ウンベルト・エーコ 『バウドリーノ』:偏差値が高いハードコア歴史おたくの手遊び

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イタリアの貧しい農民の家に生まれたバウドリーノが、神聖ローマ皇帝《赤髭王》フリードリヒの養子となるところから物語は動き出す。バウドリーノは語学の天才であり、そしてついた嘘がみんな本当になってしまう、という奇妙な運命のもとに生きているのだが、前半と後半でちょっと物語のテイストは変わってくる。前半は義父のためにあちこちで闘ったり、義父の嫁(もちろん美女)に実らない恋心を抱いたり、と中世騎士道物語のパロディ、というか、中世騎士道物語のパロディでもあったフランソワ・ラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエル』を相当に意識したもの。バウドリーノはパンタグリュエルと同じ大学に通っていたし、直接的な引用もある。とはいえ、バウドリーノは巨人ではなく大量の尿で敵を溺れ死にさせたりなどはできず、この辺りは結構淡々と進んでしまう。





話は、フリードリヒが死んだあたりからが変質。バウドリーノはいろいろあって司祭ヨハネが作ったという東方のキリスト教国を探せ、という使命を帯びており、亡き義父の遺志を遂げるために旅をはじめる(フリードリヒが死んだのは史実と同様、十字軍遠征の途中)。この旅の途中でプリニウスの『博物誌』やタキトゥスの『ゲルマニア』に出てきたような怪物や異形の人々と出会うことになる。足一本でものすごく速く走る人や、耳たぶが地面まで垂れ下がった人、また無頭人や一つ目の巨人……といった異形の人々は皆、教会から追われたキリスト教の異端であり、種族同士で誰の説が正しいかをいつも言い争っている、という怪奇小説となる。バウドリーノたちは彼らと一緒に住み、そして彼らが恐れている白フン族を撃退しようと奮闘。ちょっと『七人の侍』みたいな話になったこの乱痴気騒ぎはなかなか楽しい。





史実と虚実の物量作戦によってかなり高度な文芸作品らしい体裁をとる本作だが、実はエンタメ系ミステリー作。スケールはピンチョン並のスケールかもしれないが、最後まで物語を引っ張る「フリードリヒは一体誰に殺されたのか」という謎はかなり拍子抜けするオチでただただ残念。中世史マニア、神学おたくならエーコがダラダラと書き連ねている《仕込み》が楽しくて仕方がないかもしれないが、このガッカリ感はちょっと……。すべてのネタが歴史マニアのサークル内で閉じた手遊びにも思えてしまった。《碩学》として讃えられ、大変すごい作家なのであろう、と期待していたのだが、エーコってこんなもん?





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