平田篤胤 『霊の真柱』

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霊の真柱 (岩波文庫)
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平田 篤胤 子安 宣邦
岩波書店
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平田篤胤の名前を知ったのは谷川健一の『魔の系譜』を読んでからだ。そこには彼が江戸時代に世間を賑わせた天狗小僧寅吉の世話していたという記述がある。この天狗小僧寅吉、自称天狗だったか仙人により異界へ連れ去られて(神隠し)、仙術の修行を受けた、という怪しいにもほどがある少年なのだが、それに内外の学問に通じ、ルネサンス的学才をもった篤胤という人物が心酔していた、というのが興味深い、と思った。18世紀後半から19世紀後半を生きた(西洋哲学史を顧みれば、ヘーゲルと同時代人である)篤胤は本居宣長の後を継ぎ、国学派として活躍したが、その業績はやや異端的だとして批判された、という。プロフィールからして面白人間には間違いない。荒俣先生も『よみがえるカリスマ平田篤胤』という本を書いていて、こうした面白人間を見逃さないのは、さすが。

『霊の真柱』は篤胤による創世記であり、『古事記』に代表される神話的歴史書を読解しながら宇宙の成り立ちや世界の法則を説明する国学的コスモロジーの本である。曰く国学を学ぶものであるならば「大倭心(やまとごころ)」を持つことが大切なのであり、そのためにはこの世界の成立を知らねばならないし、人が死んだらその御霊はどこへいくのか、など世界の秩序も知らなければならない。そのためにこのコスモロジーは必要とされたのだ。「イエズス会の日本布教戦略と宇宙論 好奇と理性、デウスの存在証明、パライソの場所」にもあるとおり、16世紀後半からイエズス会宣教師が来日し、布教活動に付随して西洋的宇宙論が広く輸入されはじめた。そこには「可視世界の深い理解から、不可視的創造主への認識へと至らしめるため」という目論みがある。篤胤が日本の創世記を語るのもそうした目論みと重ねて考えられる。

宇宙の中心が日本であり、日本の国学が絶対真理。これが基本なので、西洋はおろか中国の学問・信仰でさえ批判の対象となる。しかし、火・風・水・土を世界の四元素とする篤胤の世界観はアリストテレスかよ、と思ってしまうところ。実際、西洋の学問の影響を受けていなかったか、と問われれば、微妙なところなのだろう。四元素論については他から学んだものではない、と本人が否定していたそうだが、果たして。ただ、そうしたところに篤胤が生きた時代の輸入学問がどの程度だったのかも伺うことができるだろう。

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