ブリア=サバラン
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ブリア=サヴァラン
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『美味礼讃』というタイトルだけで長いあいだ「古今東西の美味いモノについて昔の人がいろいろと書き連ねた本」を想像していたのだがちょっと違った。もともとのタイトルは『味覚の生理学』だそうで、著者ブリア=サヴァランが書き残したのは、食にまつわる諸々を学問的な態度によってつづったエッセイである。出版されたのは1825年。18世紀のフランスにおいて科学が社会的にどのような意味をもっていたのかは隠岐さや香さんの研究があり、ブリア=サヴァランもすでに現代と地続きに感じられる科学的な態度を身につけていたのでは、と想像される(彼のテキストには、コンドルセやラプラスといった著名な学者の名前も登場する)。味わいやにおいがどのように認識されるかを記述し、食に関係する感覚や物事を定義する部分を、おフランスのお上品なおエスプリ的なお楽しいお文章を期待して読むと面食らうことになるだろう。
一方、本書の面白さはそうした科学的なテキストと、さまざまな種類のテキストとが混ざっていることも本書の面白さだ。科学的なテキストのほかに、対話篇であったり、アフォリズムであったり、読者にモラルを諭す訓示めいたものやグルマンディーズの伝記やレシピ、社会時評まで言ってしまえば雑多である。こうしたところには当時の趣味のよい知識人が好き勝手書いてできた本とさえ感じるのだが、そこがなんとも奇書めいていてよい。この硬軟自在さこそがエスプリなのか(よくわかんないケド)。一応のところ、筆者は「美味学の理論的基礎の確立」と「グルマンディーズを、大食や無節操といった悪癖と区別する」という2つの大きな目的を、一部と二部に分かれた本書の「つなぎ」で説明しているのだが、本気で言っているのかどうか。いやしかし、こうした読める、けれども、よくわからないテキストこそが豊かなテキストと呼べるのでは、とも思うのである。目的がカッチリ決まっていては、それこそその目的に沿ってばかり読まれてしまうわけですし。
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