友人が面白いと言っていたのを聞き、20世紀に活躍した作庭家、重森三玲(しげもり・みれい)の展覧会へ。美術館での展示ですので、彼が設計した庭を持ってくるわけにはいかず、彼の手による書や水墨画のほかは、原寸模型や写真、映像が中心に見ることができます。よって、作品を鑑賞する展覧会、というよりは、重森三玲という人物紹介のようでしたが、それでもなかなか。「三玲って、あの落ち葉拾いのミレーですか?」と冗談めかして友人に訊ねると「そうそう、自分で改名して画家のミレーの名前をもらってるんだよね。で、子どもの名前もカントとか、ユーゴーとかゲーテとかつけてた、っていう」と教えられ「なにそれ、内田春菊みたいじゃないっすか」と驚いたんですが、そうした面白エピソードばかりではなく、庭という日本の思想を西洋美術の俎上にあげたうえで、日本の庭を再度考えた人だったのでは、という点を大変興味深いと思いました。彼の代表作のひとつ、小市松の庭の市松模様にしたってモダニズムの意匠を感じさせるもの。重森は作庭だけではなく、全国のさまざまな庭園を調査し、実測をおこなった大研究書も手がけている。この分類と分析の手法もまた西洋近代の知の様式にならったものでしょう。そうした知の営みから、再度、日本の美と自然が作り込まれている。それは単に自然の再現ではないはず。展覧会の会場で流れていた音楽は、細野晴臣によるアンビエントでしたが、この庭にもっともマッチする音楽は、武満徹だったのでは、と思いました。《鳥は星形の庭に降りる》ですからね、何と言っても。重森の研究対象に、西洋の庭園が入っていたかはわかりません。ルネサンス時代の庭園には百科全書的空間として設計されたものがあるそうですが、日本の庭にも庭の風景が和歌とひもづけられたものがあるんだとか。こうした庭のなかに存在するミクロコスモスがモダンにおいて、どう変化したのか、そうしたところにも興味を持ちました。例えば、それまでに配置された知が排除され、美へと統合される(美が目的化される)ことがあったのでは、とか。
進士 五十八
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ミュージアム・ショップで購入した本。これで勉強したら庭を見るために旅行したくなります。
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