中世の暗黒と秩序(ヨハン・ホイジンガ 『中世の秋』)

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日本の一般的な世界史教育において、中世ヨーロッパとは「暗黒時代」のイメージが色濃くつきまとっていると言えるでしょう。ペストの流行、十字軍、百年戦争……なにかと野蛮で、なにかと暗い話ばかりが取り上げられ、試験にでる部分としては、覚えにくい王朝名や君主名などで受験生からは嫌がられ、14世紀のイタリアでルネサンスが花開くまでの「なんだかよくわからない時代」として片付けられていることかと思います。「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人間)」という術語で有名なホイジンガの『中世の秋』は、そうした「よくわからない時代」の知識人の営みに焦点をあてた著作です。

とりあげられているのは14-15世紀のフランス・ネーデルラント。すでにイタリアではルネサンスが盛り上がっていた頃と時代的には重複してる部分がありますが、まだそうした華やかな文化はこの時代のフランス・ネーデルラントには到達しておらず、ホイジンガはまさに中世の「秋」、時代の黄昏とも言うべき時間を描いています。この記述は通史的に、直線的な時間の流れがハッキリと感じられるものではなく、儀礼や信仰、宮廷生活や絵画などさまざまなテーマにそって進んでいく。文学的とも言える歴史エッセイの集積、とでも呼べるでしょうか。

しかし、はじまり章「はげしい生活の基調」からの構成は痺れるものがありました。処刑や拷問が一種のエンターテイメントとして大衆から望まれ、戦争があり、病気もある、メメント・モリで野蛮な生活がまず細かに提示される。やはり中世は暗黒時代だったのか、と読者は思うはずです。現代の生活に慣れきった我々には、それは無秩序な時代とさえ思えるかもしれない。しかし、その後の章で綴られているのは、そうしたイメージとは正反対の、様式と秩序に満ちた中世の生活です。このカウンター的なイメージの提示がとても面白い。教科書的な記述がほとんどないため、本当に読みこむには前提となる知識はそれなりに要求されるかもしれませんが、それがなくとも、ここで描かれている生活模様は心惹かれる知識として受け取ることができるでしょう。

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