辻静雄ライブラリーの本を読むのもこれが3冊目。こちらは19世紀後半から、20世紀前半にヨーロッパで活動した伝説的料理人、ジョルジュ・オーギュスト・エスコフィエの伝記。フランス料理史的には、この人が近代的な厨房のシステムを考え、合理的な調理法を考案し、それを広めたパイオニア、ということになろう。筆致は、ほかの辻静雄の著作と比べると、かなりスタティック、というか淡々としている。正直に言えば、大きなドラマを感じることはできない。エスコフィエが(当時としては)斬新な料理をいくつも考案した、と記述されているが、それがどんなものなのか、どんな味がするものなのか、についてそこまで詳しく書き込まれていない。グルメ本のようなものではないのだ。
が、エスコフィエの才能が、かのリッツ・ホテル(この名前は、すぐさまヴァンドーム広場の風景を思い出させる)のセザール・リッツの才能とがっぷり四つに組み合ったことによって、ヨーロッパの各地に素晴らしいフランス料理を出すレストランを併設したホテルが作られ、当地の文化人や金持ちのあいだで評判を呼んだこと、その「現場」が、各地に優秀な料理人を排出するスクールとなったことに注目すべきだろう。今日のフランス料理の種が各地に広がるシステムが、こうして出来上がっていったところにドラマを感じると面白く読めるハズ。
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