集英社「ラテンアメリカの文学」シリーズを読む#16 プイグ 『蜘蛛女のキス』

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蜘蛛女のキス (集英社文庫)
マヌエル・プイグ
集英社 (2011-05-20)
売り上げランキング: 79,180
わたしが読んだのはもちろん集英社の「ラテンアメリカの文学」ハードカバー版であるが、上記のリンクは現行の集英社文庫版。第16巻はアルゼンチンのマヌエル・プイグの『蜘蛛女のキス』である。この小説が映画になっていることは読む前から知っていたのだけれども、なぜか作者のマヌエル・プイグを女性の作家だと思い込んでいて「苦手かもしれない」と予感していた(女性が書く小説って苦手意識がある。またマヌエル・プイグの性別の誤認識に関しては、小説のタイトルに『女』と入っていること、そしてマヌエルというファースト・ネームが『エマニュエル夫人』を連想させることが理由にあげられるだろう)が、これは震えるほどに感激した。ここまで読んできた16冊のラテンアメリカの作家によって書かれた小説のなかで最もメロウな小説ではないか。基本は主人公ふたりによるセリフのやりとりによって進行し(戯曲のようだし、実際、作者自身が戯曲化している)、ぶっ飛んだ想像力で読み手を魅了する魔術的なリアリズムもない。でも、そのセリフだけによる淡々とした語りによって、愛、というか、こう、グッとくる世界に引き込まれてしまう不思議なテキストである。

主人公は性犯罪で収監された同性愛者の男(ざっくりと言えば、オカマの人だ)と政治犯の男。同じ牢屋に閉じ込められたふたりの「男の話」なのだけれども、ここで描かれているのは「男女の愛」である。同性愛者の男は、模範囚として釈放してもらうかわりに、政治犯の男から彼が所属している革命組織の情報を得るよう取引をしている。政治犯の男は、同性愛者の男に対して偏見を隠せないでいる。この関係が次第に「愛」へと進んでいくのだが、これは「牢屋」という吊り橋効果的なものばかりではない。(訳者による解説でも指摘されていることだけれども)革命を夢見ながらも女性に対してはかなり保守的な考えをもつ政治犯の男が「成熟した子供(子供のまま成熟した大人)」であれば、それに尽くそうとする同性愛者の男の態度は「セックスつきの母親」のようである。

男性代表のつもりで意見を言うつもりはないし、また、男性の身分でこんなことを言うのは大変気持ちが悪いのだが、自分は子供のままで、セックスつきの母親に世話してもらえる、ってひとつの理想型なのだろう。あまりにも男性優位な愛の形態は、作中でも「搾取」という言葉で語られているが、これがまっすぐに批判されているのではなく、男と女(役のオカマ)のあいだで語られることによって、異化され、おかしみをもった戯画として読める。これも問題がある発言かもしれないけれど、男の相手がオカマだから、おかしみがあるのだ。一応、悲劇なんだけれど。牢屋のなかでの時間つぶしであり、同性愛者の男からすれば、政治犯の男と関係をもつための手段に過ぎなかった「好きな映画」についての語り。これがまたすごいんだよね……。あたかも映像とサウンドトラックが奇跡的にマッチしたような効果があるように思った。

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