姉崎等(語り手)・片山龍峯(聞き書き) 『クマにあったらどうするか: アイヌ民族最後の狩人 姉崎等』

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クマにあったらどうするか: アイヌ民族最後の狩人 姉崎等 (ちくま文庫)
姉崎 等 片山 龍峯
筑摩書房
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私の友人に軽井沢で熊と遭遇した……! と大騒ぎして、後日確認したら大型の犬だった、というエピソードを持つ人がいるんだけれど、是非、その当事者にも読んでもらいたいタイトルの本。タイトルは「山で熊にあったらどうするか」のハウツー本みたいなのだが、主題はそれだけではない。熊の生態であったり、アイヌの信仰、山でのハンターの生活、猟犬の育て方、熊と人間との共存……など多岐にわたっていて、大変面白かった。

語り手の姉崎等さんは、アイヌのハンターで、2001年に銃を手放すまで65年以上に渡り猟銃を持って山に入り、狩りをおこなっていた(昨年90歳で亡くなっている)。生涯に60頭の熊を獲った、といってもこれが多い数字なのかどうかわからないけれど、曰く、並みのハンターが重ねられる数字ではないそうである。姉崎さんは、達人であり、伝説的なハンターだったのだ。

しかし「ひとりで山に入る」という彼のハンティング・スタイルは、集団で山に入るアイヌの伝統から外れている。屯田兵として北海道にやってきた父親と、アイヌの母親のあいだに生まれた彼は、周囲のハンターのなかに混ぜてもらえなかった。そうした差別を目の当たりにしながら、貧困から抜け出したい一心で、12歳から魚や山菜を取って生計を立ててきた。アイヌの伝統的狩猟法は、必死で周囲から盗んだものだったようだ。ひとりで山に入りはじめたのも、そうした事情によるものだ。そこで姉崎さんは、熊や鹿といった動物を観察することで、山歩きの方法や過ごし方を独自に会得していった、という。

この語りのなんと魅力的なことか……。よく超一流アスリートのインタヴューなんか読んでいると、見えている世界がスゴすぎてまったく理解できないが、とにかく面白い文章に出くわすことがあるけれど、姉崎さんの語りもそれに近いものがある。山での火の大切さであったり、食生活であったりは、都市に住む人間のライフスタイルとはまるで別世界のものだった。この語りの魅力には、その超人的な能力だけではなく、姉崎さんが観察した物事によってアイヌの信仰と実証していくような、マージナルな立場にいた人ならではの視点があると思う。

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