ロバート クーヴァー
新潮社
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キッチンに広げられた記録用の紙とゲーム上の歴史をまとめた大量のノートのなかに、もうひとつの現実が浮かび上がるところに、ヘンリー・ダーガーやアール・ブリュットばりの際どさを感じる……と同時に、これってまったく現代アメリカ文学的だよね、とも思うのだった。ありえたかもしれない世界、もうひとつの別な現実。ピンチョンもエリクソンの小説でおなじみのテーマである。ヘンリー・ウォーが作った世界は、その世界で起こった悲劇と現実からの介入を受けることで崩壊しかかる。そこでヘンリーはもうひとつの現実を守るために現実から撤退してしまう(完全にあちら側の人間になってしまう)点は『競売ナンバー49の叫び』とも似ている。『ユニヴァーサル野球協会』が1968年、『競売ナンバー49の叫び』が1966年。60年代後半の新しいアメリカ文学ってこういう感じだったのかな。
この小説では、読み手をドキドキさせる緊迫した試合展開が冒頭から描かれているのだけれども、その試合が単なる箱庭的なゲームの世界の話であることが種明かしされていくときに、現実と虚構との落差をガツンと見せつけられるところが面白い。ヘンリー・ウォーもまた、それが自分の作った虚構の話であることを(途中までは)意識しているのだ。ユニヴァーサル野球協会が他人からどう見られるか、当然、ドン引きされるだろう、と彼にはわかっている。ゆえにユニヴァーサル野球協会はヘンリー・ウォーの秘密の世界でもある。秘密を他人に漏らすことが、自慰の最中に部屋のドアをあけられるほどの気まずさだ、というクーヴァーの描写は適切だ。他人には理解しがたいであろうコレクションや趣味をもつ人なら、そのナイーヴさに共感できると思う。この共感によって、別な世界がこちら側にグンと近づくのも良かった。
(残念ながら文庫も単行本も絶版。Amazonの中古価格は単行本のほうが手頃。2013年1月5日現在)
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