Jon McGinnis
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以前に巻頭言の翻訳や、第1章のまとめを書いていたアヴィセンナの概説本を読み終えました。以下改めて本書の目次をご紹介しておきます。
- Avicenna's Intellectual and Historical Milieu(アヴィセンナの知的・歴史的背景)
- Logic and Science(論理学と科学)
- Natural Science(自然科学)
- Psychology I: Soul and the Senses(認識論 I: 霊魂と感覚)
- Psychology II: Intellect(認識論 II: 知性)
- Metaphysics I: Theology(形而上学 I: 神学)
- Metaphysics II: Cosmology(形而上学 II: 宇宙論)
- Value Theory(価値理論)
- Medicine and the Life Sciences(薬学と生命科学)
- The Avicennan Heritage(アヴィセンナの遺産)
- Appendix 1-4(附録: アヴィセンナの哲学を階層化した図式)
本編およそ250ページ弱で振り返るアヴィセンナの業績の数々、一言であらわすならば「これ一冊でまるわかり! これがアヴィセンナだ!」といったところでしょうか。クニ坂本さんやアダム高橋さんも推薦の一冊ということで大変勉強になる本でした。
アリストテレス主義を継承し、イスラームにおけるファルサファの伝統のうえで独自に発展させた人物、そして中世のヨーロッパにアリストテレス主義を伝えるメディアでもあったこの10世紀末に産まれたとんでもなくエラい学者を本書はどのように扱っているのか。ここでは主に「アリストテレス主義をアヴィセンナはどう受け継ぎ、どう発展させたのか(アヴィセンナはどのようにアリストテレスと違うのか)」へとフォーカスしているのが特徴です。1章のまとめでもまず初めにイスラームの知的背景ではなく、ギリシャのアカデミアでおこなわれた学的伝統に触れていることを紹介しました(アカデミアでのカリキュラムは、イエズス会が設立したコレジオでも採用されるなど西洋のインテレクチュアル・ヒストリーを振り返る際も重要なものです)。このギリシャ起源の伝統とアヴィセンナの哲学がかなり細かく分析されていることで、読者はアヴィセンナ以前のアリストテレス主義と、アヴィセンナの哲学を同時に学ぶことができるでしょう。一粒で二度美味しい!
ラヴジョイ的な言葉で語るのであれば、アヴィセンナは典型的な「充満の理論」の人です。単一で永遠なる神によって、この世界は満たされている。彼にとってのアリストテレスは、神が充満する世界を秩序立てて理解するために導入された道具だったように思われます。世界はどのようにあるのか、そして人間はどのように世界を見ているのか。アリストテレスが広範な領域で業績を残したのにも、このような哲学的動機があったと推測されますが、アヴィセンナもこれを受け継ぐ者でしょう。アヴィセンナの業績を追っていくうえで個人的に面白かったのは、彼の知性論に光学的なアイデアが採用されているなど、アブストラクトな領域とコンクリートな領域が密接に関連しているところでした。この面白さは近代以降の哲学者が自分たちの仕事を「哲学的な領域」に限定しはじめる前に活躍した万能的知識人に共通するものかもしれません。
とはいえ、実際読んでみて一般向けに面白い本なのか、と問われると「ちょっとマニアックかなあ……」と答えたくなるのが正直なところ。中世から初期近代以前の西洋哲学史を勉強している学生さんであれば、まず読んでおいて損はないのでは、と思うのですが、それ以外の人にだったらホントに知的な探究心・好奇心から喜びを見いだせるタイプの方でないとキツそう。英文は基本的にリーダブルなものですし、説明も丁寧なのでTOEICで割と恥ずかしい点数を取っている私でも読めることには読めました(ただ、形而上学の章は、勉強不足でちょっとキツかった)。アヴィセンナの知性論を説明している箇所で、ゴードン警部やブルース・ウェインなど『バットマン』が例に出てくるなど、面白かったですよ。
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