ジーン・ウルフ『調停者の鉤爪』(新しい太陽の書 2)

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調停者の鉤爪(新装版 新しい太陽の書2) (ハヤカワ文庫SF)
ジーン・ウルフ
早川書房
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 「新しい太陽の書」第2巻『調停者の鉤爪』は、「城塞」から追放されたセヴェリアンが街を取り囲む巨大な「壁」を通過し、サルトゥスという村に滞在しているところからはじまる(1巻と2巻のあいだに、『語り』の断絶があるのだが、後々説明されるので気にしないで読みすすめること)。セヴェリアンは壁を通過する直前に出会ったジョナスとともに目的地であるスラックスという街を目指すのだが、ここからようやくこれまで謎の多かった物語世界、ウールスがどういった世界なのか、ということが明らかにされていく。それを語るのは、セヴェリアンとともにいるジョナスだった。セヴェリアンの口から、星と星のあいだを運行する「船」に乗っていた彼によってその世界がどのように成立したのか、を聞くことになる。壁に囲まれた閉鎖的な世界から、広大な世界への広がりを感じる展開は、セヴェリアンの成長と連動するかのようにも読める。





 個人的にもっとも興味深かったのは、川のほとりで野宿をしているセヴェリアンを水のなかから誘う水の精(ウンディーネ)だった。2巻に入ると物語のなかに奇怪なクリーチャーが登場し始め、ファンタジックな要素が増えていくのだが、実はこうした生物は過去に人類がなんらかの操作によって生み出した生物であったり、異星の生物が人類とまじりあった生物であることが明らかになっていく。こうしたクリーチャーのなかには、人智をはるかに超えた知識をもち、まるで神的な存在のように振舞うものがある。ウンディーネもこのような神的なクリーチャーの一種であろう。「彼女」はセヴェリアンにこう語りかける。



多数の海を泳ぐわたしたちが――星々の間の海さえ泳ぐわたしたちが、単一の瞬間に閉じ込められていると、あなたは思う? わたしたちはあなたの未来の姿を見ているし、過去の姿も見ているのよ。



 ウンディーネは自分が、さまざまな時間に遍在していることを主張する。過去・現在・未来、どの時間にも彼女は存在しつづけている。その能力は、神が持っている要素として捉えられる(ここでは自分が最近読んだもののなかからクザーヌスを紹介しておこう。ニコラウス・クザーヌス『神を観ることについて』 - 「石版!」)。もともと人間によって作られたものが、神のように、人間よりも世界を知るものとして振舞うのを見ると、自然と漫画版の『風の谷のナウシカ』が思い出された。ウンディーネと同様に王蟲たちは人間たちよりもその世界を理解していた。こうしたモチーフは「終末後の世界」に共通する傾向なのかもしれない。そういえば「新しい太陽の書」と「ナウシカ」の劇中では、重さや距離の単位がいくつか共通していたりもする(今では使われなくなった古い単位が使われている)。







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