ジム・フジーリ 『ペット・サウンズ』

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ペット・サウンズ (新潮文庫)
ジム フジーリ
新潮社 (2011-11-28)
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The Beach Boysの『Pet Sounds』を語るストーリーは、ほとんどクリシェと化している。The Beatlesの活躍に刺激を受けたブライアン・ウィルソンが、狂気的な情熱で作り上げた大作であり、それは過去のThe Beach Boysというバンドのイメージをかなぐり捨てるものであった。その音楽はリアルタイムのリスナーたちを戸惑わせ、怒りさえも呼ぶ問題作だった……という風に。本書を訳している村上春樹もまた『Pet Sounds』でリアルタイムに困惑した人間のひとりである。

このアルバムを評した著作は何冊もあるし、わたしもこのジム・フジーリによる本のほかにキングズレイ・アボットによるThe Beach Boysがこのアルバムに至るまでを追った本を過去に読んでいた。本書で扱われている、ウィルソン兄弟が受けた父親からの虐待や、ブライアン・ウィルソンの精神的な問題、あるいはバンド内の人間関係といったトピックは、アボットの本と重なっている。ただ、本書は『Pet Sounds』をThe Beach Boysのイメージを捨てた作品、としてではなく、ブライアン・ウィルソンの音楽的成長のマイルストーンとして扱っている切り口に特徴がある。

ブライアン・ウィルソンはある日突然あのような境地に達したわけではなく、あの世界は、サーフィン、車、女の子、とカリフォルニア的なテーマを歌った初期の(と言っても、一枚目のアルバム『Surfin' Safari』から『Pet Sounds』のあいだには4年ほどしか時間の隔たりがない)作品にも潜んでいたのだ、とフジーリは言う。その形跡をアレンジや、楽曲の構成を細かく追いながら(譜例を使った解説などはないけれど)さぐっていくところは本書の読みどころのひとつだろう。

そういえば本書を読んでいて、わたしのなかではウィルソン兄弟が受けた父親からの虐待エピソードが、ジャクソン兄弟のエピソードと混同していることに気づいた。ベルトの革でぶたれたのは、ブライアン・ウィルソンだったのか、それともマイケル・ジャクソンだったのか。もしかしたらそれは、同じ村上春樹の翻訳によるマイケル・ギルモアの『心臓を貫かれて』だったかもしれない。ともあれ、以上にあげた3つの家庭には、こどもにとって恐怖の対象でありながら、愛されたいと思う存在である、ふたつに引き裂かれたイメージをもった父親が登場している。発達心理学の専門家でも、精神分析家でもないけれど、強烈すぎて歪んでみえる父権のもとで、複雑なキャラクターのこどもが育った事例として、ひっかかるものがある。

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