西成活裕『渋滞学』

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渋滞学 (新潮選書)
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西成 活裕
新潮社
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 このところ連休前などの道路が混みそうな時になると必ずニュース番組でコメントを求められている人がいる。それが本書を書いた東大の西成先生で、がっちりとしたスポーツマン風の体格で鼻と口のあいだにヒゲを生やした、男性ホルモンが濃さそうなメガネの先生の顔を覚えている人も多いと思う(なんでも大学時代はラグビーをやっていたんだそうな)。テレビ画面に映った西成先生は「気がつかないような上り坂が自然渋滞の原因だ」という。その説明は、とってもクリアで、私は「えー、ほんとなのかよ、なんかわかりやすすぎてあやしくない?」と前から気になっていた。本屋でこの本を見つけて読もうと思ったのは、そんな理由がある。





 で、読んでみたんだけれど、これはものすごく面白かった! 出版されたのは2006年、調べてみたらこの本で西成先生は、出版業界の賞を2つも取っていた。それも納得のすごい本だ。内容ももちろん、素晴らしいのだがとにかく文章が簡潔で、おそろしくわかりやすい。「難しいことをわかりやすく説明していますよ」という変な媚び方がないのも好感が持てる。西成先生はすでに何冊も一般向けの本を書いていらっしゃるのだが、これはテーマの面白さだけでなく、その見習いたくなるような文章力にあるのではないか、と思う。





 内容はタイトルの通り「渋滞はなぜ起こるのか、どうすれば解決できるのか」ということに取り組む新しい学問「渋滞学」の紹介になる。西成先生は国際的かつ分野横断的な研究グループを組んで、渋滞のメカニズムの解明に取り組んでいるのだ。渋滞といっても人混み、車、通信と幅は広い。我々の世界には、あらゆるところに渋滞が潜んでいる、と言っても良いぐらいだ。そしてこれらは基本的には良いものとは考えられていない。運送業だったら車の燃料や時間など無駄なコストが発生させる元凶だし、駅が混雑して歩きにくくなってたらイライラするだろう。その研究に取り組むのは、世の中のためになるとても重要な研究のように思える。お盆や正月の高速道路の渋滞が少しでも緩和されるのならば、素晴らしいじゃないか。





 しかし、渋滞を解明するのは困難だ。いまのところ、何せ動いているのは人間だったり、車だったりするわけで、ニュートン物理学の原則によって扱えるようなものではない。意思や性格などによってそれぞれ振る舞い方が変わったりする。こうした複雑なものを渋滞学では、まず簡単なモデルを使ったシミュレーションによって捉えていく。計算に用いられるモデルは日夜改良が加えられ、研究グループのあいだでは「基礎研究が終わった段階」にまできてるらしい。すごいぞ! 複雑なものごとの振る舞いを、理解可能なものへとなんとか落とし込もうとする過程は感動的でさえある。





 最終章では、昨今の理系の分野における大学教育の問題にまで触れられていて、どんだけ射程範囲が広い本なのだ! と思ってしまうのだが、西成先生の主張「最近の学問はお互い独立しすぎ。理学と工学が手を結んだだけではダメ、理学と工学がひとりの頭のなかに入ってるような人材を育てないと、今後の科学は発展しない!(分野横断的な渋滞学はその嚆矢なのでR。大意)」というのも、力強くてカッコ良い。なんか将来有望な理系学生でもないのだが、励まされたような気分になる。将来理系に進みたい高校生にオススメしたいかもしれない(まずは学校の先生が読むべきですね)。実用的な知識もところどころ含まれている。「知識は人を助ける」。西成先生のこの言葉もすごく良いな、と思いました。知識は人を助ける!(毎朝大声で叫んでから玄関を飛び出したりしたい)





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