リチャード・パワーズ 『舞踏会へ向かう三人の農夫』

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舞踏会へ向かう三人の農夫
リチャード パワーズ
みすず書房
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パワーズを読むのは初めてだったが、これがデビュー作だったとは驚かされた。20世紀前半に起きたふたつの世界大戦(のうち最初のほうがメイン)と、大量生産時代(フォーディズム)そしてその象徴的人物であるヘンリー・フォードの奇想じみた平和活動(とその失望)、ヴァルター・ベンヤミンの写真論・芸術論……さまざまな要素が、ドイツの写真家、アウグスト・ザンダーの有名な作品から出発し、そして無数に張り巡らされた伏線の数々が、一気に回収されると同時に、少しずつズレながら像を結んでいく。筆者は、本書のなかで流れる3つの大きな物語の流れの交差ポイントを、意図的にズラして書いているのだ。

物語が解決に進んで行くエネルギーは気持ち良い読後感を与えてくれもするし、ガチガチに構築された世界観を提示しながらおこなわれる世界像のズラしは、本書を解釈する可能性を読者に放り投げている。本来、テクストを読むという行為自体に、無数の読みがあり得る、ということを改めて考えさせられるけれども、この小説はあたかも、テクスト自体が一意に決定されていないようにも読める。校訂する余地が残った古いテクストみたいに。パズル的なものだ、と言ってしまうと途端につまらなくなってしまうが。

……というようなことを考えていたら「うーん、スゴい本だけれども、スティーヴ・エリクソンのほうがすごくない? 『夜の時計の旅』のほうが……」というしょうもない感想から、少し違った捉え方ができるようになってきた。エリクソンやピンチョンが好きなら、パワーズも読めるだろうな、と思うし、この3人だったらパワーズが一番読みやすいのかな。

フォードが第一次世界大戦のときに、戦争を止めさせるための使者たちを乗せた平和船を出して、自分も乗ってた、とか「え、マジで?」っていうような史実を拾い上げたり、サラ・ベルナール(フランスの伝説的女優)がマルヌ会戦へ兵士をタクシーで輸送する大作戦の現場に出くわす(こっちは史実かどうか不明)シーンだとかはとても面白く読んだ。

いまページを適当にめくってたら、サラ・ベルナールのセリフにホルクハイマーとアドルノの言葉(『啓蒙の弁証法』)を引用していると思わしきものがあったりして「そんなこと言わないだろう……!」と突っ込みたくなるものもあるが、こうして史実を捻じ曲げて見せるやり方もとても上手い。

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