村上 春樹
文藝春秋
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前にも書いたと思うんだけれど、村上春樹のこの手の文章って、なにも読みたくないけれども手持ち無沙汰だからなにか読みたい、みたいな絶妙な、日常におけるエアポケットのような時間に読むのに非常に適している。とくに役立つことは書いていない。わたしは本書で、アメリカ合衆国の東海岸と西海岸にそれぞれ「ポートランド」という名前の都市があることを理解したけれども、それはなんらかのライフハックをもたらすものではない。本書で個人的にためになったのは、オレゴンのワイン、とくにピノノワールは、有名なナパに負けないほど優秀である(しかも、まだ人気がそこまで高くないからお値段も高くなっていない、らしい)ということぐらいである。
おっ、と思ったのは、この東西のポートランド(そしてオレゴンのワインに触れた)「おいしいものが食べたい」という文章で、タイトル通り、筆者が東西のポートランドにいって、そこで現地で流行っているお店にいき、食レポみたいなことを書いているものだ。作中に食べ物が印象的に使われていることが注目され、村上春樹と料理、みたいな本もでているぐらいだが、このように食べることがメインの目的となっている文章は珍しいんじゃないか、と思った。
皮肉っぽい感想を述べれば、しかし、良い仕事であるな、ということになる。取材であちこち旅行して、それを文章にして、本にする。それが売れる。実に楽しそうだ。
本の内容からは離れるが、高度な資本主義のシステムへの批判的な言及だとか、卵と壁とか言っている人であるけれども、この人の生き方って、資本主義のシステムにバリバリ乗っているし、壁側にむちゃくちゃ寄りかかってる人じゃないか、と思ったりもした。集団や社会との関わりをなるべく少なくし、なるべく好き勝手に生きる、それを可能にしてるのってまさに高度な資本主義のシステムじゃんか。孤独に生きることは、資本主義的である、自由な生活を可能にするのは、システムである、と警句めいたフレーズも浮かんでくる。
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