随分久しぶりな気がする、漱石。

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虞美人草
虞美人草
posted with amazlet on 06.09.14
夏目漱石
新潮社 (1951/10)
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 アドルノに集中していたせいかもしれないけれど、ここ最近小説を手にとってもグッと引き込まれて読むようなことが無く「あら、これが感受性の鈍りってヤツかしらん」と不安になって、漱石の読んでいない作品に手を出した。『虞美人草』。前期三部作と後期三部作の間にある作品。最後に読んだ漱石の作品は『夢十夜』だったと思うが「こんなにガッチリとした文体だったかなぁ……」と思った。自分の中で勝手に漱石観が軟化していたような気がする。文体は『草枕』の感じに近い印象。ずらりと紙の上に印刷された漢字の並びや、声に出したときのハキハキとした美しさなどに触れると「ああ、日本語って良いなぁ。日本人で良かったなぁ」と思う。最初面食らったけれど、私の中ではやはり読んでいて落ち着く作家だ。





 「恋愛小説なのかな……?」と思いながら読んでしまったけど、小説中には「近代的な愛」なんかこれっぽっちも登場せず、なんというか「自分じゃ何も決められないダメ男、小野をめぐる結婚の策略と悲劇」みたいな感じ。「お世話になった先生の娘と、金持ちの友達の妹、どっちと結婚すりゃ良いのかなぁ。あーでも博士論文も書かなきゃいけないしなあぁ。どうすっかなぁ……」と小野は悩むんだけれど、全然自分じゃ決められない。そうこうしているうちに周りはどんどん悲劇の方向へと向かって行ってしまう。





 小説内でも、柄谷行人の解説でもシェイクスピアの悲劇が引き合いに出されるているけど『虞美人草』の終わり方ってあまりにも唐突過ぎるし、なんか全然気持ち良い悲劇的な解決になってない気がした。例えば『ハムレット』なら主要登場人物が全員死んで幕が下りる(それってものすごくスッキリしてしまう)。けれど『虞美人草』はそうではない。後味がすごく悪い。確かにひとつの悲劇によって場は一応収まっているけれど、綺麗な解決には至っていない。というか、余計に問題は複雑になっているような気がする。これで終わって良いのか!?『門』のような美しい諦念もなんもなく……。





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