり楽しめなかったのだった。重量級というか、野太いというか、もはや独特すぎてロック・ミュージックのヴォーカリストとしてどうなのか、といった領域に達している向井秀徳のヴォーカルに対して、LEO今井のヴォーカルは研ぎ澄まされている、というか、体脂肪が少ない感じ、というか大変にロック然として佇んでいるように思われる。そしてこのLEO今井のスマートな歌声が、リズム・マシンにギラギラ/ビシビシした80年代風のシンセサイザーという背景のうえに乗ると、ちょっと貧しい音に聞こえてしまう。とくにサウンドがシンプルなものとなったときに、その傾向は顕著だったかもしれない。  ……向井マンセーな感じの嫌なファンみたいな受け止め方をしてしまっているけれど、いろんなサウンドが試みられているのは良かった。ジャキジャキとしたフェンダー・テレキャスター! なギター・サウンドが久しぶりに聴けたのも嬉しい。

トマス・ピンチョン『逆光』

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説) posted with amazlet at 10.11.22 トマス ピンチョン 新潮社 売り上げランキング: 17894 Amazon.co.jp で詳細を見る 逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説) posted with amazlet at 10.11.22 トマス ピンチョン 新潮社 売り上げランキング: 18563 Amazon.co.jp で詳細を見る  トマス・ピンチョンの『逆光』についてはすでに ピンチョンの『逆光』を読んでます! - 「石版!」 というエントリにて読書中であることを報告しておりますが、本日めでたく読み終えましたので改めまして感想を。読書中に個人的に最大の難所であったのは、第一次世界大戦直前の東欧における列強の政治的な駆け引きについて描かれていく第4部でした。第1部、第2部で次々に登場人物が出てくるのもなかなかしんどいのですが、読みなれていけば「コイツ、誰だっけ問題」は大体カバーできるので心配ありません(自然に読んでいれば、主要な人物についてはちゃんと思い出せるぐらい、整理された読みやすいストーリー・テリング)。あと、メキシコ革命の記述もツラかったですね……。メキシコ革命を舞台にした小説は、カルロス・フエンテスの『老いぼれグリンゴ』 *1 を読んでいたのですが、この内紛は指導者同士の争いが次々におこるうえに、派閥のパワーバランスも著しく変化しまくるので、覚えていられません。ただ、こうした政治的な背景についての記述を覚えていなければ、この作品を理解できないか? と問うたならば「必ずしもそうではない」ということが言えるでしょう。こうした記述は、物語に厚みもたせるための舞台装置に過ぎません。  『逆光』で興味深いのは、鏡像的なもの、について執拗なほど触れられていることでした。ここで私が「鏡像的なもの」という言葉で指し示しているのは、(前回の『逆光』についてのエントリにも書きましたとおり)《二つのバージョンのアジア》、《本物のヴィクトリア女王》といった「スキゾっぽい妄想(と便宜的に表現しておきます)」のことです――こうした今自分たちがみているあるものには、また別なバージョンがあり、もしかしたらそちらの方がホンモノなのではないか、という風に。これを「スキゾっぽい妄想」と便宜的に呼ばなく

Robert Wyatt, Gilad Atzmon, Ros Stephen/For The Ghosts Within

For the Ghosts Within posted with amazlet at 10.11.14 Robert Wyatt Gilad Atzmon Ros Stephen Domino (2010-11-09) 売り上げランキング: 5394 Amazon.co.jp で詳細を見る  ロバート・ワイアットの新譜はギルアド・アツモン(マルチ・リード奏者)とロス・スティーヴン(ヴァイオリン)とのコラボレート・アルバム。ストリングスやサックス、クラリネットといったアコースティックな伴奏をバックに、ワイアットが歌う、というとてもシンプルな内容となっています。ここでオリジナル作品とともに取り上げられているのは「Round Midnight」や「Lush Life」、「What A Wonderful World」といったジャズの名曲のカバー……というわけでチェックしないわけにはいきません。ただ、実を申しますと私、「ワイアットの歌声」(世間では、イノセンスを象徴するような素晴らしいものと評されている)に対して「好きなんだか、嫌いなんだかよくわからない」という複雑な気持ちを抱いておりまして。唯一無二の歌声には違いないのだが……と思いつつ、イマイチどっぷりとこなかったのでありました。これは結局、私が好きな(好きだった)ワイアットって、ドラムもバカスカ叩いて、たまに歌う、ワイアットなんですよね~、ということなんでしょう。  このアルバムを聴いていて連想したのは、菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールの『記憶喪失学』というアルバムでした *1 。ワイアットの今回のアルバムのストリング主体の音作りが、ペペ・トルメント・アスカラールの音と単純にリンクした、だけかもしれません。しかしそれだけではない。ワイアットのヴォーカル、菊地成孔のそれとにも共通したサムシングを感じたのでした。中性的でテクニカルではない(未熟なボーイ・ソプラノみたいな、あるいはちょっとオカマっぽい)ところ、とかね……いやはや、自分でもワイアットと菊地成孔がリンクするとは驚きなんですが、だってそう思ってしまったんだから仕方ないじゃん! と開き直ることにしましょう。  ただ、こうした連想が浮かんだからといって「初めてワイアットの歌声が好きになれた!」とアハ体験するわけでもなく、いまだに自分でも彼の歌声が好きかど

向井秀徳『厚岸のおかず』

厚岸のおかず posted with amazlet at 10.11.12 向井 秀徳 イースト・プレス 売り上げランキング: 219 Amazon.co.jp で詳細を見る  元Number Girlなどという紹介が果たして今や意味を成すのかどうか、もはや「Zazen Boysの向井秀徳」のキャリアは「Number Girlの向井秀徳」を凌ぎつつあるのであって、これに「作家の向井秀徳」が加わってしまうのではないか、そうなったら「Kimonosの向井秀徳」はどうなるのか……なんだか大変なことであるなあ、と感嘆せざるを得ない……向井秀徳の第一著作はそうした書物であった、南無。私にとっての向井秀徳とは良い塩梅な発声で、すごい強固なバンド・サウンドをガン鳴らすメガネの人、という感じであるのだが、これにうらやましくなるような文才を持つ人、という認識が加わる。天は二物を与え……ている。世の中は不公平だ! と天を仰ぎながら、この素敵な本を猛烈な勢いで読んだ。面白かった!  文章の技術は高い、とは言えないだろう。いや、どちらかといえば稚拙で、おそらくこの文章をリズミカルに読めてしまうのは、読み手が向井秀徳の会話のリズムを知っているからだ、と思うのだが、そうした稚拙な文章だからこそ、物語の原点、というか、プリミティヴな物語の核というか、そうしたサムシングが荒々しくも伝わってくる。あっという間に読み終わるそれぞれの短編は、奇想天外なアイデア、というか単なる「人を驚かせるような単なる思い付き」に過ぎないのだが、こうした閃きを連続して目の前にするにつけ、物語の読み手を、その流れにひきつけるものとは基本的に、そういった優れた思いつきである、と思わされる。 通常、運動会では士気を鼓舞するようなBGMを流すことが多いが、「ヒートアップし過ぎて事故が起こりかねない」という配慮により、Sケンの協議中はエンヤがBGMとして流されていた。  こうしたどうしようもなくくだらなくて、笑わずにはいられないアイデアの数々が短編の世界にうまくハマッていく。でも、それは決して物語の矮小さを示すものではなく、大きな世界へと連なっていくミクロコスモスなのである(大げさな言い方をすれば!)。

ANBB/Mimikry

Mimikry posted with amazlet at 10.11.09 Anbb Alva Noto Raster Music (2010-11-09) 売り上げランキング: 15872 Amazon.co.jp で詳細を見る  本日届いた新譜は、アルヴァ・ノト&ブリクサ・バーゲルトによるユニットANBBのファースト。アナログで手に入れていらっしゃった id:mthdrsfgckr さんが すでにレビューを書いておりますが 、素晴らしいのでこちらでもご紹介いたします。背景で鳴っている音がメタル・パーカッションでも、グリッチ・ノイズやホワイト・ノイズでも、ブリクサ師匠の芸風はまったく揺らいでおらず、21世紀型ジャーマン・ニューウェーヴというか、異形のカリスマ・アーティスト感が完成の域に達している……と感嘆せざるを得ない、そういうアルバムでございました。  冒頭「明石家さんまの笑いのピークを捉えたような奇声」ではじまるあまりの不穏さに思わずニコニコしてしまうのですが、ダークな雰囲気でドン底を這いつくばるばかりでなく、ときに重厚にシンフォニックに響くのですね。このアルバム、この点がすごく魅力的で……ああ、すごく大きな音で聴きたい、と思いました。音の大半はハードな電子音なんですけれど、マーラーの歌曲(管弦楽伴奏の)を想起させるような、壮大で豊かな音楽です。日本盤は1000枚限定で4500円、とレコード会社が「このアルバムはダウンロードで買ってください」とオススメしているような謎仕様となっているのが気になること以外は文句なしの名盤です!

荒木飛呂彦『スティール・ボール・ラン』(22)

STEEL BALL RUN スティール・ボール・ラン 22 (ジャンプコミックス) posted with amazlet at 10.11.02 荒木 飛呂彦 集英社 (2010-11-04) Amazon.co.jp で詳細を見る  もはや「またもや、スゴい展開になっている……」と絶句するしかない最新刊。果たしてここまでスゴい話になるとは、ラクダに乗ったアブドゥルがサボテンに突っ込んでリタイアした頃には誰も予想ができなかったに違いない。ジャイロ&ジョニィの主人公コンビ対大統領の直接対決が始まってからコミックスでいうと3巻目に達したが、闘いの緊迫感はまったく衰えることなく続いている。「このコマは、どういった状況を描いているのか(どういう動きのコマなのか)」という理解が不可能な描写が連続するものの、読みながら震えてしまうのだった。 ここから話す事はとても重要なことだ/それだけを話す/わたしの行動は「私利私欲」でやった事ではない  ここにきて大統領ははっきりと自分の目的について口にしている。ジョジョ第6部最後の敵であったプッチ神父がそうであったように、大統領の厄介さとはこのような点にあるのだろう。プッチ神父は全人類の幸福を実現する「天国へ行く方法」のために闘い、大統領はアメリカ合衆国のために闘っている。これは第五部までの最後の敵とは明確に異なる。彼らが闘う理由は皆、利己的なものであった。それが最も明確なのは第四部の吉良だろうか(彼は自らの生活の平穏のために、かつ、湧き上がってくる欲求を解消するために殺人を犯した)。しかし、プッチ神父や大統領はいずれも大義を振りかざしながら主人公たちの前に現れるのである。  大義のための犠牲は不可欠である。その犠牲によってより大きな幸福が得られるのだとしたら、その犠牲は正当化される――敵の言い分は、このようなものだ。第7部が凄まじいのは、こうした大義を前にした主人公が、自らの意思を試される、といった点だろう(ジョニィは大統領のような大義をもたない。彼がレースに参加したのは、下半身不随という障害から回復できるかもしれない、という可能性を信じた結果であり、それは利己的な動機付けである)。自らの意思は、敵の大義よりも正しいのか。ジョニィはこうした問いを突きつけられ、そして選択を迫られる。通常の少年漫画ならば、勝利した者が正しい、という論理

ピンチョンの『逆光』を読んでます!

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説) posted with amazlet at 10.11.01 トマス ピンチョン 新潮社 売り上げランキング: 25637 Amazon.co.jp で詳細を見る  ちょっと前からトマス・ピンチョンの『逆光』に取り掛かってます。これ、1700ページぐらいある長~い小説なんですが、ちょっとずつ書評も出てきていますね。しかしながら、面白く紹介できている記事をあんまり見かけないのが少し残念。新潮社の新刊案内の冊子に載っていた書評も「ピンチョンはそんなに難しくないですよ!」「ピンチョンは面白いですよ!」的な話しかしておらず「月曜日の次って火曜日なんだよ」ぐらいの事実しか伝えていないのが問題である、と思う。 山形浩生のちょっとした批判 は至極真っ当。当の山形先生が書いている 『逆光』のあらすじ のほうがよっぽど読者のためになりますよ。私は第二部まで読んだところなんですが、このあらすじの正確さに驚愕しました。これだけ優れたガイドがあれば、別に初ピンチョンがこれでも良いんじゃないかな、と思わなくもない。「ピンチョン、読んでみようかな」と思った人は、まずあらすじを読んで「やっべ~、腹いて~」というぐらいに笑えたらトライしてみれば良いんじゃないか。翻訳も読みやすいですし、複数の物語が同時進行しまくりますが、そのラインがかなり整理された小説、という印象があって、暇さえあればとっても楽しく読める小説だと思います。  『逆光』のここまでの印象なんですが、『ヴァインランド』、『メイスン&ディクスン』ときたピンチョンが、センチメンタルな良い話をより一層物語へと盛り込もうとしているのが明らかなように思われます。父親と息子、あるいは母親と娘。こうした関係における親子の絆や継承の問題が取り扱われる。男の間の関係は、極めてハードでかつ、おセンチに(ヘミングウェイみたいなんだよ、マジで)、女の間の関係は、メロドラマチックに、描かれるのね。ちょっとネタバレになりますが、父親の死体とともに荒野を旅する、というシーケンスなんかすっげー泣ける。このあたりは『メイスン&ディクスン』のラストにも通じるものがある。ここはホントに読んでて報われる箇所。  あと、この小説、「自分がみているサムシングは、本当のサムシングではなく、仮のサムシングであり、本当のサムシングはどこか別