辻 隆太朗
講談社
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副題にある通り、研究対象となっている「陰謀の主体」はユダヤ・フリーメーソン・イルミナティである。バーカンの本だとこれに、スペーシーというかギャラクティックというか要するに「宇宙と交信しちゃう系の人」だとか、地球空洞説だとか、いろいろ楽しげな人が付け加えられ、より多彩である一方、『世界の陰謀論を読み解く』のほうは、アメリカの福音派(彼は共和党の支持基盤のひとつでもある)のなかに流入する陰謀論の解説など深く切り込んでいる部分もある。もちろん日本における陰謀論受容史(戦前・戦中にユダヤ陰謀論が日本の知識人・政治家の一部に流行した、とか、80年代に自民党保守派のなかにユダヤ陰謀論を真に受けている人がいた、とか)や、オウム真理教、ベンジャミン・フルフォード、リチャード・コシミズ……といった日本のトピックも豊富である。
どうしてある種の人々は陰謀論を信じてしまう(というか、陰謀を見いだしてしまう)のか。彼らのメンタリティは「世界を統一的に簡単に理解したいと願う人びとは、世界を動かす見えない主体の可視化を求め、世界を動かす主体に明確で首尾一貫したアイデンティティを求めているのである」(P.203)という言葉に端的に言い表されている。とはいえ、これと似たような態度は、陰謀論者でなくても持っているハズである。株価の変動の理由、大きな地震が起きる理由、テロが起きる理由……なんでも良いけれど「理由」を求めるメンタリティと、陰謀論者のそれとで、どう構造的に違っているのか。違っているのは「理解したい」という気持ちにおける程度の問題ではないのか、とも思えてくる。
いわゆる「エコノミスト」と呼ばれる人のなかには「今年必ず株の暴落が起きる」とか「今年の○月に世界大不況が起きる」とかいう予測を毎年出している人がいるという。こうした人々の姿も、本書で描かれる陰謀論者の姿……「多くの陰謀論では、『いま』がまさに陰謀の最終段階なのであり、同時にわれわれが真実に目覚め、『彼ら』の野望を阻む最後の機会なのだと主張される」(P.257)……と重なるものがある。私(と私の支持者)だけが本当のことを知っている、世界を救えるのは私たちだけなのである、だから、私たちは大きく警鐘を鳴らさなければいけない……こうした使命感と「私たち以外」への排他性は、件のエコノミストたちにも共通するだろう。いたずらに「陰謀論者」で括られる対象範囲を広げても仕方がないけれど、陰謀論者的メンタリティは、陰謀論者だけが持つわけではない。そして、陰謀論者とそうでない人びとの距離はそう遠くはないのである。
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