E.H. Gombrich
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エルンスト・H. ゴンブリッチ
中央公論美術出版
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まず、1本目の「The Renaissance Conception of Artistic Progress and Its Consequences」を読み終えたのでメモを残しておく。邦題は「芸術の発展に関するルネサンスの概念とその影響」。歴史を紡ぐうえで、ある人物が先行する人物から受けた影響関係を、系譜学的に描くというのは広く見受けられる。たとえば、棟方志功がゴッホを見て感激して、影響を受ける、とかね(音楽でも、ビートルズに衝撃を受けて……みたいな語り口ってよくある)。ルネサンス美術史でも、そういう影響関係をつなぎにした発展の概念は有効だったみたい。
これに対してゴンブリッチはそれとは違う発展史の媒介を提案している。彼がここで取り上げているのは初期ルネサンス期の彫刻家、ギベルティが製作したブロンズの門である。これはフィレンツェのサン・ジョヴァンニ洗礼堂でいまも見ることができる。この洗礼堂には、彫刻がほどこされた門が3つあり、そのうち2つがギベルティの手によるもの。一番有名なのが1452年に完成した「天国への門」と呼ばれるもの。
ギベルティによる「天国への門」 |
で、ギベルティによるもうひとつは1424年に完成している。残りはアンドレア・ピサーノが1336年に完成させたもの。ゴンブリッチはまず、ピサーノとギベルティの最初の作品の比較から入っている。両作品のあいだにはおよそ100年ほどの時間があいているが、ふたつの作品は、聖書の場面を描いたパネルのまわりの装飾といい、人物のプロポーションと良いとてもよく似ている。それからギベルティの描く構図は、過去の有名な彫刻作品の構図を参照している。
ピサーノによる門 |
ギベルティによる最初の門 |
じゃあ、ピサーノ → ギベルティの発展的な系譜が描けるのか。聖書の物語の構図なんか型みたいなのがあるし、過去の作品を参照するなんか当たり前じゃないのか、とゴンブリッチは言う。じゃあ、発展はどのように描けるのか。なにが発展の引き金を引いているんだろう。といったところで、ギベルティの最初の門と「天国への門」の比較に入っていく。
同じ製作者なのにふたつの作品は全然違う。まず人物のプロポーション。「天国への門」の人物は、顔が小さくなってスリムになっている。描写もより細やかになっていく。発展しているのだ。ゴンブリッチはここでギベルティの著作や手紙のなかから人文主義者の影響やプリニウスの引用を見出していく。知的な影響がルネサンス的な「自然の模倣」と「画面の調和」というルネサンス的な発展の契機になったんだろう、と言うのである。
かなり雑に読んでしまったけれども、図版を使った説明はかなりわかりやすいし、絵だけ見るんじゃなく、その背景にあるテクストを見ていく、というやり方は、インテレクチュアル・ヒストリーの手法そのもの、と思った。短いんだけど、ゴンブリッチの歴史記述の手法のエッセンスが詰まっていそうなエッセイなのかな。
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