ウィリアム エチクソン
ヴィノテーク
売り上げランキング: 819,743
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ボルドー左岸(保守的な方)とボルドー右岸(革新的な方)でのワイン作り、それからボルドーのメイン地域からは少し離れたソーテルヌという貴腐ワインの産地でのお家騒動が本書の中心である。ダメだった時期の話からすると、左岸(マルゴーとかあるとこ)は、もう格付けと伝統を鼻にかけて、高いばっかりでマズいワインを作ってダメになっていったんだって。無理くりブドウの収穫量を増やしたりして。それでもブランド力があるから売れていた。
一方で右岸。こっちは元々、大量に収穫して大量にワインを作って安く売るという商売をしていた。ブランド力があるのはペトリュスぐらい。当然畑も安かったわけ。そこに新進の醸造家が入ってきて、小規模で革新的なワイン作りを始めたことで、ボルドーは復活を遂げた、というのが本書のメインストーリーのひとつである。右岸の新進醸造家は「ガレージスト」と呼ばれている。彼らは、その名の通り、ガレージのような小さな蔵でワイン作りをしている。どういうことをやっているか、というと、とにかくブドウの収穫量を少なくして、ブドウの一粒一粒を凝縮させる。あるいは、発酵槽に伝統的な木やコンクリートでできた桶ではなくステンレスタンクを用いた。こうして作られたガレージ・ワインは、濃厚で、アルコール度数が高く、強烈な個性を放っている。
本書は、作り手のことだけじゃなく、流通関係者にもスポットをあてて、ワインの値段がどのように決まるのかを教えてくれる。そして、ワインの値段にはロバート・パーカーというワイン評論家の存在が大きく関わっている(というのが本書の見立てだ。ワインの評価はコイツが全部決めちゃってるんだ、ぐらいの位置付け)。酒屋にいったら「パーカー・ポイント 96点! 驚異のコスト・パフォーマンス」とか書かれた札がくっついたボトルがいくつも見られるから、パーカーの名前を知っている人も多いと思う。
わたしももちろん知ってたんだけど、その来歴については本書で初めて知ったのだった。ワイン雑誌でレビュー書いている人なのかと勝手に思ってたんだけど、スポンサーなしで全部自前でワインを買って飲んで点数をつけて、会員向けに冊子を送る、というワイン版『週刊金曜日』みたいな人なんだって。彼のワインにかける情熱も詳しく書かれているんだが、なかなか maniac というか、すげえ、という感想が端的に浮かぶ。
この人は、みんながマズいって言ってたワインをひとりだけ「いや、これは旨いよ」とか言ったりして注目を浴びるなどの、いろいろ経緯があって、ワインの値段を左右するような影響力を持つようになった。で、ボルドー右岸のガレージストの話に戻ると、パーカーが右岸のガレージストをいち早く「すげえ!」と言ったから、ガレージストすげえ、みたいな感じになった、ということらしい(なので、右岸のガレージストはみんなパーカー好みの濃厚で個性的なワインを作るようになって、画一化してるんじゃないの? という批判もある)。
なお、左岸の復活に関しては、前述の投資家のビッグマネーがドジャーッと入ってきて、ブランドの立て直しみたいなことが盛んに行われていた。ソーテルヌのお家騒動でも、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)がでてきたりして、お金をめぐるかなりエグい話が取り上げられている。右岸にしても、左岸しても「グローバル経済によって、伝統が揺さぶられて〜」みたいなまとめが思い浮かぶけれど、筆者の見方はちょっと変わっている。歴史的に見るとボルドーワインはイギリスで主に消費されてたんだから、元々グローバル経済で商売をしていたのだ、と筆者は言う。それが加速してるだけなんだ、と。
や、でも、スゴいよね。畑が投資の対象になったりさ。日本酒だったらそんなのないじゃない。ウィスキーでもそう。やっぱり穀物みたいに安定した収穫量があって、品質にブレがないであろうものから作られるお酒では、こういう世界は生まれないんだと思う。ワインの世界の奥深さをまたひとつ垣間見てしまったよ……。
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