アレホ・カルペンティエール 『春の祭典』

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「マジック・リアリズム」の開祖、キューバ生まれの小説家、アレホ・カルペンティエールが晩年に発表した大作。タイトルはもちろん、初演時に大スキャンダルを巻き起こしたことで知られるストラヴィンスキーのバレエ音楽から取られている。ロシア革命で国を追われたバレリーナ(彼女はかつてディアギレフのバレエ団にも所属していた)と、共産主義に共感し、人民戦線に参加したブルジョワの青年(建築を学び、音楽への造詣も深い設定には、作者のプロフィールが反映されている)が、内戦下のスペインで出会う。

革命から逃げた女と、革命を夢みる男の「革命メロドラマ」と言ってしまうと、あまりに陳腐な物言いになってしまうだろうか。どちらも出自はブルジョワ家庭だが、革命に対する態度はまったく正反対だ。女主人公が基本的にはメインなのだが、フーガ形式で小説は展開する。女は男の故郷であるキューバで、差別される黒人たちの儀式的なダンスを目撃し、これをもとに「ホンモノの《春の祭典》」を上演することを夢見ている。男は革命への夢を心の底でくすぶらせつつ、キューバで建築家として成功する。キューバに帰還してからの二人の人生は、いくつかの障害に悩まされつつも前進していく。

が、キューバ革命によって、どちらの人生も大きく狂わされてしまう。女は夢の実現の直前に、バティスタ政権と反政府勢力との抗争によって、主宰するバレエ教室を破壊される。男はバティスタ政権打倒後にそれまでの仕事のすべてを失い、ブルジョワ階級の友人たちもアメリカに亡命したり、人間が変わってしまったりしている。人生のやり直しを迫られる男は、昔とった杵柄で民兵へと身を投じる。そして、革命後のキューバでピッグス湾事件が起こる。

文章がほとんど切れ目なく、2段組で、500ページ以上続く非常に重厚な小説は、ここからなんだかオペラめいた大団円に向かっていく。あっさりしすぎ、といえば、その通りの展開、しかし、やり方が見事すぎて痺れてしまった。

革命を通してキューバを、そして南米の社会を描いた小説でありながら、ロシア出身の女主人公と、キューバ出身の男主人公、ふたりの故郷のあいだに挟まれるヨーロッパ、そしてアメリカが描かれているのも良かった。カルペンティエールがフランス亡命中に知り合ったシュールレアリストたちも実名で登場し、小説に色を添える。音楽家、小説家、画家、映画作家の固有名詞がかなりたくさんでてくるので、それらを押さえておくとより楽しんで読めるだろう。大家が晩年に残した傑作に相応しい出来栄え。

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