出演
大友良英 (G、ターンテーブル)
佐藤芳明 (アコーディオン/委嘱新作作曲)
Sachiko M (サインウェイブ)
林正樹 (Pf、プリペアド・ピアノ)
鈴木広志 (Sax、Fl、チャイニーズ・シンバル)
曲目アストル・ピアソラ:孤独の歳月 ver.1
大友良英:ケージ・ゼロ・アワー(新作)
ジョン・ケージ:心象風景第1番
廣瀬量平:フルートのための讃歌
廣瀬量平:フルートのための讃歌(大友良英編曲バージョン『言_夫_夫_貝_可_可_欠』)
アストル・ピアソラ:天使の死
ジョン・ケージ:フォンタナミックス
佐藤芳明:籠の隙間(新作)
アストル・ピアソラ:孤独の歳月 ver. 2
みなとみらいホール主催の現代音楽シリーズ「Just Composed in Yokohama」に大友良英が登場。このシリーズの存在自体初めて知ったのだが、過去の記録を見てみると現代音楽の若手作曲家たちの名前に混じって、沢田穣治(ショーロ・クラブ)や、佐藤允彦、青柳拓次(LITTLE CREATURES)などポップスやジャズの領域からも委嘱作曲家が選ばれているのが興味深い(悪く言えば、節操がない、とも言えるだろう)。今年の委嘱作曲家は、アコーディオン奏者の佐藤芳明だが、コンサート全体をプロデュースしていたのが大友良英だった、ということか。ピアソラとケージ。このテーマもまた節操がない感じではあるのだが、大友良英のまた新しい一面に触れることができる演奏会だった。なお、日本でこうした現代音楽のステージにあがったのは今回が初めてだったとのこと。これは意外。
大友と共演したミュージシャンもまた珍しい組み合わせ。Salle Gaveau(林正樹、佐藤)に、チャンチキトルネエド(鈴木広志)はそれぞれ大友とは違ったフィールドで、リスナー層もかぶっていそうでギリギリかぶっていないところで活動しているミュージシャンと言える。それぞれ、NHKドラマ『白洲次郎』のサントラや、すみだ川アートプロジェクト2011「アンサンブルズ・パレード/すみだ川音楽解放区」で大友と共演をしているが、佐藤と鈴木は頻繁に共演し続けている関係、そしてチャンチキトルネエドはアサヒビールや横浜市主催の文化イベントによく出演している関係など、どこかで接点を持ちつつも「出逢うことのなかったミュージシャン」が一同に会してしまった、という意味ではテーマと共鳴しているのである。たまたま、だろうけれども。鈴木広志はサックスにフルートに、シンバルに……と大活躍。フルートは副科だったんでしょうか、失礼ながら、普通に聴けてしまって、ゲーダイすげえ、と思いました。
演奏会のなかで最も大友色が強かったのは新作《ケージ・ゼロ・アワー》だろう。ピアソラの楽曲を分解し、断片的な譜面に書き起したうえで、大友が近年かなり注力している即興オーケストラでの指揮法(ジョン・ゾーンのコブラをアレンジしたオペレーション)によって演奏されたこの楽曲からは、大友良英という音楽家にまつわるいくつかのキーワードを受け取ることができた。作曲、即興、分解、再構築、引用。グラウンド・ゼロであったり、あるいは大友良英ニュー・ジャズ・オーケストラでのエリック・ドルフィーであったり、具体的な過去の音楽とそれらのキーワードを結びつけながら、改めて思ったのは、キーワードひとつに含まれたイメージの豊かさ、というか。
たとえば「即興」にしても、ケージの、ジャズの、ベイリーの……という風にまったく別の即興のあり方が存在していた。大友はそれらのあり方を参照しつつ、どれかひとつに寄りかかりすぎずに音を響かせているように思えた。そのスタイルがまたコラージュ的とも言えるのかも知れないが、コラージュのようにそれぞれの要素のつなぎ目が見えるのではなく、同時に響いている、というか……とここまで書きながら、前にも同じことを書いているような気がしてきている、と同時に、シュトックハウゼンの直観音楽《渡り鳥》を思い出した。この作品を私は昨年主催した《今夜はまるごとシュトックハウゼン》というイベントで聴いたのだが、シュトックハウゼンが直観音楽のなかで宇宙から授けられる天啓のごとき抽象的な比喩により従来の作曲技法から自由になろうとするやり方と、大友が身振りとルールによって即興オーケストラから自由を引き出すやり方には、なにか共鳴するものを感じてしまうのだった。
また、佐藤芳明の新作《籠の隙間》の演奏も素晴らしかった。「ケージ × ピアソラ」というお題で書かれたこの作品は、ピアソラらしきパートと、ケージらしきパートがクロスするように歩み寄り、そしてまた離れていく、という着想で書かれたという。ピアソラのパートは途中、何度も断ち切られるように中断し、そしてリスタートを繰り返す。ケージらしきパートはその間も音を鳴らしたまま。ケージらしきパートを担っていたのが、大友のターンテーブルと、Sachiko Mのサインウェイヴだったのだろう。ステージの向かって右側に大友、左側にSachiko Mというステレオ配置で広がる極上のインタープレイは、もはや名人芸の領域。タンゴの旋律とリズムのうえに重ねられたレイヤーを美しいと思った。
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