田崎 真也 田中 康夫
幻冬舎
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20年以上前の対談を元にしているのだから、今「ワインを学ぶ/知るための本」としてはどうなんだろう、という部分もあると思う。語られるのはフランスのワイン中心で、イタリアとアメリカがほんの少し、スペインのカヴァなんかも一言二言みたいな感じで、南米や南アフリカ、オーストラリアといったニュー・ワールドへの言及は一切ない。低価格高品質ワインが日本に入ってきたことで、ワインのカジュアル化は相当に押し進んだと思う。だから、この本は、それ以前の世界の話、と言って良いであろう。もっともそのカジュアル化というのも、ワインの世界にカジュアルな地区ができた、というのが正確なところで、高級で、オシャレで、難しい地区、ラグジュアリーな食文化としての領域は、20年以上前とあんまり変わっていない。だから、その辺はまだまだ有効な本なのだ。
「習うより慣れろ、学ぶより飲め」と冒頭で田中康夫は書いている。そこだけ初心者に優しい感じなのだが、その後の対談は最初からかなり飛ばしている。教科書的な記述をあえて避けているというのがあるのだけれども、まあ、いきなりこれ読んでもペダンティックで暗号のような本にしか読めないだろう。田崎真也も「原則として、ワインが料理を殺すことはない(だから自由にワインを選んで良い)」と言いながら、ワインと料理の「合う組み合わせ」を無数に提案している。不正解はないが、無数に正解は存在する……ボルヘスの小説みたいな話だと思う。「女の子にカッコ良いと思われるワインの頼み方」だとか「ソムリエに『ワイン通』と思われるためには」だとか、かなり下世話なことも書いてあるのだが、「ワイン深すぎるだろ」という恐ろしい世界の片鱗を味わうには格好の一冊だ。
わたしもこれ読んで、あー、ワイン通とか無理だわ、と思ったんだけれど、自分で極める必要も全然ない。思うに、ソムリエと会話ができるようになる(ソムリエに自分の好みや、その場にあったワインを選んでもらえるようになる)、という能力があれば、十分なのだ、普通は。まさに「ソムリエに訊け」だ。この本も田中康夫がもっとワインについて全然知らない人として登場してきていたら、格好の「ソムリエ会話入門」になっていただろうが、ちょっと高度すぎるな……。最高に面白い本ではあるんだけれども。
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