内田光子についての覚え書き

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 Youtubeで動画漁りなどをしていたら、内田光子がモーツァルトのピアノ協奏曲第20番(この作品ではベートーヴェンがカデンツァを書いている)を弾き振りしている映像が出てきた。彼女の演奏はシューベルトやベートーヴェンの協奏曲などをよく聴いており、日本人では間違いなく最も好きな演奏家の一人(外交官を父に持つ内田光子はほとんど海外で音楽教育を受けているから『日本人演奏家』とは呼べないかもしれないけど)。しかし、映像を観るのは初めてだったから結構驚いた。





 一番の驚きは、内田光子って「顔でピアノを弾く」のだな、ってこと。弦楽器奏者なら割と「顔弾き」する人が多いけれど、ピアニストでは割と珍しいのではないだろうか。映像を見てもらえば分かるように、これでもかと愉悦の表情を浮かべており、ウッドストックのジミ・ヘンドリクスも真っ青と言ったところだ。顔とかものすごいどうでも良いけど、演奏は素晴らしいっすね。







 「内田光子はどのようなピアニストか」については改めて私が文章を書く必要など無い。というのも、村上春樹がシューベルトのピアノ・ソナタについて書いたエッセイの中で彼女の演奏を言い表しているからだ。少し引用しておこう。



彼女のシューベルトは、ほかのどのようなピアニストの演奏するシューベルトとも違っている。その解釈はきわめて精緻であり、理知的であり、冷徹であり、説得的であり、自己完結的であり、そういう意味では彼女の演奏は、どこを切っても金太郎飴のように、内田光子という人間がそのまま出てくる。(『意味がなければスイングはない』)



 この内田光子についての文章、特に「どこを切っても金太郎飴のように…」という部分が私にとって「村上春樹が音楽について書いたとき最も共感したもの」の一つである(この人は良い耳をしているなぁ。ホンモノだなぁ、と思った)。しかし、内田光子は「どんな特徴がある」と言って指摘することが難しいピアニストでもある。おそらく上で引用した文章も、彼女の演奏をずっと聴いてきた人でも無い限り納得いく文章ではない。彼女の演奏は経験的な知をもってでしか理解されえない。



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 てっとり早いのはやはり内田光子の様々なピアノ演奏を実際に聴いてみることなのだろう。その便利なアイテムとして彼女が最も共感する作曲家として挙げるシューベルトの録音を集めた8枚組のボックスセット。これは彼女がシューベルトの小品からピアノ・ソナタをセレクトしたもので「全集」という形をとっていない。「どうせなら全部録音すれば良いのに……」と残念な気持ちもあるんだけど「自分が気に入ったもの/自信があるものしか録音しない」という姿勢は好感が持てる。まるでリヒテルみたい(演奏のタイプは正反対だけど)。この8枚組を聴き終わったら、大体その人は「内田光子」というピアニストが分かる、と思う。



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 その「分かった!」という感じは、次に彼女のベートーヴェンを聴いたとき確証に変わる。ここでも爽やかなトーンや、溜息のようなルバートといった「内田光子らしさ」が存分に聴くことが出来るんだけれど、あまりにもピアニストが前面に押し出されているところは好みの分かれるところだ。リヒテルの「強靭なタッチ」やホロヴィッツの「速さ」、アファナシエフの「遅さ」といった一聴して分かる個性を持っていないけれど、聴き続けることで初めて内田光子の個性というのは現れ出てくる。そうなってしまうとこの人ぐらい個性的なピアニストはいないような気がする。彼女が何を演奏しても「内田光子の○○」となってしまうから諸刃の剣みたいなものだけれど。



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 個性派が誰かと共演しているときっていうのは概して素晴らしいものが生まれやすいんだけれど、内田光子がクルト・ザンデルリンクと共演したベートーヴェンのピアノ協奏曲の仕上がりもすごい。彼女はフルトヴェングラー・フリークらしいんだけれど、共演者の選択にもそういう巨匠趣味が反映しているんだろうか。とにかくザンデルリンクがコントロールするオーケストラは、冒頭から豊かで、音量の幅があり聴いていて気分が高揚してしまうんだけど、それぐらいすごい人じゃないと内田光子みたいなピアニストと闘えない感じもする。個人的に今のところこの録音が彼女のベストだ。





 ちょうど今月来日してるんだけれど、お金なくてチケット取れなかったんだよなぁ……。





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