トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』

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トマス・ピンチョン全小説 メイスン&ディクスン(上) (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス・ピンチョン
新潮社
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 読書中の途中経過についてはちょこちょこと書いてましたが、読了したので改めてエントリを残しておきます。1000ページ超、約3週間ほどかけて読む長い読書でしたが、それだけ時間をかけて読む価値はある、素晴らしい小説だと思いました。誰にでもオススメできるわけではないですが、面白い小話が好きで気の長い方なら「気がついたときには読み終わっている」という感じで読めるかと。とくに『メイスン&ディクスン』で驚かされるのは、これだけむちゃくちゃな話をいっぱい書いていながら、最終的には「良い話」でまとめてしまうところでした。これまでに翻訳のあるピンチョン作品は『スロー・ラーナー』以外全部読んでいますが、こうした後味の良さからもピンチョンでは一番好きな作品にあげても良いぐらい。





 作品は三部にわかれていて、第一部がメイスン&ディクスンの最初の仕事「南アフリカにいって金星の日面通過を観測せよ」についての話、第二部がメイスン&ディクスンがアメリカにわたって「ペンシルヴァニアとメリーランドのあいだの境界線をひけ」についての話。第三部はふたつの大仕事を終えた2人の男がその後どうしたのか、というエピローグとなっています。一番ボリュームがある第二部はやはりなかなか読むのがしんどかったです。しかし、秘密結社やら、人造鴨やら、風水撲滅を狙うイエズス会に狙われていると妄想する狂った中国人風水師やらが登場して、ピンチョンの小説に頻出する「闇組織との対立」が何度もはじまりそうになりつつも、メイスン&ディクスンは測量仕事に専念する。だから、ストーリーは迷うことなく進んでいる印象があります。かならず本筋に戻る、という安心感があるからその意味では読みやすい。





 「じゃあ、数々の脱線は無意味じゃんか! そんなの読ませるなよ!」とツッコミたくなるのは妥当だし、実際、ほとんど意味がない脱線ばかりで(でも、くだらなすぎて笑えるんですよ、基本的には)徒労感がなくもない。けれども、第三部でこうした「読むための苦労」はすべて報われました。アメリカ大陸から帰国したのちの、メイスン&ディクスンを待っていたのは決して素晴らしい待遇などではなかった。むしろ、不遇と言っても良いような境遇におかれてしまう。数年後、メイスン&ディクスンは再会し、昔話をする。そのとき、彼らは自分たちの仕事を「戦争」として振り返るのです。書いてしまうと陳腐な表現になってしまうけれど、このとき浮かび上がる「戦友の熱い友情」は胸にしみます。なぜなら、ここまで読み通してきた読者は、彼らの戦いが安易なものではなかったことを知っているから。脱線が連続する第二部のしんどさは、彼らの戦いのしんどさと擬似的に接続されるのです。





 また、このときふたりの間には「一緒にアメリカに戻ろう」という計画がもちあがったりもするんだけれど、ディクスンにはそういう気持ちがもはや残っていない。こうした老いの描かれ方もしんみりしてしまいます。おしゃべりで陽気なキャラクターだったディクスンだったからこそ余計にしんみり……そして、そのしんみり感を残したまま、彼はメイスンより先に死んでしまう。で、メイスンは彼の墓参りに行こうとするんだけれど、ここでもまた「良い話」が。そこでは描かれるメイスンと、彼の息子(父親からないがしろにされ、愛されていないのではないか、と不信をいだく次男)との和解が描かれ、私はこの手のヘミングウェイが書きそうなハートフルな話に弱いので、ふっつーに感動してしまったのでした。ごちゃごちゃしたお話がエピローグで全部昇華というか浄化というか、そんな感じで上手いことやっちゃってる感が、もうヤられた! って感じ。ピンチョン先生、一生ついていきますよ!





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