マヌエル・プイグ
集英社 (2011-05-20)
売り上げランキング: 79,180
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主人公は性犯罪で収監された同性愛者の男(ざっくりと言えば、オカマの人だ)と政治犯の男。同じ牢屋に閉じ込められたふたりの「男の話」なのだけれども、ここで描かれているのは「男女の愛」である。同性愛者の男は、模範囚として釈放してもらうかわりに、政治犯の男から彼が所属している革命組織の情報を得るよう取引をしている。政治犯の男は、同性愛者の男に対して偏見を隠せないでいる。この関係が次第に「愛」へと進んでいくのだが、これは「牢屋」という吊り橋効果的なものばかりではない。(訳者による解説でも指摘されていることだけれども)革命を夢見ながらも女性に対してはかなり保守的な考えをもつ政治犯の男が「成熟した子供(子供のまま成熟した大人)」であれば、それに尽くそうとする同性愛者の男の態度は「セックスつきの母親」のようである。
男性代表のつもりで意見を言うつもりはないし、また、男性の身分でこんなことを言うのは大変気持ちが悪いのだが、自分は子供のままで、セックスつきの母親に世話してもらえる、ってひとつの理想型なのだろう。あまりにも男性優位な愛の形態は、作中でも「搾取」という言葉で語られているが、これがまっすぐに批判されているのではなく、男と女(役のオカマ)のあいだで語られることによって、異化され、おかしみをもった戯画として読める。これも問題がある発言かもしれないけれど、男の相手がオカマだから、おかしみがあるのだ。一応、悲劇なんだけれど。牢屋のなかでの時間つぶしであり、同性愛者の男からすれば、政治犯の男と関係をもつための手段に過ぎなかった「好きな映画」についての語り。これがまたすごいんだよね……。あたかも映像とサウンドトラックが奇跡的にマッチしたような効果があるように思った。
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