ハインリッヒ シッパーゲス
人文書院
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16世紀の木版画家、Hans Wechtlinによる開頭術の図。 |
この一言がわたしにとってはとてもためになった。「中世の医学」と聞くと、巨大な鍋でグツグツとなにかを煮込んで薬を作っている、的なイメージを抱きがちである。けれども、そのイメージはむしろ、中世の終わり頃にアラビアから流入した学問の反映である、という整理がうまい具合にできたというか。人体と宇宙の調和の思想が先にあり、その調和(不調和)の印を見極める術として、占星術であったり魔術があった、ということなのか。そもそも「医学」がどのようにひとつの学問として成立していったのか、も含めて非常に勉強になった。
読んでいてとにかく楽しいのは第4章「疾病のパノラマ」だろう。ここでは癩病、黒死病といった病気の患者がどのように(治療的な、あるいは社会的な)処置をされたのかが詳述されている。このなかでも14世紀から度々ヨーロッパで確認された「舞踏狂」という(おそらく)文化依存症候群の記述に惹き付けられてしまった。これは集団ヒステリーのようなものらしく、何百人の人々がほぼ憑依状態になって服を脱いだり、踊り跳ねはじまったそうである。目撃者は大変驚いたと思うが、これに対してなにか治療をおこなった、という記録もほとんどないという。16世紀末にはこの流行が収まっているのだが、中世末期にはじまって、近世の始まりとともに去っていくようで興味深い。14世紀にはペストの大流行もあったし、終末的な時代の空気感がこの病気には現れているように思う。
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