Melanchthon: Orations on Philosophy and Education (Cambridge Texts in the History of Philosophy)
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Melanchthon
Cambridge University Press
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聴衆は主に大学で神学を学んでいる学生だったと思うけれど、神学者が例えば応用学科のひとつである薬学とかを学んでなんか良いことあるのか? こういう疑問に対して、メランヒトンは基本的に「神に接近するためにこういう学問が必要」という態度を取っている。学ぶことによって「支配者として客観的自然を変えていくというよりは、神の体系、すなわち世界の一要素としての人間が他の事物と有機的な対応関係を結び、自己啓発しだいで救済の道が開けるあの神の体系を理解せよ」(エヴァンズ『魔術の帝国』上巻 P.33)ということなのであろう。かつては現代における科学のあり方とは違った目的で、学問の探求がおこなわれていたことを改めて意識させられるところが面白い。
また、本書にはプラトンやアリストテレス、ガレノス、アヴィセンナといった過去の偉大な思想家の生涯についてあれこれ説明している演説も収録されているのだが(盟友ルターへの追悼演説も!)超ビッグネームのなかに、ルドルフ・アグリコラとヨハンネス・レギオモンタヌスという「誰、それ……?」的な人物も含まれている。どちらも15世紀に活躍したドイツ生まれで、前者は人文主義者として、後者は天文主義者として活躍した人物である。
なんでこの人たちが、取り上げられているかというと、おそらくこの二人がドイツに初めてイタリアの進歩的な学問を持ち込んだパイオニア的な人物だったからなのだろう。アグリコラの例が分かりやすいと思うんだけれど、彼が生まれた頃のドイツでは人々は喋り方とかめちゃくちゃで、論理的に話したり、書いたりする習慣すらなかった、つまりは文化的に超遅れていた地方だったわけである。そんな野蛮な地方に生まれながらも、イタリアまで学びにいき、ラテン語やギリシャ語、ヘブライ語を習得し、人文主義の種をこの土地に撒いたのだ! アグリコラ、エラいぞ!……的な感じである。
メランヒトンは語学について「ラテン語・ギリシャ語・ヘブライ語を習得すべし!」という話をしている。ここから読んだり書いたりする能力を鍛えることが、論理的な理解力をも養うんだよ、という教育観がうかがえるんだけれども、なんか現代の外国語教育の話とかと比べてみたくもなるポイントだ。なお、彼は「演説に定評があるメランヒトン」として当時はかなり評判を呼んだそう。他の演説家が言葉を過度に飾り付けて大げさに表現して人を惹き付けるスタイルとっていたのに対して、彼は話の筋道をちゃんと立てて説明的に表現をおこなうのが人気だったとか。そのせいか、この演説集、英語になってももちろん読みやすかった。
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