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9月, 2016の投稿を表示しています

吉田健一 『旨いものはうまい』

旨いものはうまい (グルメ文庫) posted with amazlet at 16.09.17 吉田 健一 角川春樹事務所 売り上げランキング: 36,831 Amazon.co.jpで詳細を見る 英文学者、吉田健一による食や酒に関するエッセイをまとめた文庫本。この人の食エッセイを読むのは初めてだったのだけれど「どこそこのなんとかが旨い」、「あれを食べるのであればどこそこのものじゃなければならない」的なウンチクは皆無であって、もちろん、洋行で得た当時の日本人としては貴重な体験談が豊富に詰まっているとはいえ、いわゆる「グルマンディーズ」の文章ではない。筆者が書いている食に関する感覚は、庶民的とさえ言え「酒(日本酒)にあう肴は、白飯にも合う」だとか共感できる部分も多くて面白かった。 あと、戦中・戦後に食べるものが手に入らなかった時期に食べたものの話なんかが、すごく良くて。「人間は食つてゐなければ死んでしまふのだから、食はないで食つた振りをしなければならない通人などといふものになるのには、特殊な技術を身につけてゐなければならないのだらうが、食ひしんばうでだけはありたいものである。食ふのが人生最大の楽みだといふことになれば、日に少くとも三度は人生最大の楽みが味へる訳である」など至言も盛りだくさんである。 まぁ、とにかくすごい酒飲みだったみたいであるけれど、こういう人の感覚は信用できる。食べる楽しみを知っている人。

ホセ・ドノソ 『別荘』

別荘 (ロス・クラシコス) posted with amazlet at 16.09.07 ホセ ドノソ 現代企画室 売り上げランキング: 438,690 Amazon.co.jpで詳細を見る 以前に ホセ・ドノソの『夜のみだらな鳥』 を読んだとき、「これはまるで『読む危険ドラッグ』だなあ」と感嘆したのだけれど、『別荘』も同じように思った。ハッキリと時代はわからないが移動に馬車が用いられるぐらいに昔、原住民たちを金鉱山で働かせて作った金箔を売りさばき、巨万の富を築いたベントゥーラ一族が所有する別荘でのお話。設定がまずスゴくて。別荘を取り囲む荒野には、かつては食人の習慣があった原住民たちが住み、そして、いろいろ役に立つよ、と言われて盛んに植えられた、という空想の植物、グラミネア(実際は、ほとんど役に立たず、異常な繁殖力で周辺のほかの植物を絶滅させている)が生い茂っている。外界から隔離された空間としてこの別荘は設計されている。 この密室的空間は『夜のみだらな鳥』の登場人物、ドン・ヘロニモが息子のために作ったフリークス的ネヴァーランドを想起させるが、『別荘』でこの密室に配置されているのは、一癖も二癖もある33人のいとこ(かつては35人)と、一癖も二癖もある彼らの父母、そして一癖も二癖もある使用人たち……という感じであって、異様な空間に妙な人物たちが詰め込まれている点では共通している。で、話は、父母のグループ(一族に伝わる独自のルールで子供たちをガチガチに支配している)がハイキングにでかけるところからはじまる。 支配者がいなくなった別荘で、なにも起こらないわけがない。別荘では「この支配からの卒業」と言わんばかりに反乱じみた騒動が起こり、事態はなんだかよくわからない感じで大変なことになる。大人たちが別荘を離れたのはわずか1日、しかし、子供たちが残る別荘では1年の時間が経過しており、アインシュタインもびっくりな感じで時空が歪む。ん〜、マジックリアリズム。最終的にストーリーはかなり破滅的な終わり方をするのだが、落日のベントゥーラ家にとどめを刺すのは、一家から出た裏切り者と外国人……というところに、カルロス・フエンテスのような自国に対する批判的なまなざしを読み取ることができる。 作者が前面に出てきて「この小説は、フィクションで