松平敬 / うたかた

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うたかた (Takashi Matsudaira - UTAKATA)
松平敬
ENZO Recordings (2012-05-20)
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日本の現代音楽を中心に、多岐にわたる活動によって注目を集めている歌手、松平敬のセカンド・アルバム。収録されている作品のうち、トマス・タリスの《40声のモテット》についてはデータ配信で発表された際に紹介しましたが、CDで聴けるようになったことが個人的には嬉しいです(PCとコンポを接続していないゆえ、これまではヘッドフォンでしか再生できなかった)。40声部の壮大なポリフォニーをすべてひとり多重録音で制作したこの驚異的な作品に改めて触れますと、ひとりサウンド・オブ・ウォール、とでも言いましょうか、空間を埋め尽くすようなサウンドスケープは、まるでマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』のごとしです。

前作『MONO=POLO』は、13世紀から21世紀におけるカノン形式の作品しばりというコンセプトがありましたが、今作は典礼儀式のたたずまいを備えながら、40声のモテット、グレゴリオ聖歌、現代日本の作曲家の無伴奏独唱曲が三位一体の関係を形成するというコンセプトがあるそうです。40声のモテットの手の込み具合は前述のとおりですが、残りのふたつの要素についても「普通のモノ」とは一風変わったアプローチがされている、と言えましょう。グレゴリオ聖歌に、打楽器を加え世俗的な音楽のように響かせたり、プサルテリーを加えたり、その旋律が元あった文脈から別なところへ移され、新しい生命を宿すような試みがなされている。


また、現代日本の作曲家の作品では、有馬純寿によるエレクトロニクス(歌手の声を電子的に変調した音声などが挿入される)との共演があり、単純な無伴奏独唱曲とは言えません。このなかでは、木下正道の《石をつむII》が無伴奏独唱曲という形式に近いでしょうか。宮沢賢治のふたつの短歌をもとに書かれたこの作品は、松平敬の声の良さをもっとも生々しく体験できるトラックになっていると思いました。曲の大部分が「い・し・を・つ・む」という言葉を分解したり、発音を変えたりして様々に響かせることに使われている。繰り返しのようでいて、前に発音された言葉(音)が、次に発音された言葉(音)と絡み合い、時間の多層性のようなものを感じさせてくれる。上手く表現できませんが、不思議に心に残る作品でした。

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