On the Run: Fugitive Life in an American City (Fieldwork Encounters and Discoveries)
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Alice Goffman
Univ of Chicago Pr (T)
売り上げランキング: 55,676
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こちらは最近NYTimes.comに出ていた書評。かなり好意的に紹介されているけれども、実際読んだらかなり面白い本だった。内容は、筆者がペンシルヴァニア大学の学部生時代にキャンパスの近くにあった黒人貧困層が多く住む地区、6番通り(6th Street)で家庭教師をしていたことからはじまる参与観察の記録。そこにはドラッグの密売や窃盗などを繰り返す黒人の若者を中心に、6番通りで生活する人々がどんな風に生活しているかが生き生きと描かれている。11年にも及ぶフィールドワークは、なかなかの体当たり取材とも言えて、6番通りに移り住み、インフォーマントとべったり生活を共にしたそう。喋り方は黒人の若者のクセがうつり、それまでの生活スタイル(健康に気を使って野菜をたくさん食べたり……とか、まあ中流層みたいな感じの)は希薄化、さらには警察に逮捕までされている。
警察の捜査網から逃れるための若者たちのテクニックや、逆に警察の捜査テクニックなどにページを多く割いているけれど、追われている若者たちの「周辺」もまた面白い。たとえば、男女の関係。6番通りの生活は、犯罪を起こす男たちに対して、それに困らせ続ける女たち、という風にハッキリと男女の役割が決まっていて、指名手配犯となった息子やボーイフレンドに振り回される女性の姿はなかなかに泣ける。
逃亡生活には危険が伴うわけだから、女性が彼氏の身を案じてるのは当然でしょう。そこで彼女たちは出頭するよう説得したり、応じなかったら警察に情報提供して「安全に」逮捕してもらうようにしたりする。彼氏が逮捕されるのは嫌だけれども、彼氏が死ぬのはもっと嫌と、そこには苦渋の選択がある。しかし、逮捕される彼氏にとって彼女の通報は裏切りであり、彼氏の仲間たちから「裏切り者」だとか「クソビッチ」みたいなヒドい扱いを受けてしまう……とかなかなかのヒドさだ。その不名誉をはらすために、彼氏の裁判費用を持ってあげるなど女性は健気にふるまうけれど、男の方はシャバにでてきた途端に別な彼女を作ってたりとどこまでも外道である。
もちろん、6番通りには犯罪歴のあるダーティーな若者たちしか住んでないわけではない。クリーンな若者たちもいる。彼らの生活はダーティーな若者とはまるで違っているのだが、じゃあ、どういう人なのか、と言って、一番最初に著者があげているのがゲームオタクだっていうのが笑える。彼らはドラッグも銃の不法所持も窃盗もやらない。夕方にピタッと仕事を終えると、友達の家に集まって、ビールを飲みながらゲームをやる、っていうのが幸せ、彼女がいなくても全く問題ない!(わかりやすいぞ!!)
ただ、クリーンな若者たちも生活に余裕があるわけではない。大学に通いたくても通えないし、突然仕事をクビになったりと安定した生活は保証されていないのだ。象徴的なのは、金がなくてプロムに女の子を誘えない少年たちの記述だ。そこにはリア充対非リアの対立が、そのまま超格差社会のボーダーになっている恐ろしさを感じた(あと日本にプロムがなくて良かった……と思った)。
著者の問題意識はこうした格差や隔離にも向いている。1990年代以降、合衆国では犯罪発生件数が減少傾向にあるけれど、犯罪に走りがちな階層・地域のなかでの階層の流動性が低まりまくっていることが指摘されている。それは本書のなかで示される集団内での犯罪知識や手法の継承や、父親が服役中で家が貧乏なので子供が窃盗でもしないと生活できない家庭(また一度逮捕されると教育が受けられず、マトモな仕事が得られず、犯罪に……)からもリアルに実感できるところ。当然、お金に余裕がある人たちは犯罪多発地域を避けて住むようになり、犯罪多発地域はどんどんゲットー化が進んでいく。人種隔離の政策はとっくに撤廃され、黒人の大統領が選ばれた現代において、合法的にゲットーが形成されていくところがまさに地獄である。
そろそろ、こういう現象は他所の国の話、という感じで片付けられないであろう。日本でもそのうち、同じようなフィールドワークができるように/必要になるんじゃないのかな。もしかしたらもうできるのかも。「マイルドヤンキー」とか言っていられるウチはまだ平和なのか?
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