アーネスト・ヘミングウェイ『移動祝祭日』

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移動祝祭日 (新潮文庫)
アーネスト ヘミングウェイ
新潮社
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 久しぶりにヘミングウェイの作品を読む。これは彼の遺作となった短編集で、最初の奥さんとふたりでパリに移住してからの日々を回想した私小説的な内容となっている。パリに移住したのが1921年、当時ヘミングウェイは22歳(今の私よりも若い)。まだ駆け出しの頃の彼が、奥さんと貧しいながらも協力して幸福な暮らしをしている様子が素晴らしいのだが、ガートルード・スタイン、エズラ・パウンド、そしてスコット・フィッツジェラルドといった豪華すぎるメンバーとの交遊録としても読める。





 とくにフィッツジェラルドは重要な人物として登場する。本の後半は、彼との出会いと別れまで綴った短編が連続し、素晴らしい才能を持ちながら、妻ゼルダの悪癖によって自滅してしまった(とヘミングウェイは綴っている)彼のあまり幸福とは思えない人生が大変ユニークなエピソードとともに回想されるのは面白い。とくに『サイズの問題』という「男性器の大きさで悩むフィッツジェラルド(このとき既に幾つものの傑作を書いた一流の作家として世間で認められているのに!)が、その悩みをヘミングウェイに打ち明ける、という出来事を後年フィッツジェラルドの死後に回想する」という短編は、前半の思わず笑ってしまう(が、どれだけ当時のフィッツジェラルドが神経を弱らせていたのかが、伺い知れる)エピソードと、後半の素晴らしい作家であり友人を失ってしまった喪失感とのコントラストが効果的だ。


もし読者が望むなら、この本はフィクションと見なしてもらってもかまわない。だが、こういうフィクションが、事実として書かれた事柄になんらかの光を投げかける可能性は、常に存在するのである*1



 翻訳と解説は高見浩。氏の文章は、繊細さと力強さのバランス感覚や生き生きとした言葉選びに優れていて、今回も素晴らしかったのだが「ヘミングウェイは、こんな風に回想しているけれど、実際はどうだったの?」を検証するかのような解説もとにかく面白い。




*1:『はじめに』より





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