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はてなものすごくいい加減に作ったミートソースパスタ出し

 大晦日である。お昼である。空腹である。ので、近所のモスバーガーで食事をしようかと思ったけれど、大晦日のランチをモスバーガーで楽しもうというファミリーが羊の群れのように店内を賑わしていたので止すことにして、自分でご飯を作って食べることにした。作ったのは、ミートソースパスタ。たまねぎとひき肉を炒める時点でにんにくを買い忘れたことに気がついて、なんだか味気ないソースになりそうだったが、大さじ1杯ぐらいウスターソースを入れたら美味しく出来た(奇しくも、モスバーガーのミートソースみたいな味に……)。 Wave posted with amazlet at 08.12.31 Antonio Carlos Jobim A&M (1990-10-25) 売り上げランキング: 4666 Amazon.co.jp で詳細を見る  作りながら、食べながら、アントニオ・カルロス・ジョビン、1967年の大名盤『波』を聴く。レースカーテンから漏れてくる暖かい陽を感じながら聴くボッサには、なんとも言えない幸福を感じる。この手の落ち着いた音楽は、慌しい日常にはそぐわず、聴いていて結構イライラしてしまうのだが、暇に任せて聴いていると素晴らしく馴染む(そしてジャケットのキリンが可愛い)。つぶさに聴いていくと、デザイン性が非常に高いことが分る。あるべきところにあるべき音があり、それらはまるでよくできた木造建築のようだ。

キリンジ/7―seven―

7-seven-(DVD付) posted with amazlet at 08.12.31 キリンジ Columbia Music Entertainment,inc.( C)(M) (2008-03-19) 売り上げランキング: 1731 Amazon.co.jp で詳細を見る   引き続き 、キリンジの最新オリジナル・アルバムも聴いた。こちらも職人芸的なソングライティングがキレまくっていて素晴らしい。運動量が非常に多いコード進行と相反するさわやかな聴き応えが不思議すぎるのだが、これは表情をあまり感じさせないヴォーカルの声質によるものなのだろうか。Jポップというものを、幼児化した、あるいは歌謡曲化したアメリカン・ポップスと暴力的に捉えることは可能だと思う。キリンジの場合、80年代のAORを常にモダナイズした形で提供するアーティストだと思うので、歌謡曲への方向性はまったく感じられないのだが、性を感じさせないという意味での幼児性を強く感じる。しかし、2008年のアルバムで、トーク・ボックスを噛ませたギター・ソロが聴けるとは思わなかったな *1 ……ベスト盤収録の「You And Me」でも使用されているけれど、今最も良い「喋るギター」が聴けるバンドとはキリンジなのかもしれない……どうでも良いポイントかもしれないが。 (朝焼けは雨のきざし) (ジョナサン。このアド街みたいな、ユルい旅番組みたいなPV最高!) *1 :「君のことだよ」

ダンテ・アリギエーリ『神曲(天国篇)』

神曲〈3〉天国篇 (集英社文庫ヘリテージシリーズ) posted with amazlet at 08.12.30 ダンテ アリギエーリ 集英社 売り上げランキング: 41775 Amazon.co.jp で詳細を見る  ついに天国へと昇ったダンテ(文字通り、ヘブン状態!)が、思い焦がれるベアトリーチェの瞳を凝視してたら天球の音楽を聴いてしまったり、いろんな聖人の精霊と話して疑問に思っていたことを解決してもらったりする……という第3巻。てっきり地上に戻ってハッピーエンドかと思ったら、最後は神の愛に包まれながら、その幸福のなかでダンテは表現力を失ってしまい……というラストなのでびっくりした。作品のなかにいるダンテが表現力を失う(つまり、続きを書き続けられなくなる)と同時に、作者であるダンテも表現を止める。ここで初めて、登場人物と作者という2人のダンテは一致する。  登場人物のダンテは迷える人であり、他の登場人物に導かれる人であるのだが、登場人物のダンテを導く他の登場人物について書いているのは作者であるダンテである。よって、2人のダンテは作中でずっと分裂していることになる。この分裂した主体意識はとても近代的に思える。  しかし『煉獄篇』同様、『地獄篇』のようには面白く読めなかったのが残念である。話が後半に進むにつれ、話題は観念的になり(また教義についての問答が含まれるようになり)、問題は意識によって解決されてしまう。肉体的な問題(山登りがつらい……とか)はほとんど出てこない。よって、ロード・ノベルのようには読めなくなってしまうのが、要因なのか。

キリンジ/KIRINJI 19982008 10th Anniversary Celebration

KIRINJI 19982008 10th Anniversary Celebration posted with amazlet at 08.12.30 キリンジ コロムビアミュージックエンタテインメント (2008-12-10) 売り上げランキング: 279 Amazon.co.jp で詳細を見る  昨日で仕事納めだったのだが、今年の年末年始は実家に帰らず東京で過ごそう、予定など一切入れまい、気ままに身体を鍛えたり、本を読んだりして、擬似隠遁生活でもしよう……と心に決めた私は、庵 *1 に篭って聴くべき音楽をいくつか仕入れてきた。近所のHMVに足を踏み入れて一番最初に目に入ったのは、キリンジのベスト盤である。活動休止期間を挟みつつ、もうメジャーデビューから10年もやってるのか……と驚きつつも、これまでちゃんと聴いたことがなかったので。  礼儀正しくDISC1の1曲目「双子座グラフィティ」から聴き始めたんだけれども、まず録音の良さにびっくりした。ヘッドフォンで聴いていてとても広い空間を感じさせる音の配置になっていて、いつも使ってるAKGのヘッドフォンの性能が向上したかのような錯覚さえ覚えた。これが海外リマスタリング&高音質CD(HQCD)の効果かどうかはわからないが、結構ドキッとするので試聴機を見つけたら試してみることをオススメしたい。  転調の多い楽曲や、ものすごく凝った構成を、半笑いで聴くのも楽しい。やはり「日本のスティーリー・ダン」というのは言い得て妙であり、キリンジとフェイゲン&ベッカーとの間には共通点が数多くある(特段ヴォーカルが上手いわけではない、という点とか……)。それら共通点のなかには、「世界観」も含まれているように思われる。  そして、それは「郊外っぽい感じ」であり、「都市の音楽ではないところ」だったりする。あくまで印象にすぎないのだが、キリンジとスティーリー・ダンのシティポップス感とは、郊外から都市を志向し、妄想/抽象によって形成されたものであり、フィクション的なリアリティによって支えられてる感じがするのだ。 どちらもホンモノの都市の音楽ではないからこそ、都市の音楽としてのリアリティを得ている ……ような。  何を言っているのかよく分らなくなってきたけど、このアルバムは買いだ。ただ、もしかしたら、オリジナル・アルバムのほうが私好みの「

『北斗の拳』を全巻読んだのだけど……

北斗の拳 (1) (集英社文庫―コミック版) posted with amazlet at 08.12.30 武論尊 原 哲夫 集英社 売り上げランキング: 62289 Amazon.co.jp で詳細を見る  会社の人が「これは男の漫画だから。これを読まないと一人前のSEになれないよ」と言って『北斗の拳』を全巻貸してくれた。なぜだかわからないが、今年は武論尊(史村翔)原作の漫画ばかり読んでいた気がした、しかも全部会社の人に借りて。マチスモ全開の世界観が業界的にウケるのだろうか……。集中的に武論尊原作の漫画を読んでいて分るのは、作画が誰であっても「問題発生」→「大ゴマで名言」のような、緊張と解決の和声理論のごとき運動が基本としてあるのだなぁ、ということで、その枠組みだけ見てみれば「武論尊原作の漫画はどれも一緒。どれか読めばそれで良い」などと乱暴なことがいえてしまうかもしれない。  あと「ラオウを倒したあとの『北斗の拳』」について、これはどのように評価されているのだろうか……。明らかに、テンションが激落ちしている感は否めない。同じ武論尊名義での『HEAT』も、後半のテンションがかなりひどかったけれど、そういうところに「連載漫画」の難しさを感じてしまった。漫画をどこで終わらせるのかについては、いろいろあるんだろう。「人気があるうちは連載を終わらせない」みたいな大人の事情的なものが。 In Your Mind posted with amazlet at 08.12.30 Bryan Ferry Virgin (2000-03-10) 売り上げランキング: 151090 Amazon.co.jp で詳細を見る  後半で唯一面白かったのは、ブライアン・フェリーのこのアルバムジャケットでかけているみたいなサングラスをケンシロウがかけているところだろうか……。フレディ・マーキュリーみたいなのも出てくるし、案外音楽を元ネタにしているところは多いのだろうか。

マラソン初心者に伝えたい!失敗しないシューズの選び方

アシックス GT-2140ニューヨーク posted with amazlet at 08.12.28 Amazon.co.jp で詳細を見る  会社の人に誘われて、2月の頭にハーフマラソン(21キロ)を走ることになった。人生初レースである。というわけで、何はともあれ形から入ったほうが良かろうと思い、ランニング・シューズを新調することにした。で、買ったのが上にあげたアシックスの製品 *1 。これを履いて今しがた5キロぐらい走ってきたんだけれども、今まで使っていたアディダスのシューズ *2 とは明らかに走っているときの感覚が違って驚いた。軽いし、前のよりも進むのが楽な気がする(地面が弾む感じ)。すげーぜ、アシックス。  ちなみに私は普段は30分間で5キロぐらいのペースで走るんだけれど、走っている間はメタリカの『Death Magnetic』を聴くと気持ち良い。このアルバムの収録曲は大体7分ぐらいなので、5曲目の途中ぐらいからクールダウンに入るとちょうど良い具合に「今日のノルマ達成かなー、帰ってビールでも飲むかー」と思う。 Death Magnetic posted with amazlet at 08.12.28 Metallica Warner Bros. (2008-09-12) 売り上げランキング: 841 Amazon.co.jp で詳細を見る  ところで、標題の「失敗しないシューズの選び方」だけれども、結論から言うと 「御茶ノ水とかのスポーツ用品専門店に行って、売り場で訊ねて買うのが一番」 である。私の場合、『ターザン』などを結構今までに読んでいたから、シューズはどういうタイプが良いか、とかそういう知識だけは豊富だったんだけれども(女体に詳しい童貞のごとく)、店員さんは「どうして初心者用のシューズと、プロっぽい人用のシューズでは形が全然違うのか」とか言う話を、ちゃんと納得行く形で説明してくれたので大変タメになった。  それから今まで曖昧にしか知らなかった自分の足のサイズとか形とかも計測してくれるし、その後に自分にあったものを何足か出してくれてとても助かる。ただ、何足か試着して「あとは自分の好み。走っているときのフィーリングですね」と判断を委ねられたときは、迷ってしまったけれど。まさか、試着で「試しに走ってきます」というわけにはいかないだろうし…

クエンティン・タランティーノ監督作品『デス・プルーフ』

デス・プルーフ プレミアム・エディション [DVD] posted with amazlet at 08.12.27 ジェネオン エンタテインメント (2008-02-22) 売り上げランキング: 14373 Amazon.co.jp で詳細を見る  いまさらだけれども、これ、タランティーノの最高傑作なんじゃなかろうか……見ていて目がギンギンに冴えてくるような痛快、かつ躁状態映画だった。相変わらず大した中身もないのだが、これが映画である以上、もはや映画としかよべないような絶対的な純度で面白い映画が成立してしまっているようなすごい作品。もちろん、引用や小ネタの数々がいつものように散りばめられているのだが、それらをいちいち指摘していくことが極端に馬鹿馬鹿しくなること必死であろう。とくに意味もなく映画ファンを喜ばせるだけの引用が無意味な純度の結晶化に拍車をかけているような気がしないでもない。この作品の印象はなんだか『崖の上のポニョ』にも似ている。これら2つの映画の「正しい鑑賞方法」とは同じ態度なのだと思う。どちらも意味を通り越した快作で、ただ画面に集中するだけで、映画と観客のあいだには幸福な関係性が生まれてしまうんじゃないか。

アレクサンドル・ソクーロフ監督作品『太陽』

太陽 [DVD] posted with amazlet at 08.12.27 クロックワークス (2007-03-23) 売り上げランキング: 1591 Amazon.co.jp で詳細を見る  先日、普段は見向きもしない文芸誌をパラパラとめくっていたら、蓮實重彦がアレクサンドル・ソクーロフの新作について書いていた。主演はなんとガリーナ・ヴィシネフスカヤだそうである。世界的というよりも、もはや歴史的なソプラノ歌手として(主にショスタコーヴィチ・ファンの間で)有名な彼女の演技は是非見ておきたいと思った。でも、これまで一本もソクーロフ作品を観ていなかったので予習の意味をかねて『太陽』を。  ロシア映画には「退屈」というイメージを、ろくに観たことがないくせに持っているのだが、この作品は異様な密室感と異様な緊張感が全編を支配していて、まったく退屈せず鑑賞できた。ものすごく面白かった。  音楽の使い方がかなり謎なのもとても興味深くて、気がつくと電波っぽいノイズやヒスノイズなどがずっと流れていたり、よくわからないタイミングで故ムスティラフ・ロストロポーヴィチ *1 によるバッハの無伴奏チェロソナタが流れたり、と妙な不安を煽ってくる。バッハは断片的に用いられ、微分音を用いた弦楽器の不協和音のうえにバッハが乗ってくるところなどが鮮やかだった。が、テーマ曲風の音楽は打ち込みのオーケストラ感が明らかで、「いまどき、こんなのありかよ……」と気分が萎えるぐらい安い。「安さ」で言えば音楽に限らず、制作費がいくらだとか知らないけれども、金がかかっている感じはあまりない。  昭和60年生まれの私は、昭和天皇のことも、昭和のこともよく知らない。しかし、イッセー尾形によってヒロヒトの姿はそんな私でも「色々な方面からなにか言われなかったのだろうか?大丈夫だったのだろうか……?」と心配になるぐらいであった。天皇が神から人間になるまでを描いた作品なのだが、ここで天皇に与えられた神性は、ほとんど痴愚神のようである。あるいは、ギリシャ神話に登場する神々のような、やや混沌とした性格を持つ神のようでもある。ヒロヒトには(崇高な神でありながら、不貞を働く)ゼウスのような2面性が与えられているように思えた。なので神は神でも、キリスト教的な絶対神とはまるで違っている。  ここで描かれる「神的なもの」と「人

はてな祖父出しの終焉

 じいちゃんに良くしてもらった恩を返せないうちに、じいちゃん死んじゃったけど、その分、今生きてる人に返していけたら、じいちゃんも報われっかなぁ、なんて思って今は割と前向きです。「故人はいつ偲んだって良いんです」と寺の坊さんも言ってたし、明日から仕事なんだけど、それで頑張って稼いでさぁ、その分生きてる人になんかできたら、じいちゃんを供養することにもなるかなぁ、ってね。

ダンテ・アリギエーリ『神曲(煉獄篇)』

神曲〈2〉煉獄篇 (集英社文庫ヘリテージシリーズ) posted with amazlet at 08.12.21 ダンテ アリギエーリ 集英社 売り上げランキング: 16730 Amazon.co.jp で詳細を見る  第2部「煉獄篇」に入るとちょっと話の内容、というか主人公(語り手であり、筆者であるダンテ)への性格付けが異なってくるので、なかなか読むのが辛かった感がある。第1部「地獄篇」は、完璧にダンテはヴェルギリウスに導かれて地獄を歩む「観察者」であり「観光者」であり「第3者」なのに対して、「煉獄篇」ではダンテ自身に天国に足を踏み入れる権利を得るための「修験者」としての任務が与えられる。そこでは、地獄でダンテが見たような歴史上の人物が呵責を受ける様子やおぞましい苦行の様子はなく、ダンテが一生懸命ヴェルギリウスに励まされながら、煉獄の山を登り続ける様子が描かれる。ので、派手さに欠けるのだ。異様にテンションが高い地獄篇と同じものを期待して読み進めると、がっかりすることは必死。  とはいえ、退屈が続くのか、というとそうでもなく、生前の世界と死後の世界における「身体(霊魂)論(なぜ、死んでるのに生前の姿で目に見えるのか)」などを懇々と語るところなどは「へぇ……そんな理屈なのか」と面白く読めた。あと、煉獄の門をくぐる際に、門番の天使によってダンテの額に「7つのP(罪)マーク」を彫られる、っていう設定が良いですね。7つの罪をすべて償うことによって、ダンテの身は綺麗になり、天国に行く資格を得るんだけれども、ここはなんか「悪魔超人を1人倒すと、ミートくんの体の1部が戻ってくる」みたいなジャンプ漫画ライクに読めてしまった。まぁ、アトランティスと闘ったりするわけではないのだけれども。  贖罪を終えたダンテがいよいよ天国へ行くところでこの巻はおしまい。そこで、ダンテの身柄もヴェルギリウスから、ベアトリーチェ(ダンテが思い焦がれてた人物。森を彷徨っていたダンテのもとへ、ヴェルギリウスを派遣して助けてあげようとした張本人)へと受け渡される。ヴェルギリウスは、キリスト教の信仰を持たず、地獄の辺土にいるので天国にはいけないのである。この別れのシーンも良い。振り返るとそこにはヴェルギリウスはおらず、ダンテは泣く。そして、ベアトリーチェにものすごく怒られる、というなんとも言えないダメっぷりを

スタイロフォンが届きました

 先日紹介した スタイロフォン という楽器が今日届きました。早速曲っぽいものを作ってみた。結構面白いな……これ。 スタイロフォン Stylophone posted with amazlet at 08.12.20 DMR 売り上げランキング: 1028 Amazon.co.jp で詳細を見る

立川談春『赤めだか』

赤めだか posted with amazlet at 08.12.19 立川 談春 扶桑社 売り上げランキング: 1255 Amazon.co.jp で詳細を見る  2008年に出版されてさまざまな賞を受賞しているそうである、この『赤めだか』。立川談志の弟子、立川談春による修行時代および最近にいたるまでを綴ったエッセイ。これは会社の仲の良い上司からお借りしたものなのだが、面白くて一気に読んでしまった。帯には福田和也(なぜ?)がこんな言葉を寄せている。 笑わせて、泣かせて、しっかり腹に残る。プロの物書きでもこの水準の書き手は、ほとんどいない。間違いなくこの人は、言葉に祝福されている。  だそうである。「そこまで言うか!」という感じであるが、とてもリズミカルで音声的な、落語的なテンポで進んでいくから、ページをめくっていくのが楽しくなるような本なのは確かだ。「言葉に祝福されている」というのは、落語家が作家以上に言葉を使う(言葉を選ぶのではなく)職業なんだから当たり前なのかもしれない……とも思う。  しかし、この本を書かせているのは、やはり師である立川談志なのだろう。立川流の中心に彼が存在するように、この本で主軸となっているのはこの鬼才であり革命家のような落語家なのだ。「修行とは矛盾に耐えることだ」と入門当初、談志は書き手である談春に言ったそうだ。この言葉に暗示されるとおり、談志は弟子たちに嵐のなかに投げ込まれるごとく振り回される。だから、面白い。  でも、その矛盾のなかには「実は……」という具合に、意味がある。読んでいるとわかるのだが、談志と言う人は一見むちゃくちゃに見えながら、実にシステマティックな理論構築をするモダニストだ(だから保守的な落語協会から飛び出した)。談春は“ときおり”気がつく。矛盾の先にある意味に。  そこで談春が見出す意味とは、読み手もうなづけるものである。しかし、この意味とは、一旦矛盾へと迂回を行わなければ、冷ややかに受け流されしまいそうなものでもある。状況を変えるには、自分で動くしかない――こんなことを一言言われて、おいそれと同意してしまうのはよっぽどマヌケな人なんだろう。  私は、自己啓発的なメッセージが嫌いだ。でも、この本に含まれるそういった意味を反発せずに面白く読めてしまったのは、それが矛盾へと一旦迂回して見出されたものだったからではない

矢作俊彦『悲劇週間』

悲劇週間―SEMANA TRAGICA (文春文庫) posted with amazlet at 08.12.17 矢作 俊彦 文藝春秋 売り上げランキング: 15324 Amazon.co.jp で詳細を見る  2005年に発表された矢作俊彦の『悲劇週間』という大長編が文庫になっていたので読む。これは素晴らしかった。「矢作俊彦という人はホンモノだ」という思いを読みながら幾度となく反芻する。翻訳家であり詩人だった堀口大學のメキシコ時代を綴った青春小説、それもオーセンティックで、ウェルメイドな恋愛青春小説のような形式をとりながら、そのなかでは20世紀文学のさまざまなモチーフが引用・変奏されている、というまるで新古典主義時代のストラヴィンスキーのごとき作品である。 明治45年、ぼくは20歳だった。それがいったいどのような年であったか誰にも語らせまい。  冒頭の一節からポール・ニザンの『アデン・アラビア』を髣髴とさせるが、矢作俊彦が堀口大學へと与える性格付けは、プルーストが描いた「わたし」とそのまま重ねられるように思われる。それから圧巻だったのは、堀口が、そのロマンスの相手であるフエセラという美少女とともに闘牛を観に行く、というシーン。ヘミングウェイばりの筆致でもって描かれるその熱狂に興奮を抑えられなくなってしまう――このように細かい引用・変奏の指摘はいくらでも可能だろう。なかには『百年の孤独』を思い起こさずにはいられない点もある。  堀口がメキシコの地に降り立ったとき、そこはフランシスコ・マデロが革命によって大統領に就任して間もない頃で、堀口の恋愛と、マデロが反マデロ派によるクーデターで失脚し殺害されるまでの経緯は平行して描かれる。タイトルの『悲劇週間』とは、この反マデロ派によるクーデターが終始の日々を示したものだろう。ここから文章は日記のように綴られる。  戦下のなかで堀口は自らの死の危険を感じながら、過去の戦争の話を聞く。語り手はさまざまで、元幕臣の庭師や、幕府にフランス近代法術を教えた経験を持つフランス語教師が、戊辰戦争やパリ・コミューンと第3共和制政府の戦いを語る。メキシコで起こっている戦争のなかに、日本やフランスにおける血と暴力と死の記憶が混入する。このアマルガム的状況は、そのままメキシコの「人種の坩堝」と化した状況と類比することもできよう。  このような

ダンテ・アリギエーリ『神曲(地獄篇)』

神曲〈1〉地獄篇 (集英社文庫ヘリテージシリーズ) posted with amazlet at 08.12.14 ダンテ アリギエーリ 集英社 売り上げランキング: 5532 Amazon.co.jp で詳細を見る  2008年に読んだ本を振り返ったばかりだが、まだ2008年は終わっていないので読むのである。年末に相応しい作品というわけではないが、ダンテの『神曲』を。本日はこの3部にまたがる大叙事詩の第1部「地獄篇」を読み終えた。こういった古典はいつ読んでも大抵面白い。この巻では「森を散歩してたダンテが恐ろしい獣に追いかけられて、すっかり森のなかへと迷い込んでしまう。困っている彼のもとになんと尊敬して止まないヴェルギリウス大先生が助けに来てくれた……!」という冒頭から、ダンテとヴェルギリウスの地獄旅行が描かれる。なんとなくBLみたいである(読んだことないけど……)。最後は、ヴェルギリウスの背中にダンテが身を預け、魔王ルシフェルの身体に生えた体毛を一生懸命掴んでルシフェルの身体をロッククライミングのようにして這い下り、地球の反対側に降り立つところで終わるのだけれども、このシーンなどいつ「ヘヴン状態!」が訪れるのか……という展開だ。ダンテにとってヴェルギリウスの存在は頼れる先生であり、ほとんど父親のようにも描かれる。ことあるごとに作者はこの古代ローマ詩人を褒め称えるのだが、こんなところからもリスペクト具合が読み取れよう。  やはり面白いのは、道中でダンテが観察する地獄の様相である。中世キリスト教の世界観のなかに、歴史や神話の体系をごっそり嵌め込んで再構築しなおしたようなところがあって、これが本当に面白い。ダンテは地獄の様々な階層で、色んな人が呵責に耐えているところを観察するが、これらのほとんどが歴史上の人物であったり、ダンテが生きていた時代の人物であったりする。後者についての部分は少し退屈しなくもないが(とはいえ、訳者による詳細な註で概略を掴むことができる)、前者は大変読み応えがある部分である。そこではキリスト教の洗礼を受けていない人物ならば悪いことをしていなくても、地獄の辺境に送り込まれ永遠にやってこない救済について嘆き続けているし(ヴェルギリウスも普段はここで嘆いている人物のひとりである)、マホメットなんかも出てきて「地上に戻ったら、俺はこんなにひどい目に会って

2008年に読んだ本を振り返る

否定弁証法講義 posted with amazlet at 08.12.12 アドルノ 作品社 売り上げランキング: 316595 Amazon.co.jp で詳細を見る  続けて2008年に読んだ本についても振り返ってみる(これは新刊とかを問わず)。自分のブログの過去ログを探してみたら、今年は新年早々アドルノの『否定弁証法講義』から読み始めたみたいである。それ以降、アドルノについての本を読んでいないので、今年は1アドルノということだ。この本については読書メモをものすごくたくさん残している *1 が、なんか「仕事をしてると勉強のことなんか忘れちゃうよな……」と寂しく思った1年だった気がする。学生時代は結構マジメに勉強していたって人にしても皆、そんなものなんだろうね、きっと。   マルクス・マラソン は、今年中に完走できず。ちょうど折り返し地点で止まっている。あと武満徹の著作全集も2巻まで読んで止まっている *2 。それからラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエル』も3巻まで *3 読んで止まっている(これは続きが出ていないからだが)。そのうえ最近ダンテの『神曲』を読み始めてしまったから、来年に持ち越しのものが多すぎて大変な気もするが、読まなきゃいけない本があると意識できているうちはなんだか幸福のようにも思えるし、こんなご時世なので働けるだけで幸福、本が読めるだけで幸福、というようにポジティヴに考えていったら良いのかもしれない(気持ち悪いか)。 挑発する知―愛国とナショナリズムを問う (ちくま文庫) posted with amazlet at 08.12.13 姜 尚中 宮台 真司 筑摩書房 売り上げランキング: 21754 Amazon.co.jp で詳細を見る 経済学という教養 (ちくま文庫) posted with amazlet at 08.12.13 稲葉 振一郎 筑摩書房 売り上げランキング: 91105 Amazon.co.jp で詳細を見る  今年読んで大変勉強になったなぁと思ったのは、以上の2冊。社会的にも、個人的にも不可解で、ぞっとする事件が起こるにつれ、これらの本で読んだことを思い返した気がする。『経済学という教養』 *4 では「新自由主義じゃ誰も救われないし、『自己責任』論を振りかざす人間は、永遠に勝つこと

2008年に買った新譜を振り返る

 この前「あと2008年も1ヶ月か……」と思っていたら、気がつくともう12月も半ばに差し掛かるところである、と月並みな前口上はほどほどに、今年購入した新譜を振り返ってみたい。今年は自分にしてはこれまでにないぐらいに新譜をよく購入して聴いていた気がする。その代わり旧譜だとか名盤だとかにあまり食指が動かなくなったわけだけれども。 Death Magnetic posted with amazlet at 08.12.11 Metallica Warner Bros. (2008-09-12) 売り上げランキング: 487 Amazon.co.jp で詳細を見る  なんと言っても今年の個人的ベスト・アルバムはメタリカの『デス・マグネティック』。お金の使い方を微妙に間違っている気がしないでもない異常なハイファイで聴く高音圧のヘヴィロックは最高。会社員2年目の今年はなかなか仕事が辛かったこともあり、そういうときは必ずこのアルバムを聴きました。「オラ、オラ、殺すぞ、このクソババァ」と同じビルに向かうオバサン連中に呪詛の言葉をキワキワのテンションで念じ、帰りには泣きながらザ・スミスを聴いて帰るのが今年の私だったよ……。 バッハ:フーガの技法 posted with amazlet at 08.12.11 エマール(ピエール=ロラン) ユニバーサル ミュージック クラシック (2008-01-23) 売り上げランキング: 34733 Amazon.co.jp で詳細を見る  クラシックだとピエール=ロラン・エマールによる《フーガの技法》が素晴らしかった。これは来日公演も観に行ったけれど *1 、圧巻でした。エマールは今年もう1枚アルバムをリリースしていて(『 メシアンへのオマージュ 』)、そちらもとても良い演奏。この人の演奏は、理性が突き抜けて狂気のレベルまで達したような、恐ろしい明晰さがある気がする。 シベリウス&シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲 posted with amazlet at 08.12.11 ハーン(ヒラリー) ユニバーサル ミュージック クラシック (2008-03-05) 売り上げランキング: 2739 Amazon.co.jp で詳細を見る  あと、ヒラリー・ハーンのシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲も良かった(彼女の演奏も

真木悠介『自我の起源――愛とエゴイズムの動物社会学』

自我の起原―愛とエゴイズムの動物社会学 (岩波現代文庫) posted with amazlet at 08.12.08 真木 悠介 岩波書店 売り上げランキング: 8583 Amazon.co.jp で詳細を見る  真木悠介(aka見田宗介)の著作を読むのは大学2年の時 『時間の比較社会学 』 を読んで以来。当時の私は今のようにアドルノではなくて「自我」とか「私」とかいう事柄に問題関心があったから、『時間の……』はかなり衝撃的で頭がクラクラするような著作だった。で、最近、岩波現代文庫に入った『自我の起源』を読んでまたクラクラと来てしまった。これはすごい論文である。私は初めこのタイトルから「近代以降の自我を巡る論文なのかな」と想像していたのだが、時代はもっと遡る。  どこまで遡るかというと、原始生命の誕生まで。この原始生命から現代までの進化を辿りながら、自我(私である意識)とは何なのか、どのように発生したのだろうか、を整理・分析するというものすごい仕事なのである。社会学の著作でここまで巨大なスケールで描かれたものに出会ったのはこれが初めてだ。そこでは人類学、生物学、脳神経学、遺伝子学……といった様々な諸学問から出た説に言及されるのだが、その膨大な文献を整理し「錬金術か!」というほどの分析を生み出す著者の能力には感嘆してしまう(このすごさについては、真木に教えを受けた大澤真幸も解説で述べている)。この仕事は「日本社会学界のゴッド・ファーザー」の名に相応しい……。 カルロス・サンタナのアルバム『キャラバンサライ』の第1曲は「転生の永遠のキャラバン」Eternal Caravan of Reincarnationと題されている。インドでの修行時代にサンタナに霊感を与えたグルの教えは……(P.1)  書き出しからしてこのカッコ良さ。この冒頭の一説だけでも「Love Munesuke!」と叫びたくなる。しかし、さらに恐ろしいのはこの優れた論文が全5部に渡る「自我の比較社会学」という仕事の、最初1部の“骨組み”に過ぎないということである(これは『補論1』で明らかにされる)。読みながら「ものすごく大事なことをたくさん言っている割にはどうしてこう不親切なほど早足に進んでしまうのか」という印象はあったのだが、骨組みだというならばこれは納得がいく。全5部が完成したらどれだけのヴォリュ

青山真治監督作品『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』

エリ・エリ・レマ・サバクタニ 通常版 [DVD] posted with amazlet at 08.12.07 バップ (2006-07-26) 売り上げランキング: 50927 Amazon.co.jp で詳細を見る  物語的ではなく、詩的な言語で綴られた映画を観たのは久しぶりだ、という思いがした。 id:la-danse さんが「普遍的な映画」、「『ユリイカ』と並ぶ傑作」と評されたようには、決定的な言葉でこの映画を評価することが私にはできないが、とても優れた映画だ、とは思う。やはり、ここまで非説明的で、詩的で、音響的な映画を製作する青山真治という監督をリスペクトせざるを得ない。画面を装飾するサウンドトラックは、浅野忠信と中原昌也が演奏する映画のなかの現実音と、映画の外で鳴る音楽とではっきりと性格付けが異なり、その双方が演出的に重要である点が素晴らしい。特に浅野忠信が弾くギター・ノイズと、救急車の走行音が重なるところなどに痺れてしまった。とても些細な点だけれども、この部分の演出は本当に素晴らしく、ここだけとってみても晩年のリュック・フェラーリの録音作品と肩を並べる出来だ、と言っても過言ではない。  ただ、映画の外で鳴る音楽については、ギャヴィン・ブライアーズを思わせるメタリックなドローンや、調律が狂ったピアノの音などが、少し狙い過ぎと言えなくもない。メタリックなドローンや調律が狂ったピアノの音に対する意味づけが、なんとなく神秘的、あるいはなんとなくノスタルジックなものとして、いまやほぼ確定されているような気がし、やや安直な感じがしてしまう。浅野や中原が演奏しているというノイズの部分がとても良かったので、聴き劣りしてしまう気がした。ノイズの部分が生々しすぎる、というのもあるかもしれないけれども。これは私はとても好きだが、なんとも形容しがたい。  中原昌也の演技は、決して上手いものではないのだが、映画の冒頭で浅野の後ろをついて歩くシーンの歩き姿から小物感というか、サンチョ・パンサ感に溢れていてとても良かった。「死ね!」という捨て台詞を残して自転車で走り去るところもすごく良い。大袈裟に言ってしまえば、この「死ね!」というセリフの青臭さは、とてもゴンブロヴィッチ的であり、中原昌也という作家性にも繋がっているように思う。  「青山真治の撮る映画には断崖絶壁がよく出てくる

三木聡監督作品『転々』

転々 プレミアム・エディション [DVD] posted with amazlet at 08.12.07 ジェネオン エンタテインメント (2008-04-23) 売り上げランキング: 1171 Amazon.co.jp で詳細を見る  三木聡とオダギリジョーの『時効警察』コンビ(ドラマは一切見ていないが……)による『転々』を観た。この手のサブカル臭漂う映画は当たり外れが多くて、ガッカリさせられることも多いのだけれど、これはかなり面白く鑑賞する。変な髪形のオダギリジョーと変な髪型の三浦友和が、東京をひたすら歩き続けるミニマルかつ循環的なロード・ムービーと言えるだろうか。このコンビはファウスト博士とメフィストフェレスのようでもあり、また、弥次喜多風でもある。これと言った中身は特にないのだが、脱線の連続でなかなか目的地にたどり着かないうねうねしたストーリーと、小ネタの数々がくだらなすぎてツボ。あと、オダギリジョーの独白から始まる映画ってやけに多い気がした。特別印象のあるナレーションをする俳優だとは思わないのだが、なんなのだろうか。  それから吉高由里子という若い女優の存在感が強烈に印象に残った。彼女については以前、フジテレビのドラマに出演しているのを地元の友達から「吉高由里子が良いから観ろ!」と強制的に見せられたことがある程度で、まぁほぼ何も知らず、というか「可愛くないよな……」としか思っていなかったのだが、この映画に出ている吉高由里子はすごかった。全盛期の篠原ともえを想起させる気が触れる寸前のテンション――これが演技なのかホンモノなのか、まったく分からない。オダギリジョー、小泉今日子、三浦友和、そして彼女という4人で一緒に食卓を囲むシーンがあるのだが、吉高以外の3人は「映画」という枠組みのなかでリアリティを感じさせる、板についた演技をしているなかで、彼女だけが生々しい、フィクションではない現実を感じさせる。フィクションのなかにぽっかりと穴をあけるような、そういった強烈さがある。  こういった感覚を抱いたのは、『硫黄島からの手紙』 *1 に出演している二宮和也以来かもしれない。こういった演技を見せ付けられると、しばらく「あれはなんだったのだろうか……」と胸のうちがざわざわするような気分になる。 *1 : クリント・イーストウッド監督作品『硫黄島からの手紙』

リチャード・ドナー監督作品『リーサル・ウェポン』

リーサル・ウェポン [DVD] posted with amazlet at 08.12.06 ワーナー・ホーム・ビデオ (2008-07-09) 売り上げランキング: 2477 Amazon.co.jp で詳細を見る  会社の同期が「これはマジで良い映画だから観ろ!」とDVDを貸してくれた。人気アクション・シリーズ『リーサル・ウェポン』の第1作目。1987年の作品とあって、映画全体に80年代風味(サントラで鳴っているギターの音色とかフュージョンっぽい曲調とか)が強烈に感じられ、またメル・ギブソンの髪型が面白すぎる。同期曰く「メル・ギブソンが自殺しようとするんだけど、やりきれなくて号泣するシーンが良いんだ」とのこと。  ダニー・グローヴァー演じる幸福な家庭を持つ初老の刑事とメル・ギブソンが演じる妻を交通事故で亡くして精神が荒れまくっている刑事のコンビには、「持つもの」と「持たざるもの」という対照的な関係がある。物語は持たざるものであるメル・ギブソンは、ダニー・グローヴァーやその家族と交流することによって、次第に荒れた精神を回復していくような流れになっているのだが、その一方で終止メル・ギブソンはブチ切れながら拳銃で悪者をブチ殺しまくっているのであり、一体どこで立ち直ったのか(物語の最後ではメル・ギブソンが自殺を諦めるところが描かれる)がさっぱり分からない。回復への決定的な契機が劇中で描かれないのである。とはいえ、それが物語の欠陥となっているわけではなく、楽しく鑑賞することができた。「なんで回復したかわからないけど、まぁ、良いか……面白かったし」という感じで。

読売日本交響楽団の2009年度プログラムからオススメ公演を選ぶ

2009年度 会員のご案内 - 読売日本交響楽団  まだ2008年も終わっていませんが、オーケストラ界におきましてはすでに2009年度のプログラムが発表されています。本日は、在京オケのうち、読売日本交響楽団(通称:読響)の2009年度プログラムから「これは!」というものをご紹介いたします。ちなみにこのオケは今年初めて聴いたのですが「日本にもこんなに良いオーケストラがあったのか!」と大変感銘を受けました。やはり新聞社や放送局と言った安定したお金の出所があるオケは違うのかもしれないけれど、読響は定期演奏会の雰囲気にローカルな温かみを感じます。  まずは目に付くのは 2009年4月7日の定期演奏会(サントリーホール) 。こちらは全プログラムが邦人作曲家によるもので、没後20年の芥川也寸志と、生誕80周年の黛敏郎が取り上げられます。黛作品はなんとあの《涅槃交響曲》。東大寺の鐘の音をコンピューターで解析し、オーケストラで再現しようとした日本のスペクトル楽派的音響作品。これはマジで聴きに行くしかない。  そして、もうひとつは 2009年11月30日の定期演奏会(サントリーホール) 。この日は、ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーによるアルフレート・シュニトケ特集。日本初演の作品が2曲も織り込まれるなど注目度が高いです。来年はシュニトケ生誕75周年だそう。  定期演奏会シリーズで注目されるものの最後はやはり スタニスラフ・スクロヴァチェフスキの指揮によるアントン・ブルックナーの交響曲第8番(2010年3月26日。サントリー) 。ここまで来るともはや再来年の話になってしまいますが、気になるのはスクロヴァチェフスキの年齢。このときにはもう86歳になっているはずなので体調に気をつけていただきたい。ちなみにスクヴァチェフスキは 2009年9月24日の名曲シリーズ でもブルックナーを演奏します。こちらは交響曲第9番を予定。  サントリーホールで開催される定期演奏会を離れて注目されるのは、 2009年4月18日の東京芸術劇場名曲シリーズ でしょうか。こちらは次期首席指揮者に決定しているシルヴァン・カンブルランによるフランスものプログラム。ラヴェルの《クープランの墓》などがプログラムにあがっています。現在の首席指揮者、スクロヴァチェフスキの次にこのオケがどうなるのかが垣間見れるのではないでしょう

ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ『フェルディドゥルケ』

フェルディドゥルケ (平凡社ライブラリー) posted with amazlet at 08.12.05 ヴィトルド ゴンブローヴィッチ 平凡社 売り上げランキング: 105084 Amazon.co.jp で詳細を見る  今年は久しぶりにあまり本が読めない年だった気がするけれども、20世紀のポーランド人作家の本を集中的に読んでいた。ヴィトルド・ゴンブロヴィッチの作品は今年3冊目。これまで『コスモス』、『トランス=アトランティック』と続けてきたが、この『フェルディドゥルケ』が一番面白かった。フランツ・カフカが霞んで見えるほど不条理で、かつ狂気の色合いが半端でなく濃い。主人公の思考の流れが喉元にまとわりつくような文体で続き、窒息しそうになった。なかなか読んでいてつらい本ではあるが、そういったマゾヒスティックな読書が好きな方にオススメしたい。 しかし、ピンコは坐ったままだった。坐りながら坐っていた。そして、こうなんとなく坐りながら、坐ったままで、自分の尻にすっかり腰を落ち着けてしまっていった。  こういった無意味な表現が多発するところも良かった。こういう風にナンセンスな部分は、ラブレーの引用だろうか(作品中に明確な引用は一箇所あるほか、無意味な言葉のリストがところどころ散見される)。構造的にも途中で、意味があるのだかないのだがまったく掴めない「前置き」と「これまでの話とまったく関係ない挿話」が急に織り込まれる。このあたりは、セルバンテスか。この脱線は本当にとんでもないところでズレるのでびっくりするのだが、こういった古典の引用が作家の教養の高さを思わせる。小説自体はすごくろくでもない話なのだが。  主人公は30歳の売れない作家で、そこに頭が軽くオカしい教師がやってきて、学校(今で言う高校ぐらいなのだろう)に入れられてしまう……というところから物語は進みだす(のだが、その前に続く「なんて俺はダメなんだろう……!」という悶々とした自問自答がすごく良い)。そんな不条理で、奇妙な状況などさっさと逃げ出してしまえば良い、と読者としては思うのだが、主人公はなかなか逃げ出せない。ものすごく逃げ出したいと思っているのだが、実行には移せない。このように作品内の主人公は徹底して、状況に飲み込まれ続けるものとして描かれる。そして、その抑圧状態のなかで溜まった圧力が社会批判として現れる。主人

スタイロフォンを収蔵予定

スタイロフォン Stylophone posted with amazlet at 08.12.03 DMR 売り上げランキング: 1128 Amazon.co.jp で詳細を見る  世界に存在する珍楽器愛好家の皆様、お久しぶりでございます。前回皆様の前に登場いたしましたのが、昨年の9月。実に1年ぶりにお目にかかれて大変嬉しく思います。申し遅れましたが私、mkと申します。世界のどこにも存在しない妄想の博物館、珍楽器妄想博物館の館長を務めております。今回は12月半ばに当館で収蔵予定の珍楽器をご紹介させていただきます――といってもすでに有名なニュース・サイトでも取り上げられている *1 ためご存知の方もいらっしゃるかもしれません。今回ご紹介させていただくのは「スタイロフォン」というシンセサイザーです。  こちらがそのスタイロフォンのデモ&演奏映像。1970年代にイギリスで発売された音楽玩具ですが、コーネリアス、クラフトワークなどもこのサウンドに惹きつけられ使用していたとのことです。  それでは最後にスタイロフォンによる80年代ヒット曲メドレーでおわかれです(いきなり「Eye Of The Tiger」というのが泣けます)。当博物館では、皆様のまたのご来場を心待ちにしております。 *1 : チープなエレクトロサウンドにほっこりする電子楽器「スタイロフォン」(動画) : ギズモード・ジャパン