ボズ・バレル死去の暗さを吹き飛ばす天気

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 ブラームスのピアノ協奏曲第2番。私の中で「秋の超良い天気の良い日っぽい曲」といえばこれです。1楽章、ホルンの独奏に導かれるようにして入ってくるピアノ独奏を聴くたびに、乾燥した空気と日差しの柔らかい温かさが交差する感じが記憶の中で蘇ってくる感じです。作品番号は83番。円熟期に入ったブラームスの名作ですね。ヴァイオリン奏者のギドン・クレーメルは「ブラームスは実は交響曲を9つ書いていた。4つの交響曲に、2つのピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、二重協奏曲、そして《ドイツ・レクイエム》。これらがブラームスの9曲の交響曲だ」と言っていました。珍説ですが、この作品などを聴くと非常に納得のいく感じもします。オーケストラのなかにピアノが自然に溶け込んでいるせいで、カデンツァの部分でもオーケストラが鳴っているような錯覚に陥ってしまう。オーケストラの強拍を裏に持っていくリズムの面白さは、とてもブラームスらしい。





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 そして第3楽章。室内楽的な性格を持った楽章で、このあたりを聴けば「ブラームスは秋っぽいなぁ」と言われている理由が分かる気がします。冒頭、チェロ独奏の甘いメロディが、ヴァイオリン(+ファゴット)へと歌い継がれ、チェロとオーボエとの絡みに……という流れが見事過ぎ、ピアノが入ってくる前に涙がこぼれてしまいそうになりますね。こんな良い旋律が書けるのにも関らず、生きてるときのブラームスは「あぁ、良いなぁ、ドヴォルザークは。あんなにメロディすらすら書けて……」と羨んでいたというのが面白い。私がクララ・シューマン*1なら「あんな肉屋の息子が書いたドロ臭いメロディなんかより、ずっと良いもの書いてますよ。自信持って!」と励ましてあげたい。





 Youtubeにあるかな、と思って探したらCD化もされていないんじゃないか?っていう貴重な映像がありました。上にあげたのは全てバレンボイム(ピアノ)、チェリビダッケ(指揮)、ミュンヘンフィルのライヴ演奏。チェリビダッケはこれでもかと豊穣な音をオケから引き出しており、こんなオケと一緒にやれる独奏者は幸せものだ……と思ってしまう。似たような組み合わせに、バレンボイムとクレンペラー/フィルハーモニア管によるベートーヴェンというものを持っていますが、これは独奏者とオーケストラがまったく噛み合わなくて、両者の異質具合が面白過ぎる……というクレンペラー愛好者にしか分からない演奏でした。しかし、このバレンボイムとチェリビダッケは良いな。





 CDでは3枚の録音を気分によって聴き分けています。



ブラームス : ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品83
バックハウス(ウィルヘルム) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ブラペック(エマヌエル) ブラームス ベーム(カール) モーツァルト
ユニバーサルクラシック (1999/06/02)
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 まず「スタンダードな名演奏」として、ヴィルヘルム・バックハウス/カール・ベーム/ウィーン・フィルの録音。ベートーヴェン演奏では「神様」的な位置付けをされたバックハウスは、晩年この曲とベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番ばかりを好んで取り上げていたそうです。この録音も晩年のもの。指揮者はもはや盟友、ベーム。そしてオーケストラはウィーン・フィル……とウィーンで生活していたブラームスを聴くには、セッティングからして完璧すぎます。柔らかな弦楽器の音色や爽やかな金管楽器のハーモニー。背筋がピンとなるくらい格式高い演奏です。特にやはり甘くヴィブラート過剰な感じで弦楽器の音が立ち上がってくるところは、鳥肌もの(こういうのは一種のフェティシズムでもあります)。バックハウスも歳をとって「あ、大丈夫かな……」というところがあるけれど、気合とオーラでカバー。



ブラームス:ピアノ協奏曲第2番&グリーグ:ピアノ協奏曲
ルービンシュタイン(アルトゥール) RCAビクター交響楽団 クリップス(ヨゼフ) ブラームス ウォーレンステイン(アルフレッド) グリーグ
BMG JAPAN (2002/11/20)
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 もう一枚、古い演奏ですがアルトゥール・ルービンシュタイン/ヨーゼフ・クリップス/RCA交響楽団の演奏。こちらは先ほどのウィーン・フィルとは打って変わってアメリカのオーケストラ。50年代の録音ですが戦後直後のアメリカのオーケストラ(特にレコード会社が持っている楽団)には金のかかった楽団が多く、世界各国から上手い奏者をかき集めてきているため、とにかく音に迫力……というか凄みがあります。このRCA交響楽団もその例に漏れず。ダイナミックス・レンジの広さや金管楽器のゴージャス感など一歩間違えれば悪趣味そのものですが、そのギリギリな感じが変に爽やかな感じがして気持ちが良いですね。馬力のあるデカいアメ車そのもの。ピアノのルービンシュタインは「晩年になって深みを増した…」といわれる人ですが、これは言ってしまえば「深みを増し始めた」ぐらいの時期。速いパッセージは「20歳の若者が弾いた」と言っても信じてもらえそうなぐらい情熱的にピアノを弾きまくり、緩叙楽章では深みのある音楽を響かせてくれます。「深みを増し始めた」と言っても、この時既に60歳とか。普通だったら熟し切ってるどころかテクニックが衰えて「どれ、小品集でも出して一儲けしようかな」っつーくらいの年齢。80代後半までピアノを弾いていた人ですからマジで化け物。



ブラームス:ピアノ協奏曲第2番
ポリーニ(マウリツィオ) アバド(クラウディオ) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ブラームス
ユニバーサルクラシック (2002/09/25)
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 最後の一枚は比較的最近の録音から。マウリツィオ・ポリーニ/クラウディオ・アバド/ベルリン・フィルのライヴ演奏。ポリーニといえば「上手い!速い!元・左翼(イタリオ共産党員)!」と私の好きな要素を三拍子揃えたピアニストですが、何故か好きになれない不思議なピアニストでもあります*2。やはり上手すぎてもダメなんですよね。何を弾いてもスラスラ弾いてしまうから面白くない(ブーレーズのソナタの演奏をスラスラ弾いてるのは大好き)。しかし、このブラームスの録音だけは大好きです。元・革命闘士仲間であったアバドとのライヴだったからかも知れませんが、ここでのポリーニはまったく音楽をスラスラと進めようとしていません。それどころか「曲が進まないのではないか」とさえ思える瞬間がある。遅いテンポのなかで、乱れ無く正確にパッセージを打ち込んでいくところがまた凄いところです。普通のピアニストならそこに何らかの「情」を感じるのに、これはすごく真っ白い感じがする。磨き上げられたガラスのような美しいブラームス。あと、やはり先に紹介した2枚を聴いた後にベルリン・フィルの演奏を聴くと「うわぁ……ベルリン・フィルはさすが現代最高の楽器だ……」と思いますね。





 「ブラームスは秋だよ」と言われるので逆に反発して年中、ブラームスを聴いているのですが、今ふと自分のなかの「秋っぽい曲ベスト」を探してみたらやっぱりブラームスだったので、長ったらしく書いてみました。




*1:ブラームスの師匠的存在の作曲家、シューマンの奥さん。ブラームスが生涯恋焦がれた相手田と言う


*2:元・左翼、っていうのはルイジ・ノーノ絡みでしか意味は無いのだけれど





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