プラトン 『ティマイオス』(3)

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原文


Timaeus
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ヘルモクラテス:まさにそのとおりです、ソクラテス。あなたには絶対にティマイオスがすでに言ったとおり、私たちの情熱が足りていないなどとは思わせません。もしあなたが言ったとおりできなくても私たちは少しもいい訳などしませんよ。なぜなら昨日ここを離れるとすぐ私たちが滞在しておりますクリティアスの客人用の家に向いまして、その道すがらから、とても熱心に考え続けていたのです。そこでクリティアスはひとつの昔話をしてくれました。クリティアスよ、今その話をソクラテスにしてくれたまえ。そうすれば彼は私たちに課された課題の目的が差し出されるものかどうか決める手助けをしてくれるだろう。


クリティアス:ええ、もちろんそうでしょう。もうひとりの仲間、ティマイオスも同意してくれるだろうね。


ティマイオス:もちろんだとも。

クリティアス:それでは、この話をあなたに教えることにしましょう、ソクラテス。それはとても不思議な話なのです――どの言葉も真実であるのにも関わらずね。それは七人の賢人のうちでも最も賢明な人物であったソロンがかつて保証してくれた話です。彼は同じ国に生まれた同胞で、私の近しい曾祖父であったドロピデスのとても近しい友人でした。ソロンは彼の詩作においてたくさんの土地について話しています。そして、ドロピデスは私の祖父であるクリティアスにその話を伝えました。そしてその老人は自分の番になると、思い出のなかからその話を教えてくれたのです。その話は、私たちの都市が偉大で素晴らしい行為を太古の昔におこなっていたけれども、時が過ぎ去り、人間の生が壊されてしまったことによって、消え去ってしまった、という話です。これらすべての行為のうち、特別に崇高なものがありました。このひとつは、私たちの感謝の気持ちを込めた贈り物となり、そしてあなたを祝いたたえることを首尾よく遂げてくれるでしょう。そうすることで私たちはアテネの女神に対する賛美を捧げられるはずです、いわばちょうどこの彼女を祝う祭典で本当の祈りを捧げるように*1


ソクラテス:すばらしい! さあ、私たちに都市がおこなっていた古代の行為を、ソロンが伝え、そして君の祖父が君に教えてくれたことを私にも教えてくれたまえ。私はそれをまったく聞いたことがないのだ。彼らは何が起こったと言っていたのだね?

クリティアス:それでは教えましょう。もうまったく若くない男から聞いた大昔の話です。実際、祖父であるクリティアスはその当時、90歳近い歳になっていた、と自分のことを言っていたのです。当時私は10歳かそこらだったと思います。それはアパトゥリア祭のあいだの子どもたちによる発表会の日のことでした*2。その場では、他の者と同様に私たち子どもたちは、饗宴で習慣的な待遇を受けるのです。そして、私たちの父親たちが朗誦の大会を開きます。たくさんの違った詩人たちによって多くの詩が披露され、私たち子どもたちの多くがソロンの詩を歌うようになりました。何故ならそのとき、そうした詩が新しいものだったのです。すると、私たちの一族のうちひとりが、こんなことを言い始めました。ソロンは最も賢明な人間であるだけでない、とくに詩業においては、あらゆる詩人のなかでも最も教養の高さを見せつけることができるのだ、と。その男は彼の思ったとおりに話したのかもしれませんが、さもなくば私の祖父を良い気持ちにさせたかったのかもしれません。祖父は大喜びだったことをよく覚えています。彼は無遠慮に歯を見せて笑い、言いました。

「そうだ、アミナンドロス*3、ソロンは気晴らしでしか詩をかかず、他の詩人たちのように真面目に詩業に取り組まなかったのは残念だ。それと、彼がエジプトから持ち帰った話を完成させなかったのも残念だった。彼が戻ってきて直面した市民間の争いやそのほかの問題で、彼はその物語を捨て置かざるを得なかったのだ。さもなければ、ヘシオドスやホメロスはおろか他のどの詩人たちであっても、彼よりも有名になることはなかっただろう。いずれにせよ、それが私の考えるところだ」。「おや、クリティアス? それはどんな話だったのだね」。他の誰かが尋ねました。「それは私たちの都市がおこなってきたなかで最も荘厳な事柄についての話だ」と年老いたクリティアスは答えます。「その業績はほかのどんなものよりも広く知られるべき価値がある。だが、時間の経過とそれを成し遂げた者たちが消え去ってしまったことによって、その話は今は残っていないのだ」。「初めからその話をおしえてくれませんか?」また他の誰かが言います。「ソロンが聞いた『本当の話』とはなんだったのですか? どうやって、誰から彼は聞いたのです?」

 「それはエジプトでの出来事だった」。クリティアスは語り始めました。「三角地帯で、ナイル川の流れが合流する地点のあたりにあったサイティクという地区があった。この地区のなかで最も重要な都市はサイスといい、これはアマシス王が生まれた都市でもある。この都市はエジプト人のあいだではネイトと呼ばれ、その土地の人々によれば、ギリシャではアテナと呼ばれる女神によって建設されたものだ。そこの住人はアテネの住人にはとても友好的で、私たちとは何かしらつながりがあると主張している。ソロンはそこに着いた途端、人々が彼を崇めはじめた、と言っていた。そして、彼はそのうちの考古学者である神官に、古代のことについて教えてくれるよう頼んだという。そこで彼はギリシャについてのあらゆることを発見した。そこには彼自身のことさえも含まれていた。彼はそんなことになっているなどとはほとんど何も知らなかった。ある場面で、彼は古代についての話に彼らを導こうと思い、私たちの古い歴史について議題を切り出した。彼は最初の人間であるフォロネウスとニオベーについて話し始め、そしてデウカリオンとニオベーがどのようにして洪水を生き延びたかについて語った*4。ソロンは彼らの子孫の系図を辿り、そして彼が語った出来事から何年経っているか計算することをもって、それらがいつの出来事なのか計算しようとした。するとそのとき、とても年老いたひとりの神官が口を開いた。『ああ、ソロンよ、ソロン、君たちギリシャ人というのは誰も彼も子どもなのだね。君たちのなかに年を取った人間はいないようだ』。これを聞いてソロンは言った。『何です? それはどういう意味です?』『君たちは若い』と年老いた神官は言った。『君たちは誰もが、若い霊魂を持っている。君たちの霊魂は、古くからの伝統によって受け継がれてきたものについて信念に欠けている。そのうえ、君たちの霊魂には時によって古くなった学習というものが欠けているのだ。その理由はこうだ。人々の生活を破壊してしまう数多の災害がたくさんの方法で、これまでに発生し、そしてそれはこれからも起こり続けるだろう。これらのなかでも最も深刻なものは火と水を伴ったもので、その他の数々の原因によるものはそれらよりかは深刻ではない。君たちにのあいだに伝承されている、太陽の子どもであるフェアトンの話も言っている――彼は、父親の戦車を馬具でつないだが、馬を操ることができず、彼の父親が辿る道を走ることができなかった。しまいに彼は地上の表面のものを焼き尽くし、そして彼自身も雷が当たって死んでしまった。これは神話として語られているが、その背後には真実が隠されているのだ。地上のまわりにある天体において逸脱が存在すると、それは非常に長い時間に渡って、地上にあるものを破壊する巨大な火を引き起こす、というね。これが引き起こされると、山や乾燥していて高いところに住むあらゆる人々は、川のとなりや海のそばに住む人と比べると、死に絶えてしまいやすい。他方では、神々が地上を洗い流すために洪水を引き起こすと、山に住んでいる牧夫や羊飼いたちは命を守ることができるだろう。しかし、君たちの地方のような都市に住む人々は川に飲み込まれ、そして海の藻屑となってしまう。しかし、そのような時であっても、この場所では水は私たちの住むところの高さまでは溢れてくることがない。それどころか、そうした本質はいつも地面から引き起こされるものなのだ。そして、ここで古いものが保存されているこの理由の説明は、最も昔から言われている。過度に寒くも、熱くもない場所ではどこでもそうしたものが守られるというのが、その真理であり、そうした場所で人類は時折増えたり減ったりしながら存在を続けていくのだろう。どこで起ころうが、なんらかにおいて高貴であったり、偉大であったり、目立っていたりすれば、そうした出来事の全てが私たちに報告され、そして、それら全てがここの寺院に刻まれて、そして大昔から保存されるのだ。一方、君たちやその他の場合では、文字の読み書きやその他の都市によって要求される財産ができあがるとすぐに、数年でもしないうち、天によって成される洪水がやってきてしまう。それは疫病のように君たちを襲い、そしてその後には、文字も文化もない状態だけが残される。ここや君たちの地方にまつわる古代から存在するものとはまったく親しくなれずに、いわば、君たちは何度も子どもになるのだ。ソロンよ、君がちょうどおこなった君たちの先祖たちの血統についての説明など、童話のようなものに過ぎない。第一に、君たちは一度の洪水しか覚えていない。実際にはその前から膨大な回数の洪水があったというのに。第二に、君たちは自分たちの地方にもっとも優良で、素晴らしい人類がいたことに気づいていない。その血統のほんの一部分が生き残ったおかげで、これは君たちの都市全体元になり、そして今日も君たちの同国人である人種となっている。しかし、これらは君たちの前から消え去ってしまった。なぜなら、生き残った人々からたくさんの世代が生まれては死にするあいだ、一切記録を書いて残さなかったからだ。ソロンよ、アテネが戦争に優れただけでなく、どんな地域よりも優れた法律によって抜きん出た都市となった今がまさに、すべてを破壊する巨大な洪水がやってくるそのときなのだ。アテネの業績と社会行政は、私たちが伝え聞いてきたなかでも天下一というほどに優れたものと言われているのだ』




*1:私訳者コメント:この対話篇は年に一度のアテネの祭典でおこなわれたものという説がある


*2:原註:アパトゥリア祭はイオニア地方のお祭りで、毎年10月から11月の間にアテネで開催される。祭りの三日目に子どもたちによる発表会がとりおこなわれた


*3:私訳者コメント:原文はAmynander。Amynander - Wikipedia, the free encyclopediaにはAmynandrosともあった。日本語表記に自信なし


*4:原註:フォロネウスとニオベーは河の神イナキュスの子どもたち。古代の作家はフォロネウスを「最初の人間」と見なしていた。デウカリオンとピュラは、この当時最も近かった洪水の生存者。年老いた神官の返答は、ソロンの神話的説明と古代の出来事の系譜学的な試算に対する、歴史的・科学的説明を伴った異議となる。





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