水島新司『野球狂の詩』

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野球狂の詩 (1) (講談社漫画文庫)
水島 新司
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 この「石版!」というブログ、もう4年近く続いているのだが、8割ぐらいを思いつきで書いているだけのブログであるため私が「『まんが道』は日本の『失われた時を求めて』」とか言っても誰も信じる人はいない。信じる人がいないのを良いことに今日もいい加減なことを書こうと思って「『まんが道』がプルーストなら、『野球狂の詩』はマジック・リアリズムじゃい!」とか言ってみたい。そう、水島新司は日本のガルシア=マルケスだったのである。突拍子もない想像力、純粋な愛、そして運命。50歳にして現役のプロ野球選手であり続ける岩田鉄五郎は、ホセ・アルカディオ・ブエンディーアの姿とも、アウレリャーノ・ブエンディーア大佐の姿とも重なるではないか!





 以前ふと思い立って『男どアホウ甲子園』を全巻一気に購入して、呵成に読み込んだときも「水島新司、おそろしい想像力の持ち主だ……。『ドカベン』なんか可愛いもんだ。狂気としか思えない」と恐れおののいたものだ。なにしろ、ヤクザの倅とインテリ左翼と番長、それから松葉杖をつかないと歩けない障害者などが阪神狂いの男に従って甲子園を目指したりするのだから。そんな彼らにマトモな野球などできるはずがなく(大体、ヤクザの倅はすぐに日本刀を抜いたりするし)、途中で野球武者修行などと称して巡礼者のように全国を徒歩で旅するなどのストーリー展開は「野球漫画のストーリーライン」を大幅に逸脱している、と言って良い。かつて主人公に敗れたライバルが覆面を被って登場したりするし……。





 しかし『野球狂の詩』での水島新司の想像力はそれ以上にすごかった。梨園の生まれで野球の才能もすごいスラッガーなどはまだ序の口。日本の球団でプレイすることを諦めたゴリラがメジャーで活躍する話(いくらなんでもメジャーが大らか過ぎる!)や、ケニアからきた黒人の青年がホーム・スチールをキメまくる話(いくらマサイ族でも足速すぎ!)など、今なら動物愛護やPC的にも問題がありそうな話がゴロゴロ。ゴリラはメジャーの過密スケジュールに悲鳴を上げ野球を止め、マサイ族は日本の空気が汚すぎて肺を悪くして再起不能になる、などのオチも社会批判なのかなんなのかよくわからず、とにかく唖然とさせられてしまう。大体、第7話なんかタイトルが「乞食打者」だからね! もう言葉がなにも出てこない。だって乞食打者だもん。





 もちろん、突拍子のない想像力が発露されるところばかりに注目していると単なるバカ漫画で終わってしまう。水島漫画の風景には、私は見たこともないバラック街が一貫して描かれている。この点がすごく興味深く思われる。『ドカベン』、山田太郎もプロ野球選手になってからも汚いドヤ街みたいなところに住んでいたし(坂田三吉はもっとヒドいところに住んでたな)、野呂間鹿之助も貧乏だった。乞食金太郎(登録名。ひどすぎる)もそうだ。誰かしらは必ずクソ貧乏人が出てくる。その一方でものすごい金持ちも出てくるんだけれど、生き生きとしているのはいつも貧乏人の方だ。水島新司のリアリズムはいつもこの場所から立ち上ってきているように思う。こんな風景、今の日本に残っているのだろうか? それともかつては本当にあったりしたのだろうか? そんな風に疑いたくもなる。現実には存在しない異世界から生まてくるリアリティ。それこそ、マジック・リアリズムなんじゃないか?





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