ピンチョンの『逆光』を読んでます!

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逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)
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 ちょっと前からトマス・ピンチョンの『逆光』に取り掛かってます。これ、1700ページぐらいある長~い小説なんですが、ちょっとずつ書評も出てきていますね。しかしながら、面白く紹介できている記事をあんまり見かけないのが少し残念。新潮社の新刊案内の冊子に載っていた書評も「ピンチョンはそんなに難しくないですよ!」「ピンチョンは面白いですよ!」的な話しかしておらず「月曜日の次って火曜日なんだよ」ぐらいの事実しか伝えていないのが問題である、と思う。山形浩生のちょっとした批判は至極真っ当。当の山形先生が書いている『逆光』のあらすじのほうがよっぽど読者のためになりますよ。私は第二部まで読んだところなんですが、このあらすじの正確さに驚愕しました。これだけ優れたガイドがあれば、別に初ピンチョンがこれでも良いんじゃないかな、と思わなくもない。「ピンチョン、読んでみようかな」と思った人は、まずあらすじを読んで「やっべ~、腹いて~」というぐらいに笑えたらトライしてみれば良いんじゃないか。翻訳も読みやすいですし、複数の物語が同時進行しまくりますが、そのラインがかなり整理された小説、という印象があって、暇さえあればとっても楽しく読める小説だと思います。





 『逆光』のここまでの印象なんですが、『ヴァインランド』、『メイスン&ディクスン』ときたピンチョンが、センチメンタルな良い話をより一層物語へと盛り込もうとしているのが明らかなように思われます。父親と息子、あるいは母親と娘。こうした関係における親子の絆や継承の問題が取り扱われる。男の間の関係は、極めてハードでかつ、おセンチに(ヘミングウェイみたいなんだよ、マジで)、女の間の関係は、メロドラマチックに、描かれるのね。ちょっとネタバレになりますが、父親の死体とともに荒野を旅する、というシーケンスなんかすっげー泣ける。このあたりは『メイスン&ディクスン』のラストにも通じるものがある。ここはホントに読んでて報われる箇所。





 あと、この小説、「自分がみているサムシングは、本当のサムシングではなく、仮のサムシングであり、本当のサムシングはどこか別の、ここではないどこかに存在するのだ」というスキゾ感溢れる妄想に囚われているヤツがたっくさんでてくるのね。ここがとても笑える。二つのバージョンのアジアだの、本当のヴィクトリア女王だの……あげくの果てに一番最初に登場する主人公っぽいキャラ《偶然の仲間》のメンバーも「自分たちは本当の《偶然の仲間》の変わり身で、自分たちじゃない本当の《仲間》がいるんじゃないか……」などという妄想に囚われてしまう(じゃあ、お前ら誰なんだよ!)。こうした世界の分裂を可能にしているのが、氷州石という石で、その石を通した特殊の光は《今ここにある世界》の《隣の世界》を覗いたり、《隣の世界》から物を呼び出したりできるとかなんとか……っていうのが第二部では明らかにされていく。なんか『スティール・ボール・ラン』の大統領のスタンド能力みたい……。





 この小説のなかでは、自分が見ているサムシングは嘘んこで、本当の(別な)サムシングのほうがベターっていう志向が働いている。ここではないどこか志向。これがまたピンチョンによるアメリカ批評なのだとしたら、この小説に登場するカルトな方々は《移民による自由の国》の紐帯を強める神話として妄想を抱かされている、とみるのが適切なかもしれない。アメリカのフォークロアはUFOみたいな感じで。



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(↑私は読んでないけれど『逆光』の翻訳者、木原善彦の本)





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