ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ『トランス=アトランティック』(西成彦訳)

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トランス=アトランティック (文学の冒険シリーズ)
ヴィトルド ゴンブローヴィッチ
国書刊行会
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 中原昌也が帯に「壮絶な面白さ!」と寄せているので気になっていた本。アマゾンのレビューでは著名な評論家/翻訳家/野村マンの方が辛辣な言葉で低評価をされていましてたが、面白く読んだ。ゴンブロヴィッチがアルゼンチン滞在中にナチス・ドイツによるポーランド侵攻があり、第二次世界大戦が勃発、亡命を余儀なくされた作家による亡命生活記……のようなはじまりに見せかけて、バカ話の蓄積によって物語が進行していき、ワルプルギスの夜的な狂気の訪れによって幕を閉じる――という大変な作品であると思う。


 なにより誇りを重んじる古いヨーロッパ気質を持った(作家と同じ祖国を持った)老人や、アルゼンチンのインテリ作家の登場は、執筆当時の状況への社会風刺ともなっているそうなのだが、こういったところはかなりどうでも良い。ただ、そこで風刺を荒らした登場人物が、物語の語り手兼登場人物である作家には全く理解できない存在として描かれている点が面白かった。主人公の前に立つ奇妙な人々は、まるで彼岸に立った他者であり、これらの他者との関わり合いのなかから居場所の無い亡命知識人の立ち位置のようなものが見えてくるように思う。


 作家は、アルゼンチンの人々はもとより、自分と同じく祖国を失い「他者の国」へと留まらざるを得なくなった人々にも馴染むことができない。さらに次々に起こるキチガイ沙汰のような事件の連続に翻弄され、作家は急速に主体性を失っていく……。こういった視点から作品を捉えてみると、これが実に近代的性格を持ったオーソドックスものにさえ感じてしまった。



注がれたのは燗をしたビール。ビールはビールだがたぶんワインで味を整えてある。そしてチーズもどき。チーズはチーズだが、とてもチーズとは思えない。パテだってレヤーケーキが如し。表面に編目模様の焦げめがついているブレッツェル。それともマジパンか?いや、マジパンではなくピスタチオにも見える、本当はレバーペーストなのに。



 こういう描写が堪らなく好きだ。





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