マヌエル・プイグ 『ブエノスアイレス事件』

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マヌエル・プイグ
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マヌエル・プイグの『ブエノスアイレス事件』を読む。彼にとっての長編3作目にあたり、大傑作『蜘蛛女のキス』のひとつ前の作品である。『蜘蛛女のキス』は映画のテクストが織り込まれた戯曲的な(変形的)純愛・性愛小説だったけれど、本作も章ごとにアメリカ映画のテクストが暗示的に提示されている。そして内容もどエライエログロサスペンスだった。プイグという人は、そういうものばかり書いているのか。速記やメモ書き、新聞記事の断片、電話の応対(電話相手が何を言っているのかテクスト上では空白になっている)普通の小説の地の文とはおおよそ性格が違うテクストが小説のなかに織り込まれ、実験作っぽい感じはあるのだが、不思議と読みにくくはない(多少時間軸が複雑なぐらい)。普通にサスペンス小説だと思った。プイグの小説って異形だけど内容は正統派、のような気がする

主人公はふたり。変なプライドと貞操観念のおかげで見事にこじらせちゃった彫刻家の女性と、容姿端麗で、生まれもそこそこ良く、経済的にも成功していたのに男性器が大きすぎるのと中折れしがちという理由で性的な不満を抱えるサド男。どっちも精神的にヤバい状態にあるのだが、本作でふたりの主人公が出会って、うまいことその精神的な危機が乗り越えられる、というハッピーエンドは用意されていない。彫刻家の女の自意識のこじらせ具合と、男性のモンモンモン具合が、読み進めれば読み進めるほどひどくなっていき、破綻を迎える。悲劇とも言えない自滅なので、なかなかに救われないのだが、書かれている精神汚染っぷりがまことに読んでいて楽しい。痛々しい楽しさ。すなわち、痛楽である。女性の方なんか自分がアーティストとして注目を浴びてインタヴューをされる妄想までしちゃってて、本当に止めてくれ……!! と思った。

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